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痛みの向こう側に見えた確かな悦び……!

 


「…………ふぁぁ……あふ……?」


 言い表しようのない不快感によって目が覚めました。

どうしてか私の体は一ミリたりとも動いてくださいません。金縛りを疑ってみましたがそういうわけでもなさそうです。


 とにかくまずは首から持ち上げようと試みましたが、それすらも叶いませんの。



「うぇぇえぇえ……なんですのこれぇ……」


 私の体を支配していたのは痛みでした。体の至る所に鈍重な筋肉痛が残っているのです。


 普段は全く使わない部位を軒並み働かせたせいか、全身の筋肉たちが一斉に休暇を取っている感じです。三連休でようやく回復するレベルですの。


「ぁぁぁあ……痛い痛い痛いんですのぉ……」


 昨晩の記憶は朧げに覚えております。朝方の方は己の欲を解放しすぎて、半ば野獣と化してしまっていたかもしれません。


 一晩中総統さんがもたらしてくれる数多の悦びを享受するうちに、私の心も身体もドロッドロに溶かされてしまったと言うべきか……欲求に従順な牝になっていたと言うべきか……本当に恐ろしい体験をいたしましたの。


 端的に言って最高でしたけれども。



 ただ、こうやって朝になって昨夜のことを思い出すと顔から火が出てしまいそうです。何重にも積み重なった恥ずかしさが今になって舞い降りてきてしまいました。


 過ぎてしまったことは仕方ないと自覚しておりますが、それにしたってあんなハシタない言葉をつらつらと……ッ!


 顔を覆おうにも痛くて手を動かせないのが悔しいですの。



「肩が……腰が……顎が……股がぁ……全く動かせませんのぉ……。自分の身体じゃ、ないみたいですのぉ……ひぐぇぇっ」


「いや顎は動かせてるだろ?」


 横から総統さんのお声が聞こえてまいりました。彼は既に起きていらっしゃるようです。そちらの方に首を向けたいのですがやはり体は言うことを聞いてくださいません。


「ふぅぅぇ……確かに今のは冗談ですのぉ……でも起き上がれないのはホントですのぉ……ケラケラ笑ってないでお助けくださいましぃ……」


 どこもかしこも身が裂けるように痛いのです。それでもってびりびりと痺れてますの。もう完全に目が覚めてしまいましたの。


 昨晩ノリノリになってしまったのは謝りますからぁ……痛覚の神様……どうかこの哀れな小娘を、無条件に許してくださいましぃ……。



 残念ながら私の悲痛な思いはどこの誰にも届きそうにありません。筋肉の強張りと下腹部にじんわりと残る甘い刺激が、昨夜の出来事が夢ではないのだと実感させに来るだけなのです。


 ああ。これは紛れもない現実……!

 痛みの向こう側に見えた確かな悦び……!

 ふふ。ついに私もオトナの階段を登ってしまいましたか。



「ブルー。昨日はよく頑張ったな。最高だったよ。初めてでアレなら絶対才能あるよお前」


「うぇえええ……なんだか嬉しくありませんの……でも私も満足してま……あ、それいいですの。もっともっと頭撫でてくださいましぃ」


 総統さんの手が私の頭に触れました。汗と液とでベタベタに張り付いた髪を手櫛で梳いてくださいます。


 貴方に触れられると痛みが和らぐ気がするのです。安心と信頼の撫で撫で最高ですの。



 この大きな手に、これからも愛され守られてしまうんですのね。ずっとずっとお側に居てくださるんですのね。


 この人にお仕えすれば、朝も昼も夕方も夜も、たくさんの愛を注いでいただけるんですのね……♡



 ズクン、と。

 散々味わったはずなのに、性懲りも無くまた下腹部の方が熱くなってしまいます。



「……うふふ……〝ご主人様〟ぁ……っ」


 つい口から思いが零れてしまいました。


「え、今なんて?」


「んもう。ちゃんと聞いててくださいまし。ご主人様って言ったんですのっ」


 単に総統さんでは余所余所しく感じてしまいますものね。これから貴方の庇護化に加えていただくのです。こちらとしてもそれ相応の呼び方でお応えいたしませんと。


 けれどどうしてでしょう。私のナイスチョイスな呼びかけに、何だか渋めなお顔をされておりますの。


 

「今までみたいに総統さんでいいよ小っ恥ずかしい。俺とお前は対等――とまでは流石に言わないけどさ。そこまで上下クッキリさせた関係は求めてないんだよなぁ」


 ガシガシと撫でる力を強くなさいます。


 ほほーん。あくまで紳士的を貫きなさるおつもりなんですのね。さすがは組織のトップたるお方ですの。それならば下々に位置する者の嘆願も聞いてくださいまし。



「……これは私なりのケジメですの。これから私たちが結社にお世話になる上で、貴方には格別な敬意を払わなければ気が済みませんの。

それ以外に他意はございませんからお許しくださいまし」


「……んまぁよく分からんけど、お前がそう呼びたいなら好きにしてくれ。別に、止めるほどのことでもないし」


「ふっふんっ。言質獲得ですのっ」



 もちろんイヤイヤではありませんからご心配なく。


 メイドさんが私のことをお嬢様と呼んで慕ってくださったように、これからは私が貴方のことをそう呼びたいんですの。

 別に彼の身の回りのお世話をしたりだとか、そういう求められていること以上の献身をするつもりはありません。


 ただ、なんとなく、護られている側としての自覚をしたかっただけ。全力で甘える為の言い訳が欲しかっただけ。ロールプレイを楽しみたくなっただけなのです。


 心の中では総統さんも使いますのでご心配なく。あくまでこれは体裁ですのっ。


 どうか私の戯れにお付き合いくださいまし。

 


 彼のゴツゴツした手が私の腰回りに触れました。何事かと一瞬身体を震わせてしまいましたが、まるで小さなクッションを摘み上げるように体ごと抱え上げてくださいます。


 さすがに第二ラウンドに突入できる体力は持ち合わせておりません……と身構えてしまいましたが、不安はすぐにどこかに飛んでいきました。


 その大きなお背中に乗せてくださったのです。


 どうせならおんぶではなくお姫様抱っこを所望したいところですが、それでは両手が塞がってしまって不便でしょう。また壁を破壊しながら歩くわけにもいきませんし。

 


「さ、風呂でも行こうぜ。汗かいたし」


「ほほーん、いいですわね。是非連れていってくださいまし。ゆっくりと湯船に浸かって、ゆったりと凝り固まった身体をほぐしたいですの〜」


「おうよ」


 辛うじて動く指先で肩をトントンといたします。出発進行の合図です。




 私の第二の人生は始まったばかりですの。

 自由を満喫しながら、今のうちは悦楽に身を沈めるのもそう悪くないような気もしております。


 もちろんのこと罪悪感が無いわけではありません。ですがそれ以上に背徳的な行為に心が震えてしまっているのも事実です。欲と甘美さに勝るものはありませんの。それを知ってしまいましたから。


 昨晩の経験によって、私にも色々と試してみたいことが生まれてしまいました。総統さんにお手伝いいただきながら、少しずつこの身と探究心の両方を満たしてまいりましょう。



 あ、でも……茜さんやメイドさんにまで矛先を向けられてしまったらどういたしましょうね。独占欲という観点とはまた別の問題です。


 彼女たちにまで無理強いさせるつもりはありませんし、嫌がるお二人に手を出すような方ではないでしょうし。こちらは成り行きに任せましょうか。



「うっふふぅのふ〜……ァ痛ッ」


 今は筋肉痛を少しでも収めるべく、総統さんの背に揺られることにいたしますの――

 





――――――

――――


――



 


これにてご褒美話の〝美麗の姫始め〟はおしまいです。


書いててホントに楽しかったな……。

なろうのギリギリを攻めたつもりでしたが

いかがだったでしょうか。まだイケる? おっけー!


……それでちょっと噂を耳にしたんだけどさ。

どうやらノクターン版にコレの完全版があるらしいね。

どこの誰が書いたんだろうね。ひゅーひゅー。


さてさて。それでは次ページより

改めて【外界編】がスタートいたします!

すぐにはお外にお散歩は行かないですけれどもっ……!




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