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どこ住み? てかラインやってますの?


 初めて見せてくれた明確な反応に少しだけ心が躍ってしまいましたが、すぐさま気を引き締め直します。


 まだ浮かれるようなタイミングではございませんのよ。

 というより始まってもおりませんのに。



「あなたが、行方不明の、伝説のブルーさんだって、そう言ってるのですか……?」


「ええ、間違いなく。もちろん偽物ではありませんの。もう装置がないから変身は出来ませんけど、まだ疑わしいのなら決めポーズくらいは見せて差し上げてもよろしくってよ?」


「あ、いえ、それは結構です」


 ちょっと、それどういう意味で言ってますの?

 もはや少女とは到底呼べない女の決めポーズは見苦しいと?


 あの頃のあどけなさや純真さは忘れてしまいましたが、まだ見た目的にはギリギリイケると思っておりますのっ!


 私だって恥ずかしいから出来ればしたくはないのです。

 この心持ち、どなたか分かってくださいな。


 っていうか伝説になってましたのね、私の存在。

 正直初めて聞きましたの。



「どうしてブルーさんがこんなところに……。もしかして、あなたも捕らえられて?」


「私の話は後にいたしましょう? それより、貴女のお名前を」


「…………わかりました」


 ほほーん、私のネームバリューったら半端ねぇですわね。

 深夜のドライブスルーくらいすんなり行きましたの。

 ついぞ利用したことはありませんけど。


 やたらと重かった彼女の口がついに開かれます。



「私は花園桃香(ハナゾノモモカ)と言います」


「ふぅむ。花園さんね。覚えましたの。魔法少女歴は何年ですの? どこ住み? てかラインやってますの?」


「え、あ、今時やってない人の方が少ないと思いますが……」


「え、ええ、あ、そうでしょうね」


 どうしましょう。無知がバレてしまいますの。

 冗談に真顔で答えないでくださいまし。ラインは私の方がやっていないので教えていただかなくて結構ですの。


 といいますのも、私たちは外部との連絡を取れるものは何一つとしえ支給されておりません。


 この施設に連れ込まれた際も所持していたものは全て破棄されておりますし。徹底した情報漏洩防止にビックリですの。


 もし世の情勢を知りたかったら総統か怪人さん方に言伝てで聞くくらいでしょうか。


 あくまで雑談程度の話題であって、大した話題は出てきませんけれども。


 もし流行りのものは嫌いかね? と尋ねられても単純に困ってしまいます。今の流行りが分かりませんもの。



「こっほん。それでは、魔法少女歴の方を」


 使いもしない情報なんかよりも結社のためになるモノを集めましょう。私だってそっちの方が断然気になりますの。


 無垢なお子さまのようなお顔で、少しずつ言葉をお紡ぎなさいます。



「えっと、魔法少女歴は……まだ半年くらいですかね。直近の先輩ヒーローたちが別の長期任務に出ちゃってたらしくて、それで見習いだった私たちが急遽巡回まで任されるようになって……そしたら……捕まっちゃって……」


「あら、それは不運でしたわね。つまりはほとんど連合本部の決定のせいってわけですの。いつもいつもアイツらって急にしか連絡を寄越さないくせに、自分らは中々動きませんし。

私たちにだって色々と予定がありますのにねー。あ、ちなみにアナタ、本部の場所ってご存知?」


「いえ、そこまでは……っていうか、知ってても教えるわけないじゃないですか!」


「ふぅむ。残念ですの」


 話の流れでべらべらと話してくださるかと思いましたが、そこまでお馬鹿さんではないようです。


 今更気を緩めないようムキーっと警戒色を露わにしちゃって、健気で可愛らしい子ですの。


 しかし、これで分かりましたわね。


 概ね総統さんの予想通り、この子はそこまでメインを張っている子ではなさそうなのです。


 せいぜい捕らえられても構わない程度の捨て駒か、よくて街一つを守る程度か。大して重要な情報は持っていないとお見受けいたします。


 このまま引き出し続けてもロクな情報は出てこないものと思われますが、もう少し続けてみます? それとも……。


 腕組み首を傾げて悩んでおりましたところ。



 ……ん? 何なんですのそのお顔は。



「……なんか私ばっかり答えて、ズルい気がします」


 ムスッと頬を膨らませて不機嫌そうな顔を向けてきています。ええと花園さん、貴女何か勘違いしていませんかしら。



「自分の立場を分かっていらして? 貴女は捕虜ですのよ?

態度によっては即処分して差し上げてもよろしいところを、まだ利用価値があるからお口を自由にさせてあげているだけに過ぎませんの。

もう少しばかり素直になってくだされば、お身体の自由も考えて差し上げてもよろしいのですけれども」


「でもブルーさん、私が名前を話したら、お話聞かせてくれるって言ったのに……。伝説のブルーさんのお話、絶対絶対、聞きたかったなぁって……」


「ぐぬ、ぐぬぬぬぬぬ……」


 このコムスメ、私の承認欲求に的確なジャブやらフックやらを入れてきますわね。


 油断したら即座に顎をやられてしまいそうです。


 うっ。今まさにきゅるるぅんとした瞳がこちらに向けられておりますの。何ともやりづらい……っ!



「あーあっ。伝説のブルーさんって、簡単に約束破るような、そんなつまらない人だったんですねー……。私、ブルーさんに憧れて魔法少女になったっていうのに、かなーり幻滅でかなーりガッカリだなぁ。ちらっ」


「ままままぁいいですのッ!! マジめにガチめに特別ですのッ! 偉大かつ寛大なる私が何でも答えて差し上げますのッ! けれども一つだけですのッ! さぁほらッ!」


 くっ。隣のローパー怪人さんが蔑んだ目をこちらに向けてきておりますがこの際ですから関係ありませんの。


 ここまで期待されてしまって何も返さないのは私のプライドが許しません。


 べ、別にチョロくなんてありませんの。

 これは真っ当なファン対応なのです。

 そしてまた自己精神の正当防衛なのでございます!



「……いえ、やっぱりいいです。ちょっと出しゃばりすぎちゃいました。反省しますね」


「別に反省しなくて構いませんのッ!!

どんな些細な内容でもよろしいのですからッ!!!

ほらほらッ! ほらぁッ!!!」


 檻を掴んでグワングワンと揺らして差し上げます。

 この私をここまで興奮させたのです。

 その責任を取ってくださいましぃッ!


「なら、ここから脱出する方法は?」


「……あ、えっと、それはお答えできないといいますか、正確には私もホントに存じ上げない内容といいますか。

ですので、可能であれば他の質問にしていただけますと……」


「ふーん。ブルーさんって案外大したことないんですね」


「ぐぬ、ぬぬぬぬぬ……ッ!」


 この娘のッ! この小娘の喉元に鋭利な刃を突き立てて、気持ち良くグサッと一発入れてやりたい欲が半端ないのです……ッ!


 けれども私はもうオトナの女性ですの……!

 ここはあえて落ち着きを見せ付けて差し上げなければ……!


 年上の女の粛々たる姿を見せてやらねば、プライド以前に言い負かされてしまったような気がするんですのぉ……ッ!


 抑えなさいまし、抑えますのよ、蒼井美麗……っ!



「……ぷふっ」


 くすっというこぼれ笑いが私の耳に届きました。


「はぁ。分かりましたよ。今の質問はやめてあげます。なーんか、私が思ってたよりもブルーさんってお茶目な方だったんですね。もっと厳粛で厳しい方だって聞いてましたので拍子抜けしちゃいました」


「はぇっ?」


 何故でしょうか。少し安心したような、けれど同時に困ったかような笑いを向けてきます。



「むっ。厳粛だったかどうかは……私自身にも分かりませんの」


 確かに過去の私はいわゆる真面目ちゃんでございました。

 今の方が以前よりずっと自由に生きられております。


 しかし、根底自体は変わっていないと思いますの。


 こんなことを赤の他人さんに言われる筋合いはございませんが、以前はどんな風に見られていたのか、そんな言い方されたらちょっとだけ気になってしまいますわね。


 でも、なんでしょうね。


 この子ともう少しお話を続けたくなってしまいましたの。

 ヒーロー連合への恨みとか、魔法少女への憐れみとかは関係なく。


 蒼井美麗として、花園桃香さんと対話してみたいのです。



「連合側に不都合なことは伏せていても構いませんの。貴女のこと、そして貴女から見た私のこと、もう少しだけ教えてくださいませんこと?」


「……はい。別に、それくらいならいいですよ」


 他の人から見た私の姿は他の人にしか分かりませんの。


 桃色髪の少女の口から、私の過去の断片が、今まさに紡がれようとしているのでございます。


 

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