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けれど、もしもこの願いが叶うなら


 当初は無造作に伸びていた髪も今では短く丁寧に切り揃えられていらっしゃいます。初めてお会いした頃に近しい感じでしょうか。ヘアケアに精通している怪人さんもいらっしゃることですし、今は身の回りのことに困窮することはありません。


 健康そうな見た目にホッといたします。


 ツヤツヤと潤いに満ち溢れたお肌に、不幸なんて何一つ感じていなさそうな能天気なお顔に、ヘドロのように暗く濁りきった瞳に、あの頃と比べても1ミリとして大きくなっていないその身長と悲しげな胸回りに……。



「……私は、いつまでも貴女の味方ですのよ」


 自然とため息が零れてしまいます。


 これは只のため息ではございません。安心も信頼も感謝も後悔も、今までのありとあらゆる感情が入り混じった、特別な意味の込もったため息なんですの。


「さっきからどしたの? 怖い夢でも見た?」


「いえ、なんでもありませんわ。こっちの話ですの」


 確かに夢は見てまいりました。とても懐かしい夢であり、美しく儚い夢でもあり、酷く辛い夢でございました。


 けれども、夢は夢でしかありません。過去は未来にはなりませんの。現実の方が何倍も大切なのです。


 何事もなく過ごしていられる日常が大変嬉しくて、貴女と共に過ごせる毎日を手に入れられた喜びをつい実感しているのです。


 茜は先ほどから頭の上にはてなマークを浮かべていらっしゃいます。訳が分からないのも仕方がありませんでしょう。これは私の中だけで完結するお話なのでございます。


 貴女が元気そうで何よりですの。

 ただそれだけで充分なのです。


 今日くらいは貴女の温もりをダイレクトに感じさせていただいても罰は当たりませんわよね。またあのときのように、貴女の側で眠りたいんですの。



 ここ最近は目に余る自由っぷりにぞんざいに扱うことも多かったですが、離れ離れになっていた過去を振り返った今、少し考えを改めねばなりませんわね。貴女の無邪気さは素晴らしいことですの。そのまま伸び伸びと過ごして大きくなってくださいまし。


 つい姉のような気持ちになってしまいます。魔法少女になったばかりの頃は私の方が圧倒的に若輩者で、貴女に手助けしていただくことも多かったでしたのに。


 今では完全に立場が逆転してしまいました。


 経った月日が少しずつ関係性を変えたのか、欠落した記憶を補う為に自然とお互いがそう振る舞うようになったのか……私の口からは何も言えません。



「私、今から自室にてしばしの休憩をいただこうかと思っていたところなのですが……もしよろしければ、貴女もご一緒にいかがですの?」


「はえ!? 美麗ちゃんとお昼寝ってこと!?  

ホントにどうしちゃったの!?」


「するかしないか、さっさとお答えくださいまし」


「もちろんするする! ちょうど二度寝したいなーなんて思ってたところなんだよね! 昨日も夜更かししちゃったし!」


 いったいどなたのお部屋ででしょうね。いつものオークさんのところでしょうか。それにしてはお腹周りがスッキリしていらっしゃるようですの。まぁ詮索するだけ無意味なお話なんですけれども。


 二人横に並んで廊下を進みます。お手を繋いで先導して差し上げてもよろしいのですが、残念ながら私の自室はもう目と鼻の先にありますの。


 到着いたしまして、自室の扉を開きます。


 中は薄暗くて、変にだだっ広いだけの殺風景な空間です。中央に天蓋付きのダブルベッドと小さなサイドテーブルが設置されているだけで、他にはこれといって目立つような家具はございません。この施設にお世話になり始めた頃からほとんど変わっておりませんの。


 私も茜と同じように夜はどなたかのお部屋に遊びに行くことが多いからです。私物化できるようなモノも手に入れられませんし。そもそもあんまり必要性を感じておりませんし。



 あえてベッドに飛び込みます。この施設内に行動のはしたなさを叱る方はいらっしゃいません。


 バフンッと柔らかな音を立ててこの身を包み込んでくださいます。ホントに手入れのよく行き届いたベッドですの。ご主人様のお背中にぴったりフィットな高級品に違いありませんの。


 一歩後ろに控えていた茜も私の後に続きます。


 ベッドの弾力によって私よりも軽い体がふわりと宙に跳ね上がりました。


 何気なくけらけらと笑い合いまして、お互いに枕に顔を埋めます。このあとすぐ休眠に入りますからね。電気は灯さなくてもよろしいでしょう。

 


「あ、そうですの。寝る前にもう一つだけ質問ですの。起きたら何食べます? おそらくペコペコになっておりますでしょうし」


 寝落ち前の雑談程度にお尋ねいたしますの。


 そういえば最後にご飯を食べたのはいつでしたっけ? 夢の中ならまだしも現実ともなると二日前……? 日持ちする胃でありがたいですの。


「うーん? うーんと、えっと……」


 きょとんとした顔で見つめ合うこと約数秒、質問の意図を考えているようにも思えましたが、すぐさま能天気そうなお顔に戻られます。



「コロッケ、もしくはメンチカツでも可!」


「…………ふふ、いい、ですわね」



 あの商店街を思い出してしまいます。


 たとえ、彼女に揚げ物屋さんで食べたあの味の記憶が残っていないとしても。彼女の言動に残された過去のカケラを感じ、少しだけこの胸がキュッとしてしまいますの。



「うふふ。私も是非ソレにいたしましょう。寝起きで揚げ物とはなんと背徳的な……思わず身震いしてしまいますの」


 すぐに誤魔化して笑います。この胸から溢れ出る寂しさを、少しは隠せたでしょうか。


 いいんですの。懐かしみを覚えられるのは私だけの特権です。


「どうしてだろうねー。本音言っちゃうと、ここのはあんまり美味しくないのに、ついつい食べたくなっちゃうのー。……あれ? ここのは? それじゃどこのは美味しいんだっけ?」


「……あんまり気にしなくていいですのよ。多分デジャヴとかそんなのですの。それより早く眠りましょう。今にも瞼が引っ付きそうで辛いんですの。ふわぁぁあ……くすん」


 ついウルリときてしまったのは内緒です。



「お先に失礼いたしますの。おやすみなさい、茜」


「うん。おやすみ、美麗ちゃん」



 私は少しずつ睡魔に意識を手放します。

 ふわふわと夢見心地な気分です。


 茜さんの腕を手に取って……この胸に抱えます。ああ。温かいですの。


 貴女が自由に過ごすように、私も自由に過ごしますの。この手この足に枷は無いのです。好きな時に寝て、好きな時に起きて、好きなときにご飯を食べて、好きな時にしっぽり楽しむのです。



 明日は明日の風が吹きますの。


 くるくると揺れ動く風見鶏の如く。

 私は自由に舞い踊りますの。


 空に飛び立てぬニワトリさんでも構いません。今更大きな翼などは要りません。元気で丈夫な足さえあれば、その分草原を自由に駆け巡れるのですから。



 けれど、もしもこの願いが叶うなら。



 もう一度、茜さんと……。



 外の世界でたくさん笑い合いたいですわね。



  あの味をもう一度一緒に楽しめたらなぁ、だなんて。ただただ叶わぬ夢を思い描いてしまうのです。




【第二章 過去編 完】



【第三章 外界編 へ続く……】


 


 

こんにちは。作者です(*´v`*)


これにて第二章【過去編】完結でございます!

ちょっとビターな終わり方だったかな?

だって仕方がないじゃないですの。

まだまだ大団円には程遠いのですから。


あ、今回のあとがきは長いですよ。

そりゃあね。だってね、節目ですからね。


ここまで読んでいただけた読者さんなら

多分全部読んでもらえるだろうなーなんて

浅はかな考えで書き連ねております(*´v`*)

今更ブラウザバックしないでよねっ


だってほらアナタ、理解されてます?

既に40万字弱を読んでるんですよ?

ラノベで言ったらもう約4冊分ですよ?

貴重なお時間を本作品の読了に

割いていただいてどうもありがとう……ッ!


もう一度言います。

ホント長々とお付き合いいただきまして

感謝・感激・雨・霰でございます!



さて。

ここまで書けたのはホントにホントに

読者の皆様のおかげでございます。

重ねてお礼を申し上げます。


毎日のように最新話の閲覧数を眺めては

ああ、早く続きを書かなければッ!

皆さんが待っていらっしゃる……ッ!

と執筆意欲に燃えておりました。


先にごめんなさいが一つあります。

平和な日常譚を謳ってるわりに

二章の後半は辛くて苦しくて悲しい

出来事の連続でしたね(*´^`*)

乗り越えられた皆様、さすがです。


だって仕方がないじゃない!

美麗ちゃんが悪堕ちした理由を

しっかり書かなきゃ

堕ちた後の日常に深みなんて

出るわけないやろ!

という譲れないこだわりがございまして。


堕ちる前の煌きがあるからこそ

堕ちた後も輝きを放つのでございます。



〝元〟魔法少女の意味が分かっていただけたのなら

それだけで僕は満足の極みです。



彼女の物語は終わったわけではないですし

むしろこれからが真のスタートなわけですし

今後もより一層彼女とこの物語を

愛していただけることを願っております。

面白い話書き続けるもんね(*´꒳`*)


美麗ちゃん、可愛いよね。

健気で、素直で、優しくて。

私自身もファンの一人です。



さてさて。

読み終わりの興奮冷めやらぬ方は

思い切って感想を書いてみるのがオススメです。

そうでもない方は微笑みながら見守ってね。


例1)

意外にバトルシーンが好きだった。

もっと戦う美麗ちゃんを見てみたい!

例2)

心を病むシーンがとても悲しかった。

美麗ちゃんにはもっと笑顔になってほしい!

例3)

ようやく、日常シーンが見れるんですのね!

あんなコトやこんなコトを早く……!

身体が疼いてたまりませんの……ッ!


にこやかな顔でお待ちしております←



さてさてさて。

感想だけではとても収まりそうにない方。

この物語をもっと色んな人に薦めたい!

そんなホットな情熱のある方は

レビューを書いてみるのもオススメです

(*´v`*)


私に届けるのが感想だとしたら

他の読者に届けるのがレビューなのかな?

アナタの書き込みを見た別の方が

この作品に興味を持ってくれるかもしれません。


もっと広がれ、悪堕ち〝元〟魔法少女の輪。

これをモットーに今日も明日も書き続けます。


この物語がもっと多くの皆様に届きますよう

私も日々精進して継筆してまいりますっ!


過去編は辛いことの連続だったからね。

第三章【外界編】は笑顔の溢れる章にしよう。

今はただそう思ってます。

その後の【復讐編】も控えておりますから。


どこかでまた不穏な空気を匂わせるかもしれません。そのときはまた私と一緒に今後の展望を考察してみてください(*´v`*)



それでは、次ページより早速外界編を始めようと思いま……したが、少しくらいは〝ご褒美〟がないとやってられないよなぁ?


というわけで幕間〝回想〟姫初め編


次は美麗ちゃんの初夜を

書いてみたいと思います!

もちろん過激な描写は無いのでご安心。

それとも無いからご乱心……?


暗喩やオブラートに包んで

もしくは朝チュン打法で乗り越えて

それとなーく濁してみせましょう。


ではではっ!


『悪堕ち〝元〟魔法少女は怠惰な日常を変えたいみたいです。 〜毎日毎日しっぽりだけでは流石に飽きてしまいますの〜』



通称〝もとまほにっぺん。〟を

引き続きよろしくお願いいたしますっ!



 


 

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