0.序章~選ばれし記憶
薄汚れた毛布を掛けられた子どもが床の上に寝ていた。
やたらと白い肌が輝いていた様子は、今も頭に残っている。
それはか細い線の月が放った闇夜を照らす一筋の光と似た色をしていた。
黄金にはなれない、銀色の侘しい光だ。
「売り物にならん子だ。お前が育てろ」
そんなことは、一目見たときに分かった。
何のためにここに呼ばれたか、それもだ。
「名は?」
「そうだな……白でいい」
安直な名付け親はそう言うと、毛布ごと乱雑に子どもを抱き上げた。
あぁ、泣く。そして躾けが始まる。
そう思ったが、子どもは想像していたよりもずっと強かだった。
突然起こされ目を丸くしたかと思えば、抱かれて視線が上がっていることに気付いたのだろう。きゃっきゃっと声を上げて笑いながら、周囲に視線を泳がせる。
そうして、こちらに手を伸ばした。まるで掴んでくれと言うように。
だから掴んでやったんだ。
「甘やかすなよ」
「身の上をよく分からせて育てたらいいんだろう?」
「そうだ。お前のようになればいい」
同情もない。
愛情もない。
ましてや憎しみも嫉妬もない。
手の温もりは確かにこちら側へと流れたはずも、その温かさは忘れてしまった。
思い出すものは、白い肌ばかり。
輝いて見えたせいではない。初めからそこにあるはずのものを想像していたから、記憶に取り込まれたのだ。