六 科学者軍団
2023年末のクリスマス休暇、TK大学に世界中から120名の科学者が集合。
誓約書を書かせてのシークレットフォーラムの開催だ。
「・・・このように遺伝子の水平伝播も確認され、かなり高頻度の変異も確認されています。
これは今後調べなくてなくてはならないのですが、時間が無い。
とにかく、どの程度広がっているかを確認したいのです」
「はい、基調講演で浅田玄樹博士に発表していただきました。
質問もあるようですが、我々は事の重大性を鑑みて、もし、対処法がみつからなかった場合も含め考え抜きました。
最悪のシナリオでは秘密保持のためにこの会は開かなかったでしょう」
「おおお」
「次に、ホノルル市長のブラウニー・オーマン氏から、現状のホノルル市で起こっていることを話して貰います」
「はい、ご紹介にあずかりましたブラウニーです。
この半年、いやその前から、我々は設備の漏電事故や火災の増加に悩んでおりました。
最初に2019年の七月からの発生件数をグラフにしてみました。
スライドを・・・」
「このように、絶縁体のプラスティックがボロボロになっており、
発生箇所を地図にプロットすると、
潮風に乗った海水が降りかかる場所や川の近くが多い。
飛び地もあります。
そこからサンプリングすると、海洋微生物ではなく桿菌が単離されました」
「おおお」
「市民も疑問に思っており説明に苦慮しております。
最近の研究でシリコン樹脂が耐性であることがわかり、サンプルを緊急輸送して電線の張り替えを進めています。
これはあくまでも酸性雨の影響による耐候性の問題と市民には説明していますが、屋内配線や電化製品に影響が現れることを恐れております」
「その点はまだ余裕があると思われますが、頻度は徐々に上がると思われます。
特に洗濯機や屋外設置のエアコンなど、水にかかわる電化製品です。
我々が世界中の調査をするのはその点で意義があります。
そのデーターを元に、優先地域を特定できるからです。
もし、この現象に気がつかなくて対応法がなかったら、大都市はパニックに陥るでしょう。海から離れた田舎に引っ越す必要がある。
それも土中桿菌の汚染が広がるまでのこと。
世界中で電気のない生活になることは必死です。
事の重大さがおわかりでしょうか」
「そのとおりだ!」
「大変なことになる」
「2019年から4年経過し、かなりの範囲に広がりつつあると思われます。
念のために言いますが、シアノバクテリアや桿菌は地球環境を成り立たせている基本的な生物です。
死滅させることは出来ません。
受け入れるしかないでしょう・・・それと監視体制を・・・将来、シリコン樹脂も分解する微生物が発生するかも知れないことを」
「おおお」
「あり得ないことが起こると言うことを念頭に我々科学者が世界をリードしていかなくてはならないのです」
「賛成だ!」
「では、お渡しする測定キットの説明を・・・。
担当企業には何も知らせず、遺伝子情報だけを元にした測定キットを短期間に開発していただいた。
まだ彼らに知らせることは出来ない。
キットの性能は、同定方法を開発した小西博士が確認しています」
「説明します。
シールされた袋から取り出した乾燥試薬の玉が入ったテストチューブにサンプルを一滴入れてください。
一滴は滅菌スポイトで50~150マイクロリットル、
チューブに線が入っています。
これをこの機械にセット、同梱の陽性陰性コントロールも同様に一滴サンプルを入れてセットします。
ボタンを押して約1時間、あ、この機械は単三電池4本で動きます。
最初振動してから遺伝子増幅反応により増幅産物が光ります。
これが陽性、光らなかったら陰性です」
「すごく簡単ですね」
「日本の技術力です。
スマホにアプリを入れてください。
サンプル採取地点はGPSで入力されますので採取深度とプラスマイナスを間違えないで入力して送信してください。
自動的にTK大学のサーバーに情報が入力されます。
手入力になったのは開発速度優先だからです。
キットは24サンプル。
情報送信でカウントされ手持ちが少なくなったら発送します。
まだ製造体制が整ってないのであと3ヶ月は、
手持ち100キットでお願いします。主要都市付近の港町優先です」
「なるほど、バラスト水問題か」
「どんな網でもプランクトンは防御できないですしね」
「土壌は?」
「滅菌容器で1gに1gの滅菌水を加えて遠心。
上澄みをサンプルにしてください」
「わかりました」
「このキットはまだ安定性が0度から60度で2ヶ月しか確認されていません。随時更新します」
「室温で良いならどこにでももっていけるな」
「はい、同じ地点で1ヶ月ごとに追ってください。場所は任せます」
「わかりました」
「キットはTK大学から無償供与します」
「しかしそれは!」
「時間がかかるのと秘密が守れません・・・内部留保でできるところまでやる。
それが当学の覚悟です」
大拍手だ。
みんな顔を紅潮させていた。