表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
吸血できないなら吸血鬼やめっちまえ。  作者: 七光 輝
プロローグ
5/15

5話 優劣〈ケリテ〉

どういう事だ?

300年前?末裔?吸血鬼?

話がいきなりファンタジーすぎて

頭の整理がつかない。


「うぐっ.....くっ!!はぁはぁ....」


そいつは俺の首から手を離すと、

うずくまった俺の髪を引っ張って

上向かせ、静かに語りだした。


「どうせお前の殺処分命令が出てるし、

冥土の土産に全て話してやるよ。

約300年前、他貴族の謀略により

当アストレア家は没落寸前に追いやられ、

一族は皆殺しに会い、

滅亡の危機に瀕していた。

当時の家主、ヴラド様は

一族の滅亡を免れようと自分自身の

ご子息であるお前ら双子を

どうにか逃がそうとした。

奥様の「普通の人として育てたい」という

ご意向も含め、ただ逃がすだけではなく、

人間として育てるために

お前らを人間界に送らせた。

お前らの世話役として一緒に

この世界に送られたのが俺だ。」


生まれて300年.....

なんで俺らはその分の

記憶や体験がないんだ?

300年もの年月を生きた気がしない。


「お前らが生まれたのは300年前だが、

この世に産声をあげたのは

ちょうどつい18年前のことだ。

お前ら赤子は人間界に転送される際、

産まれて間もない為、

転送による魔力負荷で身体が耐えられず、

小さな身体を人間界に対応させるのに

300年もの間

コールドスリープ状態にあったんだ。」


そんなバカな....

そりゃ何も知らないのは当然。

赤子のまま300年も

寝ていたというのであれば、

それでも生きているのは

吸血鬼だからなのかと言われれば頷ける。


「俺はお前らの目覚めを

楽しみにしていた。

あの方々の唯一の遺産であり、

我が一族の血を引く

最後の2人であるからだ。

あの方々の命令通り、

「人間」として絶対に育てると誓った。

この地で人間として育て、

たとえ再び吸血鬼として

栄えることがなくても

我が一族の血が万世に

続けばいいと思っていた。

しかし、目覚めてみれば、

現実はあまりにも残酷すぎた。」


残酷?なにが?

何かがおかしかったのか?


「そもそも奥様が人間だったため、

産まれてくる子供は人間、もしくは

吸血鬼と人間のハーフであると

予測はできていた。」


ん?どういう事だ?おかしいぞ。

そんなわけがない。


「吸血鬼も混じってんだから

純血の吸血鬼も産まれるはずだろ?」

「お前本当に頭がいいのか?

メンデルの法則は

学校で習わなかったのか?」

「メンデルの法則....?」

「ああ、人間の歴史で

発見された時はそう呼ばれたんだろ?

もっとも、我ら吸血鬼の方が

発見するのが早かったんだがな?」


メンデルの法則って、

親のDNAによって

子供の持つDNAの組み合わせも

変わるってやつだよな...?


「はじめに、"吸血鬼"と"人間"を

1つの形質として置き換えた時、

メンデルの法則の1つである

優劣の法則において

どちらの形質の方が

強いかと言われたら、

"人間"の方が強いということは

昔から知られていた。

なぜなら人間と吸血鬼の関係を

食物連鎖で考えると、

人間は食われる側に対し

吸血鬼は食う側にあるのだ。

天敵である我々に対して

人間は種を残すのに

繁殖を促すしかないことになる。

それこそが我々にも負けない

強い遺伝子を生み出したゆえんと

言っても過言ではない。

我々は何度も人間と子を作り、

遺伝を試していくうちに

遺伝子レベルの強さにおいて、

吸血鬼は人間に劣っていることに

吸血鬼達は気づいたのだ。

そのため、昔は交配による

遺伝ではなく、

吸血することによって血液感染し、

人間を強制的に

吸血鬼化させていたのだ。」


つまり子供を作るよりも、

移してしまう方が早いと

考えていたわけか.......

でもなんで"人間"の方が

強いとダメなんだ?


「メンデルの法則、

優劣の法則によれば、

親世代の形質の優劣において、

優性形質が劣性形質を

覆い隠してしまうため、

第1世代の子供たちは全て

劣性形質を持ちながらも

優性形質の状態で

産まれることになる。

つまり親世代である"人間"の奥様と

"吸血鬼"であるヴラド様の間では

優性である"人間"、

もしくは吸血鬼としての

本能が覆い隠された

"不完全な半吸血鬼"が

産まれるしかなかったんだ。」


「だからってそれの

どこに問題があんだよ!

人間が産まれるのを

望んでたんじゃねえのかよ?!」


「ああ、全然問題ないさ。

人間だろうが半吸血鬼だろうが

正直大差はない。

圧倒的に強い人間の血が

流れていればそいつは

自ら吸血鬼化することもないし

普通に人間として生きていける。

でも結果が違ったんだよ。

お前らが目覚めた直後の血液検査で、

ありえないことが発覚したんだ。」


「まさか、そんな.......」


その時、俺は色々察してしまった。

特に身近に思い当たる節を

色々繋げてみると、

考えたくはなかった、ありえない、

その事実をそのまま聞かされた。


「お前は大丈夫だったんだが、

彰に"献歯(バイト)"が生えていたんだ。」

「献歯って.....?」

「純粋な吸血鬼の証だ。

吸血の際に用いる言わば"牙"だ。」

「それって.....」

「ああ、産まれるはずがない

"純血(ピュア)"の吸血鬼が産まれたんだ。」

「俺は....?」

「お前は純粋な人間だ、ここに来てからも

お前の定期診断もしてるが

完全に人間でしかない。

だから一族の血を全く引かないお前を

出来損ないだと思ったんだ。」

「そんな....」

「お前らを分け隔てなく育てるため、

そして人間として育てるために

彰の"吸血鬼化"を抑えることにしたんだ。

それがいわゆるあの"薬"だ。

あの中には俺が開発した

抑制剤が入っていて、

それで彰の吸血衝動を抑えていたんだ。」

「吸血衝動って....?」

「お前がイジメながら見てきた

あの"発作"のことだ。

正直いつお前があいつに食われても

おかしくない状況だったんだぞ。

彰を人間として育てるためには、

吸血させないことが何よりも

大事なことだったんだ。」

「吸血するとどうなるんだ?」

「まだ未吸血状態の彰は

今いわゆる"卵"だ。

あの卵の中には人間になるか

吸血鬼になるかを決定する

"雛"が入ってんだ。

吸血によってその"雛"に血を

与えてしまえば吸血鬼として

覚醒するし、身体が熟す18歳までに

吸血を防げば"雛"は

そのまま"ひよこ"として産まれる。」

「18歳って...明日じゃねえか...!」

「ああ、明日まで彰が

未吸血状態であれば

彰の身体は完全に

人間であることを受け入れる。

しかし、昨日の発作のせいで

彰の身体は勝手に不完全な状態で

覚醒してしまったんだよ。

お前も見ただろ、あいつの紅い眼。

あれこそが"濁った"証だ。」

「濁るってなにが?」

「昨日の発作のせいで今のあいつは

"完全な半吸血鬼"になったのだ。

だから明日覚醒したとしても

完全な人間では無いということ。」

「半吸血鬼なら普通に人間として

生きていけるんだから問題ないだろ?」

「ああ、"普通"であればね?

"普通"の半吸血鬼は人間の形質が

優性で吸血鬼の形質が劣性だから

"人間の特徴のみ"を持って生活出来る。

でもあいつの場合は違う。

今あいつは優性である"人間"と

普通に吸血鬼としての本能を持つ

"優性の吸血鬼"を持ってることになるんだ。

交配による法則的な混合から、

劣性形質だった"吸血鬼"が覚醒し、

それぞれの形質があいつの中で

今"独立"してるわけだ。」

「それって......」

「あいつ自身は人間であるけども、

吸血すれば吸血鬼にもなれる

双光血(トワイライト)状態ってことだ!!」


その男は興奮混じりにそう叫んだ。


「ひどく嬉しそうじゃねえかよ、おっさん。」

「ああ、あくまで仮説に過ぎなかったため、

半ば諦めていた結果だったが、

期待していた"人間化"とは

違うけれども、これはこれで

いい結果なのだろう。

吸血という最大の刺激があれば

目に見える明らかな変化も

頻繁に起こっただろうが、

それが出来なかったため

お前のあいつへのいじめが

いい刺激になればいいと思って

見過ごしてたのだ。

この覚醒に至らすまでの

昨日の行為はさすがに

やりすぎだと思ったが

考え方の角度を変えてみれば、

これで希望が持てる!

人間でありながら我ら(吸血鬼)にもなり得る

あの子なら、

一族の再起も可能かもしれない!!

そのためには、全てを知ってしまった

邪魔者であるお前の排除も必要なのだ。

兄弟で双子のお前らを分かつのは

心苦しいが、

()()()もお前の処分を下したし、

悪いが事故にあったってことにしてもらうぞ。

あんなことしてきたんだから、

彰も嘆きやしないだろ。

悪いな、ただの人間で産まれてしまった

自分の運命を恨むことだな。」


嫌だ、死にたくない。

そんなバカな、あいつよりずっと

俺の方が優秀だと思って生きてきた。

俺は"強者"であいつは"弱者"だと思ってきた。

なのに「出来損ない」だと?

殺処分だと?

この俺が?俺がか?

許せない。

許せない。

許せない。

許せない許せない許せない許せない許せない

許せない許せない許せない許せない許せない

許せない許せない許せない許せない許せない

許せない許せない許せない!!!!!!!!!!!


「あああああああああああ!!!!!!

アキラああああああああぁぁぁ!!!!!!!


ドオオオオオオオオン


俺が叫んだその瞬間、

爆音とともに眩しい光が

俺に向かって天より突き刺さった。


いつもありがとうございますm(*_ _)m

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ