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玉の輿間違いなしな超有望な殿方

  

「悪い。ちょっとだけ我慢してくれ」


 総統さんの手が私の肩に触れました。ほんの少しドキリとしてしまいます。彼の手の冷たさに驚いてしまったのか、あるいは……。


「は、早くしてくださいまし」


 理由はよく分かりませんが何だか恥ずかしさが溢れてくるんですの。自分からしがみ付くのと、相手から触れられるのでは感じ方が違いますの。おかしいですわね。メイドさんや茜さんには触られても何も思いませんでしたのに。


 もしかすると総統さんが男性だからでしょうか。そういえば私、お父様以外の殿方とはあまり近くでお話したことがありませんでした。


 大きな背中にゴツゴツした腕、屈強な体に優しい声、誰よりもお強いのに、守るべき者がピンチの時は、何よりその安全を最優先できる思慮深さ……!



 あれ? もしかして総統さんって、かなり有能な人物なのでは?



 待ってくださいまし。思い返してみればそれだけではありませんの……!


 彼は組織のトップなのですから人望だって相応にお厚いはずです。カメレオン怪人さんをはじめ、他にもとんでもなく強い方々を沢山従えているのだと予想いたします。

 ほほーん。まさに影の権力者って感じですの。ロマンを感じてしまいますの……!



 おまけにその……見た目も、そんなに悪くはありません。


 いえ、見栄を張りました。〝そんなに〟ではないのです。私の美醜感覚からしてみても一つとして欠点が見当たらないんですの。

 きっと街中を歩いていらっしゃったら、ファッションモデルのスカウトがこぞって声をかけることでしょう。



 腕力も権力も優れた容姿も、持てるモノは全てを持ち合わせたって感じのお方なのでございます……!


 そんな方に私は助けられてしまったんですの? 強い女とお認めいただいたんですの?

 光栄と思ってみてもよいのでしょうか。


 この際だから最後まで言ってしまいましょう。


 組織のトップ様なのですから、経済力だってそれなりにあるはずです。どんな組織だって運営にはお金が必要ですの。結社を維持していられるということは、合法であれ非合法であれ、彼には生活の基盤を支える確かな稼ぎ口があるということです。



 あれ? もしかして総統さんって、玉の輿間違いなしな超有望な殿方なのでは……?



 あ、でも私、お金自体にあんまり興味はないですの。生まれてこの方、身の回りの生活でお金に困ったことありませんもの。お嬢様ですから。


 この観点から言えば経済力自体は別にどうでもよいですわね。プラスの条件にはなっても絶対的なアドバンテージにはなり得ませんの。残念でしたわね。



 うふふ。変なことを考えていたらちょっとだけ冷静になれました。


 張り詰めていた緊張の糸が緩んでしまったせいか、些細な事に思考が向いてしまっておりますの。

 身の安全を気にしなくていいというのは素晴らしいことです。余裕が生まれるってことですもの。


 玉の輿はともかく、今は総統さん様様ですの。紆余曲折ございましたが素直に感謝いたしますの。


 こちらはお助けいただいた身なのです。怪人組織の(おさ)だろうと関係ありません。敬意を持って接するのが筋というものでございましょう。





「ブルー。着いたぞ。もう目を開けてくれて大丈夫だ」


「へっ?」


 総統さんの声にハッと我に返ります。


 恐る恐る目を開きますと、白飛びした世界がこの瞳に飛び込んでまいります。急に明るくなった世界に瞳孔括約筋が追いついてくれないのです。


 前々から気にしておりましたが、私、明順応があまりよろしくないんですのよね。暗順応はそこそこなんですけれど。


 しばらく待っておりますと、ゆっくりと世界に色が付いていきました。



 辺りを見渡してみます。小綺麗で広めな一室の中におりますの。壁一面の本棚と、部屋の中央奥には書類の積まれた大きなワークデスクがございます。部屋の脇には革製の高級そうな……こちらは来客応対用の横長ソファでしょうか、向かい合うように一対設置されております。


 一目見ただけで分かります。どれをとっても素晴らしい一級品だと思いますの。気品と気高さを感じられますの。

 


「改めてようこそ〝司令室〟へ。ここは俺の部屋ってわけだ」


「え? え? どういうことですの!? さっきまで私たち……」


「転送装置を使ったんだよ。手法までは明かせないから目を瞑ってもらったまでだ。遠慮なく好きに寛いでくれ……って言われてもその格好じゃ厳しいか。二人ともまずは医療班に診てもらおう。着替えと風呂も用意する」


「は、はぁ……」


 彼は茜さんをソファに横たわらせました。凝り固まった体をほぐすかのように大きく伸びをなさいます。彼女に当たらないように座られました。とてもリラックスされたご様子です。自室だからでしょうか。


 恐る恐る私も向かい側のソファに腰を下ろします。もう足が棒のようですから、お言葉に甘えて一息つかせていただきますの。

 服に染み込んだ血で汚してしまったらすみません。弁償はできませんが、そのときは誠心誠意謝らせていただきますの。



 この際ですから一度状況を整理いたしましょうか。いきなり与えられた情報に困惑してしまいましたが、今こそ一段と落ち着いておくべきなのです。


 総統さんが司令室と仰いましたが、ここは秘密結社のアジトの中なのでしょうか。もう追手の心配はしなくていいのでしょうか。


 そもそも悪の秘密結社って何なんですの? 私は客人扱いですの? それともただの捕虜なんですの?

 許された行動範囲は? 衣食住は? 健康で文化的な最低限度の生活を営む権利はございますの?


 どうしましょう。よくよく振り返ってみれば勢いに身を任せてノコノコ着いてきてしまいましたの。幼い頃から教わってきたでしょう、知らないおじさんに着いていってはいけない、と。



「……総統さんは、おじさん、なんですの?」


「どうしたいきなり。どんな思考回路からその言葉に至った」


「あ、いえ、なんでもないですの。ごめんなさいですの。妄言ですから忘れてくださいまし」


 私ったらやっぱり疲れているようです。思考が上手くまとまりませんもの。深く考えようにもすぐ脇道に逸れてしまいますの。このままではよろしくありません。


「ちなみに俺はまだお兄さんだ」


 あ、そうなんですのね。私は別におじさんでもお兄さんでもあまり気にいたしませんからご安心くださいまし。あと総統さんの容姿ならあと20年はお兄さんで通せると思いますから自信を持ってくださいましっ。


 心の中でサムズアップいたします。


 それでは話を戻しましょう。

 ……私がアレコレ考えるより、直接お伺いした方が早そうですわね。総統さんのことですからきっとご丁寧に教えてくださることでしょう。



「あの……よろしければ、今後のことについて軽くご説明願えませんでしょうか」


「ああ。構わんよ。医療班が到着するまでの間だけどな」

 

 さすがですの。

 そのまま彼のご回答をお待ちいたします。

 

 

残すエピソードは

茜さんとメイドさんのみ。

ラストスパート駆け抜けます。

 

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