四 今、何をするか
「この情報を知る人物は?」
「私たちとナディア、マリアにグレイ・オーマン教授です」
「この件の重要性がわかりますか?」
「今一・・・」
「なんの対策のないまま進めばやがてパニックが大都市で現れます。
ギリギリまで信じない人が我先に移動しようとして道路は渋滞。
電車も止まっているかも知れません。
車が故障すればますます恐怖に駆られてしまう。
ハワイはまだ良いでしょうが、自給自足は出来ますか?」
「難しいかも、ま、観光客どころではなくなるだろうけどね」
「通信手段もなくなり、情勢がわからなくなり、世界的パニックが起きます」
「う、うん、そうだろうね」
「まず正確な情報を把握しなければ。
内陸までは汚染はゆっくり進むかも知れません。
乾燥地帯もです。
ただ水がなければ生きていけないのは人間も同じです」
「文明が進んでいると思っている人類ほど危ういと言うことでしょうか」
「そのとおり、災害で停電が10日続いただけで何人も死んでしまうのが、現代社会です。
停電が回復しないと知ったら・・・」
「そうならない対策を考える時間を稼ぐんですね」
「ええ、最悪人々が計画的に移住できるようにタイムスケジュールを策定します」
「紛争地帯もあります」
「石油権益闘争はなくなりますよ。
石油を買う国がしばらく居なくなるんですから」
「うう・・・」
「経済的な大転換を無理矢理でも起こさなくてはなりません」
「各国の指導者が信じるでしょうか」
「信じるしかならないようにしなくては・・・一国だけの利益はないとね」
「サバイバルゲームですか」
「そうなります。幸い、プラスチックの代わりにセラミックがあります。
その技術開発と技術公開を優先させます」
「ガラスもですか?」
「ええ、基盤には使えます。金属と貼り合わせる方法があれば」
「エポキシ樹脂は?」
「データでは他よりも分解速度が遅いぐらいで」
「すごいなあ、スーパー酵素か」
「様々なバリエーションがあります。なぜかわからないですけど」
「生物進化の常識が変わるか、ふむふむ」
「とにかく飛行機で帰ればいいんですね」
「正確な情報をなるべく早く掴むこと。検査法の確立が最優先、わかるね」
「ええ」
「ハワイに物は残しますか、一応」
「全部分離できた?」
「99%は分離出来ていますが」
「この際100%はいい」
「あの、あたしも日本で協力できますか?」
「ナディアはかなり関わってくれました」
「上司は知ってるの?」
「内容までは伝えていませんが、あたし日本人に親切だって知られてて」
「そのほかは手伝ってないんだね」
「ええ」
「あたしもついて行きます。グレイ、いいですか?」
「うん、こっちは抑えておくが指示を送って欲しい」
「役所で信頼できる人物はいますか?」
「・・・ツーカーの仲の男はいます。てか、兄なんで」
「呼べますか、ナイショで」
「え、ええ、今・・・」
「ブラウニーです」
「色違いですか」
「ううう」
「あの、よく聞いてください。あなたの地位は?」
「市長なんですが、一応民主党の知事とはあまり仲が良くないことになってます」
「あなたは共和党ですか」
「ま、政策の悪いところは言い合ってますが、知事は良い奴だとわかってます。州民を第一に考えている男ですから」
「では呼んで貰いましょうか、これは世界を救うための会議です」
「・・・グレイ?」
「そのとおり。知事が信頼できるなら伝えた方が良いと思う。もう影響が出ている」
「火事や事故のことか?」
「うん」
「やっぱりそうか、わかったよ・・・」
「ケータリングですけど、飲み物は?」
「グリーンティがあれば」
「コナコーヒーは美味しいですよ」
「ふむ、じゃあそれで」
「すぐ来るそうです。奥さんと喧嘩していたらしい」
「う!」
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知事が来て話を聞き青ざめて帰って行った。
「知る人間は少なければ少ないほど良いか」
「とにかく、海沿いの電線は劣化が進んでいると考えていいんだね」
「恐ろしい早さで分解されます。
対策電線が出来るまでは昔のような碍子で離して。
というほうが保ちは良さそうです。
後は水対策ですね、雨にも濡れないように」
「碍子か・・・アンティックショップにしか売ってないな」
「古い倉庫を探させましょうか」
「あ、そういえば」
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「チャーターのプライベートジェット機なんて初めてですね」
「しかし、政府の輸出許可証ももらえたから良かった」
「なんのお話?」
「い、いえ、三田さんが乗っているなんて」
「チャーターなら何人乗っても変わりませんし、とんぼ返りでもハワイに行ったという証拠が残り、仕事人間と言われることもありません」
「あ、そうだね、お土産は買った?」
「はい、マカデミアナッツを父と母と妹夫婦、弟夫婦に、あ、それと従姉の家族と」
「う、うむ」
「皆様、夕食のお時間ですが、あらかじめうかがったメニューをお出ししますので」
「はいはい」
「先生、大丈夫ですよね」
「海よりは遅いから、陸上はあと数年は大丈夫だろう、異常があったら整備するだろうしね」
「ふう」
「あちこちの友人に声をかけて研究は始めて貰ったよ」
「ひ!」
「あ、理由は言わなくても面白そうだからやるって奴ばかりだから」
「変人は変人を呼ぶって事ですか」
「ほう、君も変人か」
「ううう」
「風巻先生は、ハンバーグでしたわね」
「ええと、スッチーも居るはずだが」
「わたくし、幼少の頃はスチワーデスに憧れておりましたから、願いが少し叶いましたわ」
「わかる~」×2
「おホホホ、アサダゲンキ先生は、チキンソテーでしたわね」
「フルネームは嫌がらせ?」
「はい」
「うううう」
「キャハキャハ、受ける~~」×2
「おい!」
ともかくも帰国。
輸出許可証が効いて荷物は検閲パス、無事研究所に届いた。
風巻雷十は学内のネットワークを駆使、慎重に人選してプロジェクトチーム『TK大学ビジョン2025』を発足させたのだった。