あらやだ、とってもエロ可愛らしい【設定絵資料有り】
「そうだな。口で説明するより実際にやってもらった方が早いだろう」
「あらあ……いえ、なんでもありませんの。お続けくださいまし」
コホン。あらあらそこまで仰るのなら身体でイチからご説明いただいてもよろしくてよ、と反射的に口走りそうになってしまいました。
ハッと我に返ってお口にチャックをいたします。ここで新たな話題を切り出したらまた話の腰を折ってしまいますからね。私は空気の読める女でありたいんですの。
「よし。それじゃブルー、もう一度ブローチに手を添えて変身文句を唱えてみろ。今度は〝黒〟をイメージして、だ」
「黒ですの? 色の?」
「おう。そんで強くて鋭くてカッコいい感じを想像してもらえると尚良し。多分驚くぞ」
「ふぅむ……よく分かりませんが分かりましたの。やってみましょう」
とりあえず邪魔なステッキを床に置きます。
私の身体から離したせいなのか、床に転がした途端に黒い光の粒となって消え失せてしまいました。どうやら杖はあくまでオプション扱いらしいんですの。常設のままずっとキープしておける代物ではないようですわね。
というよりも、このプリズムブルーの格好自体があくまで見た目をコピーしただけのお粗末なモノで、ただのコスプレ用の衣装に過ぎない感じなのだと思われます。
確かに見た目はそっくりなのですが、性能面については一切本物を踏襲していない感覚があるのです。
ずっと着ていたから分かりますの。適合率云々による身体能力の向上が少しも反映されていないようなのです。
どんなに身体を動かしても、運動神経が良くなっているだとか力が強くなっているだとか、そういったメリットは全く感じられません。
むしろ動きにくくてボリューミーで妙に悪目立ちするフリフリ衣装を見に纏うだけです。実用性はマイナスの極みに振り切ってしまっているのです。
ということは。
正式運用版には熱い期待を抱いてもよろしいのでしょうか。
求めるべくは総統さんの自信の程をこれでもかと言わんばかりに反映させたモノですの。思わずアッと驚くてしまうような出来栄えになっていらっしゃると嬉しいんですけれども……!
「……では、改めまして、まいります」
再度胸のブローチに手をかざします。
柔らかく握りしめながら、そのままゆっくりと瞳を閉じました。
瞼の裏に思い浮かべるのはどこまでも広がるような黒一色の世界です。寒くて孤独感を感じるような冷たいモノでは無く、弱った私たちを受け入れてくださった圧倒的な包容力をじんわりとイメージし続けます。
総統さんが、カッコいい黒をと仰っておりました。
私にとってのカッコよさとは誰かを傷付ける為の対外的な強さではありません。大切な人を守り抜くための内的な強さについてを指しますの。
決意、信念、覚悟、情熱……!
今でこそ燻りかけておりますが、実は私の中では何一つとして変わってはおりません。
強いて言うならコレらに加えて燃えたぎるような情愛と、内から絶えず沸き出でてくる甘く切ない肉欲が私の感情を支配しているだけなのです。避けるつもりも止めるつもりもありません。ただ毎日のように愛を確かめ合いたいのですから。
「……偽装 - disguise -」
おっといけませんわね。つい邪念が混ざり込んでしまいました。装置の再起動に集中いたしましょう。
じっと黙って待っておりますと、プリズムブルーの衣装が泥状にドロリと溶け出していくのが分かりました。次第に私の身体全体を繭状に包み込んでいきます。
ほんのりと温かなドロドロが、私の心と体を揉みほぐすかのようにぐにぐにと蠢いておりますの。
先程とは明らかに違う挙動をしております。表面にただ纏わりつくだけでなく、何と言いますか、私の動線を妨げないような形を、この粘体自身が模索し試しているかのような動きをしているのです。
意志を持った黒いナニカが、今まさに私の体型にあった衣装を形成しようと躍起になっている感じですの。
ドロドロの繭の内側で、少しずつ衣服の形が再形成されていきました。プリズムブルーのふわふわなドレススカートというよりも、コレは……? この質感はむしろ……ピチピチの、タイツ、なんですの……?
それになんだか妙に足元がフラつき始めました。さっきよりも床の安定感を感じられなくなったような……?
「聞こえるか。今から紡がれるのはお前だけの〝新しい衣装〟だ。きっとブルーの力になってくれる」
まだ姿こそ見えはいたしませんが、すぐ正面から総統さんのお声が耳に届いてまいります。
腕、脚先、胸元。ここらには確かに布地を感じるのですが、時間が経つにつれ、肩周りにあったドロドロは背中に、お腹に付いていたはずのゲチョゲチョは腰の方に移動しておりました。
コレ、間違いなくおへそが剥き出しです。ひんやりとした外気をダイレクトに感じてしまっておりますの。
更にしばらく待っておりますと、顔を覆っていた粘体が頭頂部に昇っていきました。ようやく視界がクリアになってまいります。
なるほど、足元の不安定感は靴のせいでしたか。エナメル質のようなテカリのあるハイヒールが生成されておりますの。こんなに鋭利なカカトで踏んづけられたら痛そうです。怪しく黒光りする先端に、ついつい被虐心を刺激させられてしまいます。
続きまして、スラリと伸びる両脚にはツヤツヤの黒タイツがぴっちりと張り付いておりました。その上の腰回りには――これはスカートのつもりなのでしょうか。ちょうど股の前だけに布が無いせいか、デリケートなトライアングルゾーンが丸見えですの。
その直上のお腹には……ほらやっぱり! 布の一枚もありません。キュートなおへそが直にこんにちはしてしまっているのです。
「……露出が……スゴいですわね……!」
お腹どころか背中にも肩にも布が見当たらないんですの! 今私の身体を守っているのは超丈短の黒いタンクトップ一枚だけなのです。
胸周りだってそうですの。ゴールデンデリシャス級のお胸こそブローチとリボンでなんとか隠せておりますが、ちょっと破れただけでトップが露わになってしまいそうな危うさがございます。
と、とにかくスリルが満点な服装なんですの……!
背中のリボンはそのままのようですが、余計なヒラヒラのレース装飾は取り除かれておりまして、こちらもより鋭い印象を与えるような形となっております。オトナ感がアップです。
それでは総評にまいりましょうか。
ハイヒールも黒、スカートやリボンは暗青や群青をベースにほとんどが黒、おまけにいつの間にか手に握られていたステッキまで真っ黒と、全てが黒を基調としたオトナな女性感のある衣装に仕上がっておりますの。
「ほい、鏡。よかったら使ってくれ」
「あら、わざわざすみませんの」
いつの間にやらご用意されていた手鏡を受け取りまして、そこに映った姿を確認いたします。
あらやだ、とってもエロ可愛らしい。
誰ですのこの美少女は。
何を隠そうこの私、蒼井美麗ちゃんですの。
実際に全体像を見てみますと、プリズムブルーよりも格段に布地が少ないのが分かります。より身軽に、そしてより過激な見た目になっているかと思いますの。
かつてのプリズムブルーが〝お姫様〟をモチーフにしていたとしたら、こちらの衣装は〝女王様〟をイメージしてデザインされたのだと言えそうです。
そしてなによりも、さっきのコスプレ衣装とは決定的に異なる点がございます。
単なる見た目だけの話ではございません。
「あの、なんだか力が湧いてくるんですの……! これは魔法少女の頃の……いえ、それ以上に強くて、はっきりとした……! とにかくしっくり馴染んでくれそうな力なんですの……ッ!?」
「凄いだろ。着ているだけで装備者の身体能力を高めてくれる優れ物な装置さ。お前の為だけに調整された世界に二つとない特注品だ。これが弊社の開発班の結晶、記念すべき正式運用版第一号の実力ってわけだ」
「ほえー……!」
沸き上がるパワーに今なら空も飛べそうです。さすがに誇張表現ではありますが、かつての全盛期のように屋根伝いに跳んで長距離移動できそうなくらいには身体が軽く感じるのです。
悔しいですが、連合側の言葉を借りるならおそらくは適合率90%超え……いえ、確実にそれ以上のポテンシャルが秘められていると思います。
今は着たてなので上手く引き出せていないかもしれませんが、ちょっと慣れればすぐに94%に、それどころか前人未到の100%に至ることだって夢ではないかもしれません。
「気に入ったか? その姿にも名前を付けてやらないとな。いつまでも連合側の〝魔法少女プリズムブルー〟っつー呼び方もなんだか癪だろ?」
「……ええ。確かにそう思いますの。それに私は少女と呼ぶには歳を取りすぎてしまいましたし」
十八歳はもう成人です。子供ではありません。少なくとも少女と呼べるようなピュアな存在ではなくなってしまったのは事実なのです。
慰安要員としてしっぽりと毎日を過ごしている私には、魔法少女は眩しすぎる呼称なんですの。暗くて狭いアンダーグラウンドで生きる今の私に相応しい名前は、えーっと……えっと……。
頭をフル回転させて必死に思考を巡らせます。