0.序章~想い出の中で
「私の若き友人を紹介してもよろしいですかな?」
ようやく打ち解けて来たと言える頃に、老人は言った。
打ち解けたと言っても、心から仲良く出来ていたわけではない。
私はとても幼かったのだ。
「若いって?子どもなの?」
「子どもではありませんな」
「じゃあ、あなたよりも若い大人ということ?」
「そうですとも。私よりずっと若い人です」
「あなたと比べたら、みんな若い気もするね」
狭い部屋に響く、老人の豊かな笑い声は耳にうるさくて、私はよく顔を顰めていた。
思えばこの頃、彼はわざとらしいほど大きな声で明るく笑っていたように思う。そして私は、まだ一緒に笑ってはいなかったはずだ。
「その人をどうして紹介したいの?」
「あなたも気に入ると思うからですよ」
「どうして私が気に入ると分かるの?」
「あなたにとてもよく似ているからです」
私と似ているなんて、どんな人なんだろう?
目の前に私がいるようなものなのかな?
…………どうしよう、嫌だ。とっても嫌!
「嬉しそうには見えませんなぁ」
「うん。嫌だ。私は私に会いたくない」
「似ていると言っても別人ですぞ。一度会ってみるとよろしいです」
「会ったら、嫌いになりそうだよ?」
「それも一興」
「いっきょう?」
「出会いのときを楽しめば良いのです。嫌ならもう会わなくてもいいでしょう。私があなたに似ていると言った者、気になりませんかな?」
このとき私は、あの懐かしく優しい笑い声が耳にうるさくて、やっぱり顔を顰めていたと思う。
すべてが彼の策略だったことに、どうしたら幼い私に思い至ることが出来ただろうか?
それでも私は、あの声をまた聴きたいと願う。