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海嘯  作者: 日川文月
9/12

九 国連総会

「臨時国際連合安全保障常任理事会を総会に先立って行います。

 極めて重要な議題になり、議長はわたくしが務めさせていただきます」

国際連合安全保障理事会は常任理事国五ヶ国(米英仏露中)と国際連合加盟国の中から、国際連合総会で選ばれる十ヶ国の非常任理事国の計十五ヶ国で構成されている。

「あらかじめ議題を問い合わせたが極めて重大で秘匿性が優先されると答えがいただけなかったのは遺憾に思う」

「そうです・・・米国もでしたか」

「中国も?」

「みんなです。ちょっと疑心暗鬼にさせてごまかしたのはお許しください。どうしても世界主要国トップの方達にあらかじめ話す必要があるとの判断です。

 すでに議論の余地はなく、総会では同じ内容の話を致しますので」

「それでは、常任理事国の意味が無い」

「総長として横暴じゃないのか」

「知らなかったではすまないので好意とお受け取りください」

「ハワイの件かね」

「さすがですね」

「内容はわからないが、何かが起こっているらしいのは突き止めた。

 正直言うとそこまでで、無理矢理は躊躇していた」

「我々も情報局から・・・」

「確かにそんな話はあったが、日本が関わっているらしい」

「みなさんが集まっていただけるように少し情報をリークしたのですよ」

「人が悪いな」

「私ではないですよ、紹介しましょう、今回の張本人です」

「日本のTK大学教授、風巻雷十と申します」

「日本の総理は知ってるのかね?」

「いえ、あなたがたにも知らせてないのですよ。

 彼は国際問題でまだ頭を抱えています」

「気の毒だな」

「ま、隣国ですから仕方ないですよ。

 さて、我々は世界の破滅の始まりをなんとか回避しようと活動してきました」

「大きく出たな。どういうことかな」

「説明します。名付けるなら『海嘯』、人類に対する逆襲です・・・」

さすがにみな頭が良い、シリコン樹脂で対策が可能というところでホッと一息を付いた。

「太平洋航路の中継地であるホノルルで発生しましたので、

 すでに太平洋岸の各地に飛び火しています。

 海流の関係で大量に押し寄せる米国西海岸が次に必要な場所になります。

 遺伝子が水平伝播した植物プランクトンはそうでないプランクトンよりも生物学的に優位、急速に置き換わります。

 さらに海流が一回りしてオセアニア各国、飛び火した地点では陽性反応が時間を追うごとに増加しています。

 船舶貿易の量を考えれば次に日本と中国、米国東海岸、ヨーロッパ各国と5年以内に世界中で問題が発生するというシミュレーション。

 遺伝子パンデミックに対策がなかったら、

 原因がわからなかったら、

 自国の対策に追われる前に他国からの陰謀説なども出て、

 世界的な疑心暗鬼で協力関係が築けずさらに被害が増大し、

 20年以内に世界人口の半分が失われるシミュレーションでした」

「恐ろしい・・・」

「心理的な自滅となるところだったのですね」

「ええ、最悪のシナリオです・・・。

 幸いシリコン樹脂があったので、

 ホノルルの問題区域の変圧器や電線を切り替えています。

 ここの時点から・・・障害発生率は急激に下降して最悪の状態は免れた。

 微生物による現象なので水が無い状態なら大丈夫。

 対策家電の一段目は洗濯機とエアコン、

 これは日本の製造会社で数万台が無償供与されています。

 あなた方に知ってもらいたいのは、

 彼らが理由もわからない時から協力してくれたことです。

 『ハワイの人たちが困ってるから』というだけで納得して働いてくれました」


「それこそ国連が見習いたいことだと私は思います」


「優先順位的には電力供給の確保です。

 地域ごとに優先順位があります。

 大陸内陸に到達するのは早くても二十年後でしょう。

 米国西海岸の沿岸沿いの都市、日本・台湾は海に取り囲まれている。

 優先させてください。

 オーストラリアの太平洋側、インドネシアも海に取り囲まれています。

 中国・韓国・ロシアの日本海沿岸都市も優先して欲しい。

 シリコン樹脂は世界の80%のシェアを握る4社にはすでに声をかけて増産体制を策定して貰っています。

 各国の優先事項として認可して貰いたいと総会では呼びかけます。

 電化製品は日本の2社にしか声をかけていませんが、

 ノウハウの開示は了承願い快諾いただいています。

 各国の電気会社、自動車会社も開発を行ってシェアを競ってください。

 ただし、シリコン樹脂供給は電線会社優先になりますので潤沢に供給できるまでは待ってもらいます。そういうことでいかがですか?」


「よく出来ている」

「どこがコントロールする?」

「安全保障理事会でいいんじゃないですか」

「賛成だが、顧問になってくれないか」

「そうですね」


「私一人でここまで出来たとお考えではないでしょう?

 『TK大学ビジョン2025』でTK大学の予算をごまかした活動です。

 いろいろすっとばしてて、TK大学総長は首をくくらなくてはならないぐらいの荒技に同意してくれた・・・」

「それではその組織ごと、運営費は国連から資金が出ていたことにして補ってくれたら良い」

「そのためには、常任理事各国から喜んで予算を出そうじゃないか」

「そうですね。それが正しい筋道ですね」

「ありがとうございます」

「それでは総会の発表は安全保障常任理事国一致の賛同のもとということで発表します」

「確かに知らないでいたでは済まされない」

「今回の犯人捜しはあまりやって欲しくないなあ」

「HY大学の実験は認可も受けていたP3域でおこなわれていたのです。

 高潮とハリケーンのダブルパンチでP3施設そのものがながされてしまった事故です。その実験環境以外なら死滅するはずと考えられていた遺伝子がどうやってシアノバクテリアに入ってしまったのかは謎です。

 今回の件を教訓には出来るでしょう。

 また、地球環境に好影響を与えるというシミュレーションも出ています。

 植物プランクトンの増加で光合成レベルが劇的に上がり、CO2増加の歯止めも予想されること。

 もちろん餌とする生物の増加も考えられ、海に放出されたマイクロプラスティックの劇的な減少、問題のゴミや漁網なども分解されますね。

 ただし、ゴミを海に流すのは危ないという認識は必要です。

 シリコン樹脂まで分解する遺伝子変異を誘発するかも知れません」

「それは極めて恐ろしいな」

「そのために、世界的な監視体制は必要です。

 組織として安全保障理事会が続く限り」

「うむ、わかりました」

「総会で発表される内容は、電子版ネイチャーの論文三報として一般にも公開されます。ふう、やっと肩の荷が下ろせる・・・」

「まず礼を言わせてくれ」

「私も礼を言う」

「もちろん、ありがとうだよ」

「まったくです、感激した。ありがとう」

「本当によくやってくれた。ありがとう」

「日本の総理によく言ってくださいね。知らなかったと恨まれるかも知れない」

「ハハハ」×6

「まあ、まあ、日本を常任理事国にすれば手柄になって機嫌が良くなるんじゃ無いか」

「あ、ナイスアイディア」

「賛成だ」×4

「人が悪いな、もっと金を出させようって言う魂胆ですか」

「アハハハ」×6

6人が風巻雷十と握手、お互いに握手しながら産業転換を乗り切る算段を考え始めたが、景気回復の起爆剤になるかも知れないと早くもそろばんをはじいている。

シリコン原料のケイ石やメチル金属は何処でも作ることが出来るものだと資料にはあった。

石油石炭に依存しているプラスティック産業よりもCO2排出量は少なくなる。

なにしろ古い製品は、30年以内にすべて置き換える必要があり、

内需だけでも相当な物で技術格差は昔より少ない。

日本は先行しているかも知れないが数年の差でしかないし、ノウハウは提供してくれる。良いことずくめだった。

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