3話 陰謀〈コンスピラツィオン〉
何が起こったのか理解できなかった。
帰ってきて早々激怒した父親に殴られるなんて
誰も予想できやしない。
あの無気力で無表情な父親がこうも感情を露わにしたのは
初めてのことで驚きが隠せない。
落ち着いて周りを見渡し、状況の整理がついた時、
俺の怒りは一気に沸点に到達した。
「いてえな!!なんだよ親父!ふざけんなよ!!!」
「お前彰の薬取り上げて遊んだだろ。」
「はぁ?!意味わかんねえ!!薬がなんなんだよ、
証拠でもあんのか?!」
「お前が前から彰をいじめてることは知っていた。
だが兄弟間で競走性でも生まればいいかと思って
見過ごしてきた。
しかしこれはやりすぎだ、反省しろ。」
「ちっ......うぜえ、殴ることねえだろ!!」
「はぁ?彰がどれだけ.......なんでもない、部屋に戻れ。
俺の気が変わる前に。」
「おい彰がなんだよ!!!クソが、彰ばっかり!!!!!」
親父は俺を殴ってすぐ、
何かを思い出したかのようにふと我に返り、
俺に答えることなく彰を連れて治療室に戻って行った。
「彰が一体なんだってんだよ....いっそ......」
俺の中にひとつの感情が芽生えていた。
しかしそれに気づくのはもう少し後のことだった。
「いいか、彰。お前の病はだいぶ進行してる。
しかし治療が間に合わない訳ではない。
お前が18になれば、手術に耐えうる体になる。
だから今度はどんな事があっても必ず薬を飲めよ?
でなければお前の体が持たない、完全に侵されてしまう。
わかったな?明後日までの辛抱だ、耐えてくれ。」
章との騒ぎのあと、治療室で親父は俺にそう告げると、
まるで何も無かったかのように自室に戻っていった。
"出来損ない"ってどういうことだ?
完璧人の章がそんなはずはない。
どう考えても俺の方が欠陥品なはずなのに、
意味がわからん。
それにこの目、紅く染って以来元に戻ってない。
俺の体に、そして周りで何が起きてんだ?
俺と章の間になにがあるんだ?
だがそれも全て明後日の誕生日にはわかるはずだ。
ー魔界。求血種領、魔都「パイロハイト」。
その中央に高くそびえる城こそが
「焔血」ヴァースト家の本拠地である。
その最上階の玉座の間にて、跪きかしこまる男が1人と、
彩やかな紅蓮のマントを纏う1人の男が
唇を噛み締めていた。
「口伝の《双血の悪魔》がすなわち双子を
意味するならば、
私が見たあの二人は間違いないでしょう。
家の方にはあの女の姿はなく、
男一人がいらっしゃっていたのですが、
血瘴気を感じられたので、
おそらく従者に育てさせているのでしょう。」
「やはり直系子孫は残していたか.....」
「しかしながら旦那様、
その双子の様子がどうもおかしいのです。
見た目は瓜二つで双子に間違いないはずなのに、
ほんの僅かですが、
血瘴気を感じられたのは片方のみなのです。
片方は完全に人間にしか感じられないのです。」
「なに.....?つまり片割れだけが
血鬼因子を持っているということか?」
「ええ、しかもその子がこのような物を.....」
かしこまりながら男は恐る恐る一粒の薬品を手渡す。
「どうぞ、ご試飲を。」
「ごくっ.....ん?!なんだこれは?!」
「試しにそのまま魔法をお唱え下さい。」
「火焔!!!」
しかし何も起こらない。
「なんだと?!」
「大公位まで.......まさかこれ程とは…!!
旦那様、もう一度お唱え下さい!」
「火焔!!!」
再びマントの男はそう唱えると、
今度は激しい炎の渦が舞い上がった。
「これはどういうことだ......」
「おそらくあの薬品は、
血鬼因子を抑える品物だと思うのです。
私も飲んでみましたが、旦那様同様、
一時的な血鬼因子の低下を感じました。」
「こんなものを飲んでるなんて....
あの女は一体何が目的なんだ...?
まぁいい、どちらにせよ子孫がいる以上やる事は一つだ。
言わずともわかってるな、グレオ。」
「はい、お任せ下さい、旦那様。」
グレオと呼ばれたその男は黙々と影に溶け込むと、
静寂の中で一瞬にして姿を消した。
翌日、いつもの変わらないはずの朝が、
少し変わっていた。
とりあえず身支度がてら、
急いで洗面所へ向かった。
何か変化でも起きたのかと思って、
鏡で見てみるとやっぱり目は真っ紅だった。
しかし本当にキレイで鮮やかだなぁ....
自分の目の美しさにうっとりしてしまう。
リビングへ行くと、ダイニングテーブルには
父の置き手紙があり、
「朝から出張のため今朝の診断はなし。」と、
書かれていた。
珍しい。やっぱいつもと何か違う。
イベント回避の為にも、
右目を眼帯で隠し、俺は学校へ向かった。
俺の学校生活は一般の高校生とは違って、
イベントづくしである。
なかなか鬱陶しいし、片付けやら掃除やらで
色々めんどくさいが、
慣れればどうってことはない。
「おはよう、アキくん♪昨日はごめんね?」
「いいよいいよ、俺もすぐ終わったし気にしないで!」
「昨日のお詫びとして今日の放課後、
駅前でパフェでも食べに行かない?」
「ほ、ほんとに?!いいの?!」
「うん♪放課後待っててね?
いつもすぐ帰っちゃうんだから!」
「わ、わかった...」
ああ、可愛い、可愛すぎる。
もし天使ってもんが存在するならば
間違いなく彼女はそうなんだろう。
天海さんとの些細な会話や一緒にいる時間だけが
俺のこの生活に希望を与えてくれる。
俺が諦めきって惰性のみで生きてるこの世界という
モノクロの汚い落書きが描かれたキャンバスに、
まるで一滴の絵の具のような彼女の笑顔が、
わずかながらも、彩やかな色を染み渡らせるのだ。
学校に着くと、天海さんは友達と一緒に
先に教室に向かっていった。
俺は上履きロッカーの前で
中サイズのコンビニ袋を広げると、
上履きロッカーの中の溜まったゴミを袋に入れ、
そのままゴミ箱へシュート。
今日で4ヶ月連続シュート記録達成だ、
我ながら偉業を成し遂げたもんである。
これが俺の毎朝定期イベントである。
こんだけシュート決めても、
実際バスケやるとこう上手くはいかないのが現実。
俺の運動神経クソくらえ、まじで。
ならべく目立たないようにそーっと教室に入ると、
なぜか落書きイベントが発生していなかった。
こうしてキレイなままの机に会うのはいつぶりだろうか。
おかしいなと思う自分がおかしいなと思いつつ、
教室を見渡してみる。
やっぱりそうだ、章がいない。
優等生ぶって自習するために早登校していると装って、
俺の机に落書きしているのはあいつである。
教室には金魚のフンの龍二と隼人がいるし、
俺が家出る前にはもう家にいなかったから、
遊んでて遅刻ってことはないだろう。
あいつが休むなんて珍しいな.....
まぁ俺からすれば神様まじサンキューって感じだけども。
俺が神様に全力の祈りで感謝をしていると、
ドガアアアアアアアアアアン
凄まじい轟音とともに外が真っ白に染まるほど
大きな落雷がした。
「おいおい、何が起きてんだよ.....」
眩しさから俺は目を開けると、
遠くの方に大きな黒い煙幕が立っていることに気づいた。
あの方向は、まさか。
「ねえ、アキくん...あそこってアキくんの家の方じゃ....」
天海さんが言い切る前に、
俺は全力で家へ向かって教室を飛び出した。
更新遅くなってごめんなさい(><)
リアル生活が忙しくて、書く時間がありません……( ˊᵕˋ ;)
社会人でこーゆー事するのってなかなか大変ですね...笑
しかし常に物語の構成を考えてるので楽しみにしていてください!
今週以内に更新を予定してます(あくまで予定(--;))