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屋敷の中に入ったツバキは、私をとりあえず応接間に通すように言って、着替えに行っちゃった。
それから30分くらいツバキが戻って来るまで、美味しいハーブティーとお菓子を食べて待っていた。
ハーブティーはいいけど、このお菓子…薄味ね。
前から思ってだけど、この国の料理って塩気が少ないし、ハーブを使った料理がやたら多くて、私の好みじゃないのよね~。
醤油味や味噌味の料理が食べたいわ。
そんな事を考えながら待っていると、着替え終わったツバキが、部屋に入って来た。
ツバキは伝統的な文様の入った、アヌイー独特の服を着ていた。
金持ちだから普段着でも私が着ているのより、高級なのよ。
羨ましいわ……
「改めまして、私アキタ侯爵家の娘のツバキですわ。
えぇっと…昔、我が家に仕えていた方の娘さんでしたかしら?」
良かった…ツバキはゲーム通り、大人しい性格のようね。
実は他の悪役令嬢には会った事ないのよね。
アヤメはすれ違っただけだから、ノーカン。
「あの…私、サクラと言います。
母からコレを預かっているのですが……
アキタ侯爵に、お見せするようにと…… 」
なるべく庇護欲を誘うように、言ってみる。
「サクラさんねぇ。父を頼っていらしたようですが、残念ながらもうここには居ないの…… 」
「いっ居ないって…いったい何処に?」
「五日前に私の母方の従兄弟、リキ兄様に、爵位を譲って領地に行かれたわ。
『やっと自由に走り回れる♪』『服を着なくても怒られないって最高!』『憧れの野良生活!』って喜んでいらしたわよ。
まぁどうせ三日もしたら、飽きて戻って来ると思いますけどね。」
何それ?『服着なくていい。』とか『憧れの野良生活』って意味わかんない!
それに五日前って、私が王都に戻って来る一日前じゃない!
えっ?じゃあ何?私が乗り合い馬車の乗り間違いしてなかったら、会えたって事?
嘘でしょ~!?あり得ないわ!
アキタ侯爵に会わないと、娘だって認めてもらえないのよ!




