十一 感謝
サンフランシスコではすでに兆候の火災が増えていた。
米国用の変圧器メーカーへノウハウ供与、資材も多く回された。
世界中の電力関係株が上昇、日本のメーカーは国内対応で手一杯だが、協力を続けて感謝された。
LA、サンディエゴ、ティフアナ、インドネシア、フィリピン、インフラ整備は予算化されて、粛々と体制を整えている。
検査キットでモニタリングして、危険段階と判断された都市は優先的に対応資材を回すルールにも各メーカーは従った。
家電メーカーはシリコンを使ったノウハウを世界に発信後、対応新製品の開発と資材の調達に駆けずり回っていた。
シリコン調達が難しいのでセラミックメーカーと共同で新規の絶縁体も開発、そちらは特許を取り、密閉技術も極めて、ノンシリコンノンプラスティック化、新製品は飛ぶように売れたのだった。
船舶メーカーもFPRに代わる素材としてアルミ合金化船を開発、
自動車メーカーも様々な取り組みでシリコン調達を自製化しようとしている。
検査キットを開発したメーカーは設備投資し、月産二十万キットを製造販売しても需要に追いつかないのでさらに設備投資しようとしていさめられた。
「そのうち何処でも陽性になるから売れなくなりますよ」
「ひい~~」
「当たり前でしょ、内陸用に今の製造設備で30年はやっていけるでしょうけど」
「確かにそうですね」
「それよか、次のターゲット遺伝子を研究した方がいいでしょう。今着目しているのは海洋ウイルスです」
「え、海にもウイルスが居るんですか?」
「無論です。研究は遅れています。
赤潮は藍藻類の異常発生が原因ですが、ウイルス感染で暴走してるのではないかという研究があります。
海洋生物の異常行動も感染の影響かも知れない。
海水中のターゲットウイルスを同定していますので、
検査薬があったら予報が出せ、漁民にとってはありがたい情報になります」
「ああ、先生、ついて行きます」
「ひ!」
浅田玄樹教授と小西努准教授は海洋微生物分野の有名人で出世も早い。
ニヒルな風巻雷十は息子の子育てに夢中、
忙しい3人におだてられたTK大学総長は『そのとき私は』話でテレビに出まくり、キャラも立ってると評判でコメンテーターとして引っ張り箱だった。
「あなたったら、麗太君ばっかり」
「いいじゃん、夜はうしし」
「なんかなあ、クールさが消えた」
「う・・」
八月某日、テレビでは某国政府の声明を伝えていた。
「まだ、あんなこと言ってるわ」
「世界を敵に回してもか・・・よほど悔しいのかな、120人に某国人がいなかったのは海洋微生物分野の研究に力を入れてなかったからなのに」
「某国国民がかわいそうね」
「日本海側も危険レベルになってるからP市はそろそろ危ない。
キットは無償で提供してるのにデータ送ってこない。
北朝鮮はデータ送ってきて援助要請が来てる。
中国は上海と香港が危険レベルで大々的に始めたと知らせてきた。
他国にかまってる場合じゃないって」
「国連からも言ってるんでしょ?」
「あきれて物も言えないみたいになってきた。
どうするかな・・・国連軍派遣かも」
「軍?」
「インフラがズタズタになる前に、対応機材や援助物資を供給しないと市民に死人が出る。病院は電気がないとどうしようもないだろ?準備を始めてるんだ」
「そうか・・・あ。総長が怒ってる人をなだめてる」
『日本人が謝り足りないというなら何度でも頭を下げます。土下座しますからどうか、某国国民のために譲歩してください』
「って・・・」
「入れ知恵じゃないよ、総長は本当に優しい方だなあ」
その放送はネット配信され、全世界の人々から大きな反響があった。
某国国民だってバカではない現政権に対する猛烈な反対デモが全国で発生、現政権は慌てて声明を撤回したがもう遅い。
数日後には無許可のデモが膨れ上がり、警察隊が投入されていた。
「やることが激烈だな。軍事クーデターって」
「デモ鎮圧部隊が寝返ったって構図だな。軍上層部も兵士に裏切られたって訳か」
「P市から援助要請が来ている。
すでに大規模停電だって、海沿いの変電所が爆発炎上しているらしい」
「あちこち火災も発生してるけどポンプがショートして動かないそうです」
「すぐに国連軍派遣して良いか聞いてみて」
「はい」
消防や警察、自衛隊も装備は順次変更している。
対応消火車や救急救命設備などの装備が整ってきている段階。
船も対応は急務で電装関係に影響は出ていたし、米国海軍の軍用機は落ちていたらしい。
他国も海軍から影響が出ていたのは後から知ったことだった。
米国軍は航空機をアラバマ砂漠にある空軍基地に送って改修前の影響が出ないようにしているそうだ。
国連軍の車両や船も日本で改修して日の丸のない国連仕様の車両や船舶でP市に向かった自衛官も国連仕様、在日某国人の志願者も募集して作業に携わることになっていた。
世界各国の報道陣がP市の状況を取材、政府が問題に向き合わず放置すればこうなるという見本になり、世界中が震え上がった。
ーーーーーーーーーー
「なんですって?」
「2025年ノーベル平和賞はTK大学に授与致します」
「TK大学ですか?」
「はい、理由は世界崩壊を未然に防ぎ最悪数十億人もの犠牲者を救った人材を育てたということです」
「うう~ん、始まりはHY大学なんだが」
「ネイチャー電子版の三報が決め手です」
「う、う、わかりました」
「後ほど正式に・・・」
総長は受話器を置いて、すぐに風巻雷十に連絡を入れた。
「わかりますね、いいんじゃないですか?」
「君がメダルを受け取るべきだ」
「大学に授与されるなら総長でしょう。グレイ・オーマン教授もうなずくでしょう、あのホノルル市長とハワイ州知事の感謝の言葉、ありがとうTK大学でしたからね」
「そ、そうか」
「ノーベル賞を貰う唯一の大学、誇らしいです。しっかりスピーチしてくださいよ、テレビで土下座した総長こそ、名誉にふさわしいと思います。世界中の人がそう思ったのでしょう」
「あ、ああ・・・ううう」