八 電線音頭2
「ええ、本日の会議は本当に重要な会議です。
まず、身体検査させて貰いました。
スマホでの写真撮影・録音や情報漏洩については、この誓約書に明記されているよう違約金も発生しますが、社名公表で後に社会的信用を失い倒産しかねないと肝に銘じてください。
今まで、N電産・K電産、Sポリマー・F化学さんには理由の説明無く守秘義務契約のみで協力していただきありがとうございます。
さて、事は世界的に影響が多く、もはや元に戻せないということとパニックによって何億人もの死者が発生しかねないというシミュレーション結果から、極秘密裏に進めて参りました。
多くの疑問質問があると思いますが最後まで聞いてください。
まず最初に事の発端について、浅田博士から発表します」
「まず最初に、真実であると信じて行動していただくよう願います。事の発端は・・・」
「・・・ということで汚染はすでにアメリカ西海岸に達し、
飛び火もしています。おそらくは1年後には海岸線の半分は赤くなり、
内陸に到達するのは10年から30年、
思っているより進度が速いことがわかります・・・」
「はい、ここで、
小西教授が確認した各プラスティックの耐性をもう一度ご覧ください」
「おわかりでしょうが、
シリコンは骨格の炭素がケイ素に置き換わったポリマーです。
側鎖はメチル基が主ですが機能を持たせるために導入された側鎖もあります。
フェニル基も大丈夫でしたが、
その他のアルキル基は切られ性質が変わると思われます。
主要骨格で耐性があるのはセルロースで環状構造がある。
タンパク質やペプチド結合は大丈夫なので、コットンや絹は保ちます。
問題は、今、蔓延しているプラスティック樹脂の殆どが時間の差はありますが消化されてしまうことです。
海洋ゴミの問題は片が付くでしょうが、
ホノルルの漏電障害・火災発生のようなことが全世界中で発生・・・」
「そこで、ホノルルに送ったのがシリコン樹脂皮膜電線です。
コストは高いが背に腹は代えられない。
まず漏電対策で、変圧器の改造をし、公共電線を張り替えました。
外気にさらされる家屋の引き込み線も替えています。
防水対策が十分でない電線の劣化具合の写真、粉のようになっていました。
そこも交換しましたが、最終的には全ての配線をシリコン皮膜に置き換える必要があります。
すでに洗濯機やエアコンからの火災発生の件数も増加中なので、
早急な家電製品の対策も必要です。
メーカーを選定しサンプルの製造に取りかかって、ホノルルに送っています。
さて・・・」
「世界中にどのくらいの電線があるでしょう?」
「天文学的な数字になるでしょうね」
「すべてをシリコン樹脂に置き換えるのは何十年もかかります。
優先順位を定めれば最小限の被害で済むでしょう」
「費用はかかりますが、火事や停電になるよりはましですね」
「と全ての国が思うでしょう。
皆さんは千載一遇のチャンス、先行利益です。
来年の四月に開かれる国連会議で情報公開されますので、それまでにできるだけ多くの対応電線を作っていただきたい。
そのほかのはストップしてでも」
「わかりました。我々もバカではありませんから、とんでもないサンプル依頼と弊社製品の発注が来た時にシフト体制と増産体制を策定しています。
本日お聞きして納得しましたのでゴーをかけます」
「弊社も同じくです。すでに進めていたのを本格的に。
資金的には四月以降どの銀行も貸してくれるでしょうから良いタイミングです」
「株主総会が問題かな・・・設備投資はごまかさなきゃならないか」
「支払いは来期にする方向でそのためのプラスはしょうが無いですね」
「なるほど・・・樹脂の供給体制は?」
「遊休設備と現有設備で今の倍はすぐにでもですが、
数千倍は必要になっちゃうな」
「世界シェア上位では弊社の親会社と言っても良いDC社とGEから事業を買ったMP社があります。
世界的な供給体制を考えたらそちらにも声をかけられないかと思います」
「よくわかりました。極秘情報の件でとトップを呼べませんか」
「すぐやりますが・・・」
「ええ、情報は伏せてです。私が動いても良いのでコンタクトをお願いします」
「わかりました」
「ものは電線だけではないですよね、エポキシ樹脂もアウトなので。
とにかく乾燥してれば大丈夫なので基板の防水技術開発は優先です。
車などで多用されているプラスチック類は耐候性が必要なのですべてシリコンになるでしょうし、船はもう影響は出ているかも知れません。
FPR船など10年も保たないでしょう」
「うわ、そうか・・・」
「とにかく優先は電線です。
一カ所でもショートしたら停電になってしまうので、現代社会は電気がないとどうしようもなくなっています」
「そのとおりですね・・・」
変圧器メーカーや電力供給関連メーカーも呼び、白物家電メーカーも呼んで会議を開いた。
「やっと納得が出来ました」
「我々もです。ホノルルのサンプルは無償として、今後の開発データにさせてください」
「それはうれしい申し出です。すぐにでも置き換えが必要な洗濯機やエアコンは調査させていますが数万世帯に及びます」
「う、うう、やります!」
「ハワイに部隊を送り込み、調査と改修を進めています。
加えて、新製品を開発していまして、そのサンプルを無償提供します。
我々もデータが欲しいのですよ。
軽量化のためにプラスチックが使えるところは置き換えてきた歴史があり、そうもいっておれませんから」
「よろしくお願いします。受け入れ体制は連絡させます」
日本企業はやることが速い。
新製品開発部隊は全て対応品開発部隊に再編された。
「理由はわからないけどハワイの人が困ってるから助けたい」
という一言で動いちゃったりする。
ーーーーーーーーーー
「タイミングが重要だから、くれぐれも頼むよ」
「わかった・・・しかし、うちだけでいいのか?」
「電子版で一番読まれてるだろ」
「ま、そうですけどね・・・ああ、しゃべりたい」
「社会的に死刑になっても良いならどうぞ」
「う!」
ネイチャーの論文三報は、国連総会での発表のタイミングで電子版が発表される約束で、できあがったのが2月。
通常なら査読で2~3名の科学者が確認するが、一報の共著者120名の中にリストアップされた査読者全てが入っている。
すぐにOK。もちろん守秘義務がある。