十 世間
「さすが巧妙ですね、国連にひっかぶせて」
「もういいだろ、ヒーローにはなりそこねても」
「なんかなあ、あれよという間に教授になっちゃったし」
「ボクも博士とって准教授って、まだ30代っすよ」
「それだけのことをやったんだから、論文はPrf肩書きがないとな」
「あう」
「金の計算はすんでるんですか?」
「三田さんだよ、抜かりはないさ」
「あ、そうですね」
「なんかなあ・・・子供も出来ちゃったし」
「え、先生もですか」
「ええ~先生方もですか」
「まさか予定日まで同じ日じゃないだろうな」
「六月です」
「ボクも」
「オレもだ。新婚旅行ベイビーか・・・ま、そうなるか」
「えへへ」×2
しばらくジュネーブで待機、昨日の総会での発表はスポークスマンに任せた。
確かに突っ走ってきて疲れている。
精神的な重圧は相当のものがあった。
「あ、ここにいたんですか」
「ふう、なんだい、五朗ちゃん」
「アサダゲンキ先生じゃなくて」
「いやがらせか!」
「毎度おなじみですね」
「風巻先生、回り回って連絡が来たんですけど、総理が会いたいそうです」
「面倒くさいな」
「これからどうしたら良いかレクチャーしてくれとのことです」
「もうお膳立て終わっちゃってるだろ?」
「ええ、三日前に各官僚にバラしましたからね、下っ端ですけど働き盛り連中はすでに策定を始めています。連絡会も組織終わってますし」
「後何かあるか?」
「マスコミ対策とか」
「うう、こっちに振られるのも面倒だな、仕方ないか」
「先生お願いします」
「・・・まいいか、常任理事国動議は今夜の終会前になるかな」
「あ、例のことですか」
「国連総長から連絡は無いのかな、聞いてみてくれる?」
「ええ」
ーーーーーーーーーー
「え~ハワイ州知事をお迎えし、ホノルル市公式記者会見を開始致します」
全世界から社会部の記者が大挙押しかけていた。
テレビでも全州に放送されている。
「まず、市長からご挨拶と、概要発表があります」
「ホノルル市長のブラウニー・オーマンです。
国連総会で発表された内容はすべて真実、
秘密を知っていたのはわたくしとHY大学教授・グレイ・オーマン、そしてハワイ州知事他数名に限りました。
当局や議会、市民にも秘密にしてきたことをまず、お詫び申し上げます。
事の重大さに震えながら・・・必死に活動して参りました。
もし、対処法がないまま公になったら、パニックとなり大きな犠牲が出るとのシミュレーションのためでした。
さて、すでに報道もありますが、
事の発端は、グレイ教授が海洋マイクロプラスティック量の変遷という研究に携わっていたからです。
異常に減少しているのが明らかなデータとなって解釈に苦しんでいる時に日本のTK大学海洋生物学の浅田玄樹教授と小西努准教授に調査を依頼。
2023年のことです。
そこで判明したのがプラスティックを分解する微生物というわけで、TK大学始まって以来最高の超天才と定評のある風巻雷十教授に連絡、対処シミュレーションでの指示に従いました。
我々だけではどうしようもないと感じたのは、
その頃増加していた変圧器の爆発事故や漏電火災の増加理由を瞬時に見抜かれたことです。
浅田教授と小西准教授は今ある素材の中からシリコン樹脂なら消化できないことを見いだしてくれました。
その結果からTK大学で試作品や適合する製品を依頼、N電産・K電産、Sポリマー・F化学さんは理由の説明無く守秘義務契約のみで協力してくれたのです。
特に、N電産・K電産からは合計20名もの技術者を送っていただいて、
既存変圧器のシリコン樹脂化対応、
シリコン樹脂電線の張り替え指導をしていただきました。
P電気・T電気の二社は、水場で使い尤も影響が出る洗濯機とエアコンのシリコン樹脂化製品の開発を優先し、約3万台の製品の置き換えを無償で行っていただきました。
『ハワイの人たちが困っているから』
という理由だけで一生懸命働いて助けてくださった。
もし、彼らの働きがなかったら今頃ホノルルは焼け野原か電力の無いゴーストタウンになっていたことでしょう。
これが真実、もう公になったのでわたしは声を大にして言います。
ありがとう日本、ありがとうTK大学」
「ハワイ州知事のアンディ・ムトーです。
わたしは米大統領に対しても秘密を守ってきた。
強権連発で各自治体に変圧器と電線の調査と置き換えを命じてきました。
ホノルルと同じくもう兆候が見えていたのです。
同じくN電産・K電産の技術者に働いていただきました。
P電気・T電気の二社の洗濯機とエアコンを無償では申し訳ないので原価で別けていただきました。
手をこまねいていたら他の都市も焼け野原か電力の無いゴーストタウンになっていたことでしょう。
わたしも声を大にして言います。
ありがとう日本、ありがとうTK大学」
感動的な発表、
市長と州知事が日の丸とTK大学旗を掲げ、お辞儀をした。
全ての人々が拍手喝采を送った。
「世界の皆さん、このストーリーを台無しにしないでください。
すでに対応は始まっています。
優先順位も発表されました。
国連安保理事会が、TK大学を顧問にして対応を主導します。
慌てず各国指導者のの指示に従うことです。
そうすれば犠牲は出ないと信じています」
「私もそう思う。そして、あの発表にあったように、
海を汚さないことを誓おうではありませんか。
二度目が起こる可能性がある。
これは海からの警告です。
また誰かが助けてくれるなんて考えてはいけないことです」
その後、全てを知ったホノルル市民達は、観光に来ていた日本人を見かけると誰彼と無くお礼を言い、戸惑わせたのだった。