二 調査
それぞれ海洋調査船のトリビア話を披露、楽しい夕食会になった。
帰る道すがら、ビーチの方でサイレン音、少し焦げ臭い匂いが漂ってきた。
「火事かしら」
「またか・・・最近多いよな」
「多い?」
「漏電事故がね、海に近い方で多いらしい、設備老朽化の影響かもね」
「ふ~む」
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翌日午前は実験設備の確認と道具の確認、午後は道具を乗せて研究所が持っている小型クルーザー、アロアナⅡ号でサンプリングに出かけた。
「ここら辺は港に近いので生活ゴミも多かったんですが・・・」
「へえ、あ、ウミガメ!」
「触らないでよ、アオウミガメは傷つきやすいの」
「あ、ああ」
「わああ、サメだ!」
「違うわよ、あれはドルフィン、スピードが違うわ」
「もう少し潜ってみましょう、何かあるかも」
「はいはい、こんな海ならいくらでも潜りたいな」
ゴミの除去が進んでいるとは言え、岩の間とか少しは残っているかと思ったが、何度潜ってもプラスチックらしい物は見つからなかった。
「もう少し岸に近いところに行ってみましょう」
船を移動させて再び潜ると、何かを見つけて拾い上げた。
「ふう、結構あったけど・・・」
「最近こんなのが多いわ」
元は何かわからないスカスカになったプラスチック片、漁網らしい繊維状のものは海水から揚げたらバラバラになった。錆びた金属が付いた漁具らしいもの数点もあるべきウキが付いていなかった。
「見て下さい穴が空きまくってるけどこれは堅い足ひれですよ」
「簡単に砕けるな」
「最近、装備の保ちが悪いんですよ」
「へえ」
船のクルーが口を出した。
「必要だって申請してるのに、そんなはず無いって言われてさ、見て下さいよ」
「ううむ」
割れた残骸が箱いっぱいに入っていた。
「証拠を見せつけてやるんでとってあるんです」
「知らなかったわ」
「あたしも」
「よく言っておいて下さい」
「はいはい」
「そろそろサンプリングしましょうか、魚も多いからプランクトンも多そうですね」
「おう、器具を用意しよう」
二人は投入用の器具を準備、海水面からの水深指定で一瞬サンプルを吸入して封入する優れものだ。
「それだけでいいんですか?」
「1Lも10CCも同じ、管理しやすいですから、ただし海の場合は海面と下層ではまるで違うんですよ」
「それはわかりますわ」
「あと砂浜のサンプリングは地表と、含水地下と比較します」
「そのための棒だったんですね」
「ええ、繋げれば3mまでサンプリングできます」
近場ではワイキキビーチと沖合20m、ハナウマ・ベイとマカプウ・ポイント・ライトハウス・トレイルの三カ所、砂浜は各二カ所、沖合は四カ所ずつ18ポイントから96サンプル、滅菌容器に取得した。
「凍結させるんですね」
「液体窒素とデュワー瓶があったので最高っすよ」
「ナディア、あの施設は新しいの?」
「今年稼働したわ、四年前大被害があって場所を変えたの」
「え?」
「2019年の大潮とハリケーンのダブルパンチがあったでしょ」
「あ!」
「被害があったんですか?」
「う!」
「いや、おそらくは遺伝子組み換え生物は死滅するでしょうね」
「ええ、上には報告を上げているわ」
「それを見たいんですけど」
「え、ええ、外部に出せるかどうか確認しておきます」
「さてと、仕事はおしまい、先生、今夜のディナーはどうします?」
「港の近くに良いレストランがあるの、フラのショーもあるのよ」
「やったね」
「それじゃあそこの予算はこちらで」
「いいんです。顔が利くから」
「それじゃあ、サンプルを保存容器に移したら行きましょうか」
「ボクとナディアでやりますから、先生方は少しデートしていたら」
「お、おい」
「あたしは、かまわないわ」
「OK」
「ええと、ボクは?」
「ジムは運転手が終わったら帰って良いわよ」
「・・・ううう」
「力仕事が多かったから助かったよ、ジム」
「は、はい」
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「ナディア、ガラスシャーレはある?」
「え、ええと・・・購入は出来ると思うけど」
「これは大事になりそうだ・・・何処まで広がっているかわからない」
「な、何がですか?」
「プラスチックを餌にするバクテリアや藍藻類がいる。しかも大量に何種類も」
「え!」
「見てくれ、容器が短期間でこんなに・・・全部焼却廃棄してやり直しだ」
「あ!」
「PEもPSもPPもやられている。あり得ないことが起きている」
「ま、まさか・・・」
「とにかく解凍してからは全てガラス容器を使って培養しないと、今じゃガラスピペットぐらいしかないしなあ」
「業者を呼びます」
「東京の業者にも連絡を入れてみるよ。あと、理由はし~だぞ。
事が大きすぎる、確実にパニックになる」
「は、はい」