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吸血できないなら吸血鬼やめっちまえ。  作者: 七光 輝
1章 紫紅の誇り《マゼンタ・プライド》編
9/15

9話 血卵〈アーフ〉

ー西暦2024年、《失われた首都(ロスト・プライド)


深い森の中で1人の女性が走っていた。

まるで何かに追われている様子である。


「はぁ、はぁ、はぁ」

「クソアマが!!!!待ててめえ!!!

てめえだけはこの手で殺してやる!!!!」


美しい夜空に燃え盛る炎が呑み込まれたかのような

紫紅色の長い髪。すらっと伸びた手足。

全てを見透かしそうな美しく漆黒の瞳。

出るとこは出て、引っ込むとこは引っ込んでいる、

まるで精巧に掘られた彫刻のような

芸術的で美しいボディーラインは

彼女の纏う絹のワンピースでも隠しきれない。

絶世の美女と言っても過言ではない、

そんな彼女がよく見ると傷だらけになっていた。

裸足で森を駆け回る彼女を、

茨が容赦なく美しい肌に傷をつけていく。


「出てこい!!!!どこにいるんだああああ!!!」


どうやら追っ手が彼女を見失ったようだ。

それに気づいた彼女は、少しばかり一息につく。


「はぁ、はぁ、これでまけたかしら。

しかし、本当に魔物が全然いないわね。

一体どうなってんのよ、ここ。」


気がつけば辺りは木々が更に生い茂り、

一面は真っ暗になっていた。

どうやら知らず知らずに

森の奥まで来てしまったようだ。


「はぁ、はぁ、絶対生きのびてやるんだから...!」


そう決意した彼女は、森からの脱出を目指し、

再び足を進めていった。



ー数時間前。

魔都「パイロハイト」都下4区、酒場「バッケス」


「最近あんた、稼ぎ良いみてえじゃねえか!」

「まぁな、おかげで今じゃ傭兵も

雇えるほどってもんよ!」

「ところでジェフよ、運送屋のお前さんが

どうしてそんなに儲けんだよ?

言っちゃ失礼かもしんねえが、

数はこなせない仕事だから

大儲けするもんじゃないだろ?」


全くその通りである。

運送屋という仕事は長距離移動が

主になるため、賃金はともかく、

数はこなせないことで

全く金にならない仕事として有名なのだ。


「バカかリック、そりゃ価値あるもん

運んでっからに決まってんだろーよ!!」

「それでもお前の稼ぎはおかしいって!

なんか秘密あんだろ?教えてくれよ!」

「へへっ、しょうがねえなぁ。

ちょっと馬車まで来いよ。」


2人ヘラヘラ笑いながら

ジェフの馬車へ行き、荷物を見せてもらうと

リックと呼ばれた男は衝撃な光景を目にする。


「これみてみろよ、

これを運んでっから金がいいんだよ。」

「なんだよこれ、お前まさか....」


馬車には手足を縛られ、今にでも

息絶えそうな人々が乱雑に乗せられていた。

ひどい悪臭が漂い、

中にはもう死んでるんじゃないかとさえ

疑ってしまう者もいる。


「ああ、副業で"人流し"もやってんだよ。

1人頭10万サタリスだ。すげえだろ!笑」

「噂では聞いてたけど、ほんとにこういうことが...」

「ああ、こんなもん日常茶飯事だよ。

半年前に始めたけど、すでに100人以上は運んでる。」


人流し。わかりやすくいえば、「人間処理」である。

貧困の格差が広がってる「パイロハイト」では、

人件費の削減が最も大切なものになっていた。

それが故に、「いらなくなった」人々は

「人流し」によって容赦なく

「処分されている」のだ。

主な対象は働けなくなった老人や

不治の病に侵されているもの。

梅毒などの性病にかかった娼婦、娼年。

使え物にならなくなった奴隷である。

そこでジェフのような運送屋に処分を任せ、

それと引き換えに代金を貰うという仕組みなのだ。


「お前、こんなんバレたら....」

「ああ、だからお前も誰にも漏らすなよ?

万が一、いくら友達だからって

その時は命がないと思え。」

「いやまぁ、いいんだけどさ。

人を運んでるのはいいとして、

どうやって「処分」すんだよ?

まさかお前が殺してんのか?

それとも殺させてんのか?」

「そんなわけないだろ?

そもそも不浄なやつが多いから

俺も触りたくないし、誰も触れたがらないよ。」

「ええ、それじゃあ....」

「ほんとリックはバカだなぁ....

あるだろ?運送屋の俺だからこそ使える

「処分の仕方」よ!」

「まさか、お前()()()に運んでんのか?!」

「ああ、こいつらを《失われた首都》に捨ててんだよ。

置いておくだけで勝手に魔物共が処理してくれる。

入れる人が限られてるあそこなら

人骨が転がっててもバレやしねえだろ?」


失われた首都(ロスト・プライド)

求血種領の西側に存在する、

最大の領地にして最大の穢れた土地であり、

ヴァンピューレのかつての首都である。

魔王「ヴラド」の呪いにより土地が穢されて以来、

誰も住めなくなり、求血種たちは塀で囲み、

近づかないように各血族は暮らしているのである。

そこには各魔都の権力者や特定の人々しか

入ることは許されておらず、

「普通のごみ」を運ぶために運送屋であるジェフは

そこに含まれているのだ。


「なるほどね、でもあそこってたしか魔物だらけだろ?

空気中の血鬼因子の濃度も尋常じゃないから

ちょっとでも空気吸っただけで

吸血鬼(レヴナント)化》するって話じゃんか。

それが故に立ち入り禁止になってんだから、

そんなに出入りして大丈夫なの?

「普通のゴミ業者」だって年に2回しか

入ることを許されてないんだぞ?」

「それがよ、内緒話にして欲しいんだが、

理由はわかんねえけどここ5年くらい

あそこの血鬼因子がすげえ

薄まってる気がするんだよ。

防護マスク無しでも余裕で活動できるし、

魔物も見かけなくて、入ってる

「業者」もどんどん増えてんだよ。」

「ええ、どういうこと?浄化されてるってこと?」

「いや、それは無いと思う。さっきも言ったけど

「業者」増えてるのに、

一つも遺骨を見たことがねえんだよ。

だからきっとなにかやべえのが

住み着いていて、空気中の血鬼因子を取り込み、

流された人々や魔物を食い尽くしてんだよ。

絶対そう、間違いねえ。」

「うわぁ、怖いなそれ、気をつけろよ?」

「ん!!!!ん!!!!!ん!!!!!」

「ジェフ、荷物が騒いでんぞ?」


2人が談笑してる中、荷馬車の方から

なにやらうめき声が聞こえてきた。


「なぁ、なんでアレだけ袋に包んでんだ?」


ジェフはやたら騒ぐ袋を開けて中身を見せると、


「お前、こいつ?!」

「ああ....」



ー《失われた首都》・深部


「なによ、これ....」


脱出を目指し、暗い森の奥を歩み進めていた

紫紅色の髪の彼女はついに森の中で開けた

土地を見つける。

しかし、そこには不思議な光景が広がっていた。


「魔物...?それとも魔竜の卵...?

それに...死骸の山???」


開けた土地の中心には高く積み上げられた

人骨や魔物の骨が小山を形成していて、

その頂点には鎖で覆われた

真紅の卵のようなものが置かれていた。


「だから魔物がいなかったのね...!

それに人骨って...」

「見つけたぞ!!!!」

「きゃああああああ!!!」


彼女が不思議そうに骸山と卵を見ていると、

後ろから不意に飛びつかれて、

馬乗りで押さえつけられてしまった。


「離せよ!!!離しなさいよ!!!!!」

「ボス、確保したぜ。どうする?」


どうやらいつの間に追っ手に

追いつかれていたようだ。

押さえ込んだ男の背後から

あと2人の男がやってきた。

傭兵が1人と、ジェフ本人である。

おそらく押さえている男も傭兵の1人だろう。


「ったく世話かけさせやがって、このクソアマが!!

俺ら全員でたっぷり犯し尽くしてから

バラバラにしてこの森の中にまいてやんぜ!!!!」

「なぁ、ボス。アレなんだ?」

「ん?」


ジェフの横の男がそう呟くと、

そこで初めて3人が骸山と卵の存在に気づいた。


「死骸の山に魔物の卵みたいなのが乗ってますよ。」


ジェフはそれを見つめ、

しばらく冷静になって考えてみる。

すると、ある1つの結論にたどり着いたのである。


「そっか....そういうことか!!お前らその女を担げ!!!

急いでここから逃げるぞ!!!」

「どうしたんですか、ボス。そんなに慌てて。」

「お前本当にバカだなあ!アレが見えねえのか!」

「見えますよ?死骸の山と卵ですよね?」

「ああ、じゃあなんで人の骨も混ざってんだ?」

「えっと...」

「あれに食われたんだよ!!あの魔物達もそう!!!

てか俺らほぼ毎月ここに人を運んでんのに

遺体を一つも見たことねえだろ?!

魔獣だって一匹見たことねえ!!

おそらくこの森中の魔物や人々はアレに食われてんだよ!!!」

「まじっすか?!言われてみればそうっすね!!

ヤバいじゃないっすか!!!」

「ああ!早くここから出ないとアレが目覚め....」

「ボス....」


ゴゴゴゴゴ

3人が騒いでるといきなり地面が揺れ、

卵がプルプル震え出すと、

卵に絡みついた無数の鎖が触手のように

動き出した。


「早く担げ!!!!逃げるぞ!!!!」

「イヤだ!!離してよ!!!!!」


ガブッ!!


「いってえええ!!!このクソアマが!!!」

「おい逃がすなよ!!!!」


紫紅色の髪の彼女は抵抗して

男に噛み付くと、隙をついて卵の方に

駆け出した。


「待てクソアマああ!!絶対逃がさねえぞ!!!」

「誰か助けてえええ!!!!」


ザクッ


「かっ....なに...これ...」


彼女が叫んだその瞬間、

1本の鎖が追いかけてくる傭兵の

腹に思いっきり突き刺さった。




新章始まりました!これからもよろしくお願いしますm(*_ _)m

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