恋は劇薬で
恋は劇薬で、少年少女に自我をもたらす。
システムの歯車でしかなかった彼らに、システムを破壊しかねないエネルギーが宿る。
乳児として肉体は生まれ、初恋をしたとき、精神は生まれる。
自分の誕生日のこと、覚えていますか。
隣のクラスの彼女は無口で、でも魅力的だった。
硬派に着こなしたブレザーをカスタマイズして、危ない香りがした。
勉強もスポーツも優秀なところがないのに、目に自尊心が満ちていた。
どこか知らない場所に連れていってくれそうな不思議な雰囲気。
女の子達なんて振り回すつもりでいたのに、気づけば彼女の虜になっていた。
勉強にもスポーツにも真面目に取り組まない、クソみたいな不良女。
かかわれば、社会的価値を喪失する。かかわれば、人生が終わる。
なのに、真人間として生きる人生に、彼女より価値があるとは思えなかった。
歯車として一生を生きれば、滅びる以前に生まれていない。
彼女に関われば最後にはきっと死ぬけど、私はこの世に生まれられる。
彼女が、自分にとって特別な女性だと私は直観した。
そして私は、自分のその直観を信じた。
信じた直観に従って、人生の岐路を選択した。
持っていたすべてを捨てて、愛したい人を愛したいままに愛した。
そうして私は自我を得た。自立した精神を得た。
それまでは、人から受ける侮辱に切り刻まれていた。
人が腹の中で自分を馬鹿にしているのではないか、恐怖していた。
社会的なステータスを掻き集めて、成功した人生を得ようと、必死だった。
世界のすべてが馬鹿馬鹿しく見えて、生きることは不幸なことだと思っていた。
なのに彼女は、人の目線を何とも思っていなかった。
その根底で彼女は、死ぬことも破滅することも、少しも恐れていなかった。
その生き様に、何よりも多く学んだ。
世界観の主体と客体は完全に逆転した。
そして結局、彼女は事故に遭って若く死に、私は底辺労働者として冴えない人生を歩んだ。
社会常識から見れば、きっとゴミみたいな二人の人生。
でも自立した自我を持って生きられたから、私達は幸せだった。
自尊心に満ちた彼女の瞳は宝石みたいで、入学して初めて遠く目が合ったときの衝撃を今でもずっと覚えている。
惚れ惚れするほど気高い瞳。思い返すたび惚れ直す。
もういない彼女への恋に溺れながら、私は私の生き様でまた今日を生きる。
恋は劇薬で、そして、理屈抜きに最高に素晴らしい。




