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写本屋には変人が集う  作者: 春風由実
第二章 わかつもの
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0.序章~想い出の中で


「私の若き友人を紹介してもよろしいですかな?」


 ようやく打ち解けて来たと言える頃に、老人は言った。

 打ち解けたと言っても、心から仲良く出来ていたわけではない。

 私はとても幼かったのだ。


「若いって?子どもなの?」

「子どもではありませんな」

「じゃあ、あなたよりも若い大人ということ?」

「そうですとも。私よりずっと若い人です」

「あなたと比べたら、みんな若い気もするね」


 狭い部屋に響く、老人の豊かな笑い声は耳にうるさくて、私はよく顔を顰めていた。

 思えばこの頃、彼はわざとらしいほど大きな声で明るく笑っていたように思う。そして私は、まだ一緒に笑ってはいなかったはずだ。


「その人をどうして紹介したいの?」

「あなたも気に入ると思うからですよ」

「どうして私が気に入ると分かるの?」

「あなたにとてもよく似ているからです」


 私と似ているなんて、どんな人なんだろう?

 目の前に私がいるようなものなのかな?

 …………どうしよう、嫌だ。とっても嫌!


「嬉しそうには見えませんなぁ」

「うん。嫌だ。私は私に会いたくない」

「似ていると言っても別人ですぞ。一度会ってみるとよろしいです」

「会ったら、嫌いになりそうだよ?」

「それも一興」

「いっきょう?」

「出会いのときを楽しめば良いのです。嫌ならもう会わなくてもいいでしょう。私があなたに似ていると言った者、気になりませんかな?」


 このとき私は、あの懐かしく優しい笑い声が耳にうるさくて、やっぱり顔を顰めていたと思う。

 すべてが彼の策略だったことに、どうしたら幼い私に思い至ることが出来ただろうか?

 それでも私は、あの声をまた聴きたいと願う。



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