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ぬるぬるでテカテカでぐにんぐにんですの


「オ疲レサン、ぶるー。楽シマセテモラッタヨ。オ前ノ手助ケニナレタノナラバ幸イダ。マタ何カ有ッタラ言ウトイイ。俺ニ出来ル範囲デ協力シテヤル。業務ノ都合ヲ(かんが)ミテ、ニハナルガナ」


「ありがとうございますの。頼りにしておりますの」


 誠意を込めてぺこりと一礼いたします。


 ローパーさんは三年前から容姿も中身もほとんど何も変わっておりませんわね。最初こそ取っ付きにくくて奇怪な見た目の方だと思いましたが、しばらく心と身体で触れ合っていくうちに、本当は紳士的でお優しい方なのだと実感するに至りました。


 しっとり温かでぬるやかに包み込まれるあの感覚は……正直言って他の怪人さんを圧倒いたしますの。私の特にお気に入りのプレイなんですの。


 彼のうねうねな触手の如く、今後はもっと私の方から絡んでいってもよいかもしれませんわね。濃厚で濃密な感じにしていってもよいと思うのです。総統さん程ではありませんが、なかなかに敬愛させていただいている怪人さんですもの。


 ……コホン。脱線は程々に、彼とのエピソードはまた機会があれば語らせていただくことにいたしましょう。



「お言葉に甘えて、また顔を出させていただきますの」


「アア。補助調教員トシテデモ単ナル客人トシテデモ、ドチラデアッテモ歓迎シテイル。気軽ニ遊ビニ来ルガイイ」


 彼から一本の触手が伸びてまいりました。どうやら握手を求めてくださっているようです。


 物怖じせずに掴んでみますと、実にぷにぷにムチムチとした感触が返ってまいりました。程よい弾力もさることながら、じっとりと濡れた表面が実にイヤらしいです。ぬるぬるでテカテカでぐにんぐにんですの。今すぐぺろりと頬張ってしまいたいくらい美味しそうな見た目をしておいでですが、頑張って耐え忍びます。じゅるり。


 もちろんこの思考は一ミリたりとて表情には出しません。ポーカーフェイスを貫きます。



「……可能ナラ今度ハアノ子(れっど)モ連レテクルトイイ。()()()()以外デハ、サスガニ難シイトハ思ウガ」


「ええ。そうでしょうね。私であればお気の済むまでいくらでもお付き合いさせていただく所存ですが、茜もとなると細心の注意が必要になりますの。ちょっとの刺激も厳禁ですの。ポップでキュートな美麗ちゃんとのお約束でーすのっ」


 チャーミングなウィンクでごまかします。つい握る力が強くなってしまいます。


「アア。モチロン分カッテイルサ。俺モ当事者ノ一人ダカラナ。めんてなんすニ徹底シヨウ」


 はっと気付いて手を離しますと、彼は触手をしゅるしゅるとお体の方に戻されました。




 彼女()が自ら望んでココに赴いてくるならまだしも、私たちの勝手な都合で、色々と連れ回したり記憶を覗き見たり改変したり追い詰めたりはしたくありませんの。

 私と違ってあの子は過去のほとんどを失ってしまっているのです。そのせいで彼女のハートはガラス細工よりも繊細で壊れやすいモノとなってしまっているのです。


 下手に刺激して、これ以上あの子を苦しめたくはないのです。


 もちろん私だって茜の過去は気になりますの。特に私と出会う前の彼女についてはホントに何も知らないんですもの。けれど、世の中にはあえて闇の中に封印しておいた方が良い事だってあると思うのです。つまりはパンドラの箱ですの。超弩級のブラックボックスですの。


 思考の沼に陥りそうでしたが、すんでのところで踏みとどまります。今すべきはそれではなく、記憶の整理にお手伝いいただいたお二人への感謝ですの。



「では、改めましてお二方。長々とお付き合いいただきまして誠にありがとうございました。おかげで私の過去を振り返られましたの。忘れていた細かな思い出も掘り起こせましたの。少し若返ったような気分です」


 お二人を視界の正面に映し、今出来る最高の微笑みを見せて差し上げます。彼らへの感謝は言葉だけでは到底足り得るものではありません。されども追加でお支払いできそうなのはこの身体だけ……ではありますが、お二人ともまだまだ通常業務が残っているでしょうし、終わるのを待っているのもそれはそれでご迷惑でしょうし。


 ここは空気を読みますの。


「今日のところは自室に帰って、今一度頭の中をゆったり整理させていただきたく思っておりますの。それでもよろしくて?」


「ああ。俺もそれがベストだと思うぞ。今日はゆっくり休むといい。体の方はともかく、頭ん中はずっとフル稼働していただろうからな」


「ふわぁあ……あふ……お気遣い感謝いたしますの」


 ご主人様の仰る通りです。ぼーっとまではいたしませんが、冴えている状態と言うには全然程遠いことでしょう。


 自ら眠りにつくのと、装置に強制的に眠らされるのではやはり感覚が違いますものね。

 まして夢の中でも密度の濃い人生を過ごしていたんですもの。脳が疲れる理由もよく分かりますわ。今なら鎮静剤で眠らされていた茜の気持ちも理解できそうです。


 ただ、確かな充実感があるのも間違いはないです。寝ても寝ても寝足りないのが世の常ではありますが、今日は久しぶりに満足して床に就けるような気がいたします。熟睡待ったなしですの。


 ふかふかのベッドで、レース生地の天蓋を眺めながら、誰にも邪魔されずに静かに眠る……。これ以上の喜びがありますでしょうか。ご主人様にご寵愛いただく以外に存在し得ませんの。



 もう一度深々と一礼し、そこからゆっくりと踵を返します。穏やかな顔の総統さんと柔らかなウネウネを見せてくださるローパー怪人さんを背にしながら、私はようやく洗脳部屋を後にいたしました。



 さぁ、帰りましょう。私のプライベートルームへ。








――――――

――――


――




 自室に戻っている最中のことでございました。


 上層と中層を繋ぐエレベーターから降り、上級社員寮エリアへと戻った私でしたが、最初の曲がり角を曲がったときに、眼前の人影に気を取られてしまいます。


 この視界のど真ん中に、燃えるような赤髪の――



「あら、茜。お久しぶりですの」


「うん? 昨日ぶりだよ?」


「あ、そうでしたわね。勘違いでしたわ、うふふふふ……」


「へーんな美麗ちゃん」



――元相棒のお姿が映り込んできたのです。


 怪訝そうな顔でこちらを覗き込んできております。眉間に小さな皺を寄せていらっしゃいますが……元気そうで、本当に何よりですの。

 

 

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