3章、ダムナチオ
三章、雷神の誘い
暗い部屋の中で話声が聞こえる。
???「彼は起きたかしら?」
女性の声だろうか、その声にはまだ少し幼さが残っている様に感じる。
???「まだみたいっすね」
女性の会話相手は男なのだろうか、少し低い声だが声から若さが伺えた。
女性の声「無理矢理起こしてやりましょうか」
男性の声「なら俺に任せてくださいっす!」
女性の声「何かアテでもあるの?」
男性の声「これで一撃っす!」
女性の声「それだと起きる前に永遠の眠りについちゃうでしょ?」
男性の声「あぁっ!そうっすね、どうしましょうか!」
女性の声「はぁ…こっちが聞きたいよー」
男性の声「どーしましょ?」
女性の声「んー、そこに居る人にでも聞いてみようかなぁ?」
足音がこっちに近づいてくる。逃げなければ…
そうして私が足音を消しこの場を去ろうとした瞬間、背後が明るくなり一瞬のスパーク、視神経を焼くような強い光、反射的に目を瞑ったが強い光は瞼を貫通し眼を焼いていく。光で目が見えない状況だが慌ててはいけない。来た道は覚えてるし、音を頼りに外に逃げれる。幸い目もそろそろ見えそうだ。
女性の声「これ使ったら私も見えなくなるじゃん!」
男性の声「あははっ!バカですね!俺も何にも見えないけど!」
女性の声「むぅ、意味ないじゃんっ!!!」
そんなやり取りが聞こえる。む?これは逆に奴らを倒せるのでは?よし、殺ってやる。よし目も見える。
???「…まさか話をしていた奴らが少女と少年だったとは…」
例え敵が少年少女だったとしても手を抜くわけにはいかない、仕方ないが死んでもらう!!!
???「すまないが死んで貰うッ!」
私がそう叫んだ瞬間に視界がブレる。突然フラつき地面に自身の体を打ち付ける。
女性の声「地面に這いずりながらそんな事言われてもねぇ?」
男性の声「そうだぜ!全然見えないけど…」
女性の声「まだ目が治らないの?」
男性の声「うーんずっと目を閉じてるんだけどなぁ…」
女性の声「ずっと目を閉じてちゃ何も見えないのは当たり前でしょ!」
…今のうちに這いずって逃げるか、どうやらこっちの事はどうでも良いらしい、しかしいったいいつ私の足をフラつかせたのだろうか?
女性の声「あ、逃がさないぞぉ!」
今さら気付いてももう遅い外にある車まで行ければ足が効かなくても乗せるだけでいい!
女性の声「ねぇね、電光石火って知ってる?」
にこっと笑いながら私の"目の前"に少女が立つ。
女性の声「んー『あっちの人』か」
女性の声「気絶してる人の起こし方とか解る?」
???「…」
いきなり目の前に現れた少女に困惑し硬直してしまう。
女性の声「んー?なんで何も言わないのかなぁ?知らないの?」
???「…」
女性の声「ま、もういいや、そのうち起きるだろうし、じゃあねバイバイ」
ズドォンと大気を震わす音が響き黒い灰だけが残った。
女性の声「んー、彼は起きたかなぁ」
男性の声「あ!そうだ水をぶっかけてみるのはどうですか?」
女性の声「それだ!!!」
それこそ正解だ!と言わんばかりに手をポンと叩く。
???「おーきーろー」
声と共に冷たい液体の入った容器を頭の上からひっくり返す。
凛太「…うっ、冷たっ」
少女「よーやく起きたね!」
凛太「…これどういう状況?」
凛太は椅子に座らせられており、手を後ろで、足を椅子の足に縛られていた。そこは密室で換気扇しかなく、少女の後ろには巨大なモニターがある。
少女「君が起きるまで1日くらいかかったよ?」
凛太「知るか、バアル、居ないのかバアル!」
少女「君のオトモダチはそこにいるよ」
少女が指を指した方向を見るとガラスケースの様な所に捕らわれていたバアルだった。
凛太「バアル!?」
少女「珍しいクモだったから捕まえちゃった☆」
凛太「捕まえちゃった☆じゃねぇよ!バアル、大丈夫か!?」
バアル「ご主人様…お守り出来ずに申し訳ない…」
凛太「無事みたいだな…」
凛太はバアルの無事を喜びホッとしてると少女から声がかけられる。
少女「あ、君、もうそこから出ていいよ」
バアルを捕らえているガラスケースが開かれる
凛太とバアルの頭に疑問が出つつもバアルはガラスケースから出る。
凛太「…そうだ!黒ローブはどうなった!?」
少女「死者496人、行方不明者82人。犯人は未だに捕まってないよ」
凛太「…っ!」
少女の後ろにある巨大なモニターが点灯し黒ローブ事件のニュースが流れる。
テレビ「2日前、都内の高校で起こったテロ事件は未だ解決しておらず、犯人を見た者も目撃者もおらず犯人の目的、行方は不明。警察が踏み行った際に残っていたのは黒い塵のみの様です。」
テレビ「いやぁー謎ですねぇ、一部では宇宙人の襲撃だのなんだのって言われてますがこれはテロでしょう」
テレビから腑抜けた様な話声が流れてくる。そこに耳を刺激し、危険を伝える様な音がなる。
テレビ「ニュース速報です、行方不明だった82人中24人が港の倉庫から死体で発見されました。」
その死体で発見された人達の名前が表示されていく。そこに載ってないでくれ!と祈った名前が表示されてしまう。
"岡部大希"
親友の名前が表示されてしまった。
守れなかった、助ける為に戦ったはずなのに…
急に脱力感と疲労感に見舞われ椅子に体を預ける。
少女「あらら、見せない方が良かったかなぁ?」
凛太「…」
凛太は天井を見上げる。その見上げた瞳からは液体が垂れてくる。
少女「あれ、泣いてるの?」
凛太「…」
少女「まぁいいや、とりあえず拘束解いてあげる。」
少しして凛太は拘束から解放される。
椅子に座ったまま項垂れる。
少女「君に話があるんだ~おーい?聞いてる?」
凛太「…ここは何処だ!早く解放してくれ、後お前は誰だ!」
少女「質問してるのはこっちなんだけどなぁ?」
凛太「早く答えろ!」
少女「凛太君は短気だなぁ…ま、いいや私は葉山瑞綺、見ての通り美少女だよ!」
凛太「…」
凛太は冷ややかな目で少女を見る。
瑞綺「今のは笑う所なんだけどなぁ…」
本人が美少女と言っている通り、確かに美少女ではあるが残念な美少女の部類だろう。
瑞綺「まぁいいや、で!私が契約した相手は…」
凛太「ギリシャ神話主神のゼウスだろ?」
瑞綺「なんで解ったの!?」
凛太「雷を使う神を俺は2柱しか知らないからな」
瑞綺「なぁーんだそういう事か、びっくりして損したよ」
凛太「で、ここは何処なんだ?」
瑞綺「ここはダムナチオ教団本部だよ」
瑞綺が言うと黒ローブの言葉を思い出す『神威を使う者だけが入れる所だ、そこでは神威や悪魔の力を使い放題で世界を滅ぼしたりしようという奴らの集まりだ、教団は二つある、もう一つは神威や悪魔の力を悪用させるのを防ぐ目的の教団だ』
凛太は椅子から飛び退き、より後ろへと着地する。静かにしていたバアルも即座に動く。
凛太「ここは悪用を防ぐ方か?それとも…」
凛太は身構え少女に叫ぶ。
瑞綺「落ち着きなよ、うち(ダムナチオ)は正義の教団、ダムナチオはラテン語で断罪。神威を悪用するシールス共を滅ぼす目的があるんだよ。シールスはラテン語で罪。神威を悪用するわるーい教団。うち(ダムナチオ)の敵だよ。」
凛太「なるほど、敵ではないみたいだな。」
凛太は警戒を解きバアルに手を伸ばす。バアルは手を伝い凛太の肩まで登る。
バアル「やっぱりここが落ち着きますねぇ」
しみじみと語るバアルを横目に凛太は瑞綺へ向き直る。
瑞綺「で、ここからが本題だよ。」
凛太「本題?」
瑞綺「そうだよ、このまま帰す訳ないでしょ?」
凛太「…」
その通りだ、このまま契約者を帰す訳がない…。
瑞綺「んー、単刀直入に言うね。キミ、うちにこない?」
雷神…それも恐らく神々の中でも最強の1柱とも呼べるほど強い神からの強要。
凛太「…悪いが断らせて貰う、出口は何処だ?」
再び臨戦状態…ピリピリとした空気が辺りを覆う。
瑞綺「へぇ?こぉーんな美少女からのお誘いを断るんだ~もしかしてそっち系?」
凛太「んな訳ねぇだろ!!!そもそも俺はただの高校生、そんな殺し合いやらなんやら関係ない」
瑞綺「でも君は黒ローブと殺り合った、じゅーぶん関係あると思うけどねぇ?」
凛太「…(全くもって的外れって訳でもない…)。 例えそうであっても俺はもう、うんざりなんだよ…」
言い終えると共に視界一杯にスパークが迸る。
瑞綺「出来るだけ傷付けたくなかったんだけどねぇ。ま、仕方ないか…。せいぜい死なないでね♡」
黒ローブを消し炭にした雷が部屋に入り乱れる。
凛太は息を飲み身構える。
瑞綺「君がその気になるまで遊んであげる。まずは右腕~」
瑞綺の近くに漂っていた雷が彼女の片手に収束していく。
瑞綺「<シンソクノイカヅチ>」
さしずめ雷の剣と言った所だろうか、80センチくらいの片刃、反りや鐔等はなく一直線。切れ味は言うまでもないだろう。
瑞綺「<電光石火>」
数メートルあった合間を瞬時に縮め凛太の右側に移動する。
瑞綺「はーい、まずは右腕~」
凛太の目には何も写って居なかっただろう。
瑞綺の刀が凛太の腕に届こうとした瞬間、鈍い金属音が響き渡る。
瑞綺「もー邪魔しないでよ、ヘルメス。」
ヘルメス「こうでもしないと貴女は彼を殺すでしょう?それに本来の趣旨とかけ離れているではないですか」
瑞綺「へー君はいつから私に指図して説教できるほど偉くなったのかな?」
可視化できそうな程に殺気を垂れ流す。
ヘルメス「…お叱りは後で受けましょう。」
瑞綺「もーやだな私が君に何かするわけないでしょ?」
先ほどまでの殺気は何処へやら、といった具合にケロっとしている。
瑞綺「まぁ、こういう話合いは君の方が適任だからね。任せるよ」
そういうと部屋の隅の方まで離れる。
ヘルメスは冷や汗をかき少し震えていた。
ヘルメス「では、凛太様。ここからは私が話させて頂きます。」
凛太「すまないがうちは宗教お断りなんだ」
瑞綺「宗教じゃないよー!」
瑞綺が何か言った様だが遠すぎてあまり聞こえなかった。そのくせして瑞綺には聞こえている、とんだ地獄耳だ。
ヘルメス「まぁ、少し話を聞いて下さい。」
凛太「聞かないといってもどうせ話すんだろ?
俺は早くここから出たい」
ヘルメス「…まず、この度は色々とお疲れ様でした。貴方様の高校はテロがあったとされ一時的な休校となっています。そこで、瑞綺様は我々の教団に来ないか、と仰られているのです。」
凛太「待て待て、休校になったのは解った、しかし何故それが教団に来ること、と関係あるんだ?」
ヘルメス「それは…」
瑞綺「それは私から説明するね。」
いつから居たのか解らないほど一瞬で距離を詰めたのだろう。
瑞綺「私たちの教団は学校なんだよ、小、中、高、大、しかも国立。まぁ、私がこの学校の校長みたいなもんだからね!」
凛太「学校ねぇ…」
瑞綺「あ、言うの忘れてたけど、"テロ"から生き残った人たちはみーんなうちで受け入れてるから君の編入はとっくに決まっていたんだよね。」
凛太「……は?はぁぁぁぁぁぁぁあ!?」
眼を見開き気の抜けた声を出す。
凛太「なんで!なんで、いつもこうなんだぁぁぁあ!!!!!」
黙って話を聞いていたバアルは狸寝入りを決め込んでいた。
一旦ここで区切りです。中の人が多忙なので投稿遅れます。