2話 出来損〈ユシェク〉
双子。そう、俺と章は双子だ。
だが皆が思う"普通"の双子ではない。
御影章。
成績優秀、スポーツ万能、容姿端麗。
つまるところ「才色兼備」ってやつだ。
生徒会長もこなすほどの人望もあり、
学校で1番の人気者である。
それに対して、
成績は中の上、運動神経ゼロで持病持ち。
褒めるところがあるとすれば、
章と見た目が変わらないくらいが
俺、御影彰である。
双子なのにどうしてこうも"差"があるのか。
この"差"こそが二卵生と一卵性の双子の違いである。
遺伝子構造が「100%」の一卵性と違って
二卵生は遺伝子構造が「50%」しか合わないと
言われている。
この「50%」が俺と章の間にとてつもなく
大きな差を生んでいるのだ。
今思えばこの不平等な生活の全ては生まれた時から
決められていたのかもしれない。
もし神が100%を半分ずつに分けて俺らを作ったのなら、
いいとこ50%はあいつ側で悪いとこ50%は
俺に詰め込んだんだろう。
あまりにも残酷、理不尽な話だ。やってらんねえよ。
「双子なのに酷いよなぁ笑俺だけ健常でごめんね?笑」
「ぐぐっ......ぐはっ!....くる…し…い…!」
頭の中がおかしくなりそうだ。
"何か"わからないが、たしかに"何か"の
激しい衝動に駆られている。
まるで抑えつけられていた理性が解き放たれ、
赴くままに欲望を叶えようとしているような感覚である。
あぁ...飲みたい....飲みたい.....飲みたい!!
飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい!!!!!
「うがあああああああ!!!!&¥%*#$!!!!!!!!
飲ませろおおお!!!!!飲ませてくれえええええ!!!!」
「えぇ??なんだって??聞こえねえ……なぁ!!!」
発作で叫び狂う俺をドンドンドン、と
罵声と蹴りのコラボを浴びせながら
全力でもてあそぶ章。
その時、後ろで見ていた隼人が呟いた。
「たのしーとこわりーけど、しょー、
もー10分前だぜ?笑」
「まじか、楽しいところ惜しいけど今日はここまでだ。
はい、お薬!お大事にね????笑笑」
そう言って章は薬を床にぶちまけると、
2人を引き連れて屋上をあとにした。
生徒会長としての面子を守ろうと、
時間厳守など変にきっちりしてるのだ。
その傍ら、俺は床一面に散らばった薬を
必死に拾っては即口の中に放り込んだ。
用量も決められているが、
この際そんなことはどうでもよかった。
この衝動を抑えなくては、その一心で精一杯だった。
屋上から全員が去ったあと、
空から1つの影が舞い降りてきた。
影は黒いマントに身を包み、
音ひとつ立てることもなく、
ガキが拾い損ねた薬を1つ拾い上げて飲んでみた。
「くっ....これは。あのガキ……なるほど、
それで《双血の悪魔》というわけですか……
ガセネタだと思ってましたが、
まさか本当だったとは。
面白い、これは旦那様に報告しなければ……」
そうやって意味深な言葉を放つと、
影はまるで弾けるかのように虚空に姿を消した。
「はぁ、はぁ、水!!水が飲みたい!!!!!」
薬のおかげで発作は落ち着いたものの、
喉の渇きはまだ潤わない。
とりあえず水を飲もうとトイレへ駆け込んだ。
がむしゃらにトイレで水を飲んでる
俺を見て引いてる奴らもいるけど、
正直トイレだろうと、飲む場所なんてどうでもいい。
水は水だ、腹に入れば一緒だ。
ついでに顔も洗い、鏡で自分の顔を見て
あることに気づいた。
なんと右目の瞳が紅く混濁していたのだ。
今まで見たことがない鮮やかな紅色に染められた
自分の瞳に思わず見惚れてしまった。
「綺麗……なんて綺麗なんだ……うわぁぁぁあ!!!!」
見惚れてるのも束の間、
あまりの異常事態に情けない声を上げてしまった。
とりあえずイベントの種にならないように、
急いで保健室で眼帯をもらい、教室に戻った。
「どうしたんだよお前笑ボッロボロじゃん笑」
「今日も派手にいかれたねー笑目大丈夫かよ笑」
クラスメイトに笑われる中、自分の机に向かうと、
クラスメイトの女子が俺の机を必死に拭いていた。
よく見てみると机には悪口や落書きが
びっしりと書き詰められていたのだ 。
「ごめんね、アキくん!今キレイにするからね!」
「あぁ…いいよ、いつもありがとうね、天海さん」
「天海さんってほんといい子だよね〜
あんなノロマにも優しくできるんだから笑笑」
「さすが美化委員長!!お掃除お願いしまーす!ってか?笑」
「「笑笑笑」」
教室に帰ってきてから掃除からのこのやりとり、
そして野次までワンセット。
昼休み終わりのイベントである。
最初は自分で掃除していたのだが、
いつの間にか天海さんが
やってくれるようになり、
今ではそれが当たり前になっている。
いつからか教室に戻ると机がびっしりと
落書きされてたんだよね。
汚れてるなら落とすでしょ?
なのに次の日にはもう汚れてる。
気がつけばその繰り返し、そして今に至る。
慣れればどうってことない。
汚れなんて落としゃいいんだからね。
「ちっ、気に入らねえな、
なんであいつばっかなんだよ。」
2人で一緒に机を掃除してる光景を見て、
章はそう呟いた。
気に入らない、ただそれだけが
彼の心の中に繰り返し響いていた。
放課後、俺は美化委員の仕事で
天海さんと教室の掃除をしていた。
するとそこに章が現れ、
「天海さん、ちょっといいかな?
美化委員について話があるんだけど。」
「う、うん、わかった。ごめんね?アキくん...」
「大丈夫、残りはやっておくよ。
生徒会長待ってるよ。」
「うん........今度ちゃんと埋め合わせするからね!!!」
「ごめんな?彰、あとはよろしく笑」
にやけながら章はそうやって言い残すと、
天海さんを連れて教室から出て行った。
天海凛、学校の美化委員長で、
クラスの学級委員長でもある。
人一倍正義感が強く、
とても美人で人気もあり学校のマドンナ的存在。
成績も優秀で、期末試験は章と常に
ツートップである。
噂では章と付き合ってるらしいが、
そんなことはどうでもいい。
どちらにせよ俺とはかけ離れた存在で、
弱者側の人間ではない事は確かだ。
委員の仕事を済ませ、俺は急いで帰路についた。
委員の仕事で時間が押していて、
"あれ"に間に合いそうにないのだ。
「おかえり、遅いぞ。健康診断するから
着替えたら早く治療室に来い。」
御影了、俺の親父だ。
基本無表情で1日3回しか会わない。
起床後の健康診断、帰宅後の健康診断、
晩飯の時のみ。
正直会話も診断の時以外しないし、
普段何してんのか、
どんな仕事してんのかさえわからない。
彼いわく、持病のせいで俺の容態は
時々刻々と変わっていくらしい。
そのため我が家には俺専用の治療室があり、
毎日ここで父による俺の健康診断が行われている。
「その目の眼帯はどうした?怪我でもしたのか?」
「いや、今日実はさ……」
俺は眼帯を外し、親父に紅く染まった目を見せると、
まるで恐れるかのように焦りながら俺に問い詰めた。
「薬を飲まなかったのか?!何があったんだ!!」
「章に薬を取り上げられて飲むのが遅れちゃって、
発作が出たらこうなっちゃった。」
俺はありのままあったことを告げると、
親父は鬼気迫った表情でさらに続けた。
「あのクソガキ……出来損ないの分際で!!!!」
ここまで感情を露わにした親父を見るのは初めてだ。
しかしその怒りは我が息子に向けた
親としての怒りよりも、
大事な何かを壊されそうで許せないという
全く別の何かに感じられた。
親父が怒り狂っているその時、
玄関のドアが開く音がして、
親父は一目散に玄関に向かった。
「ただいま...っておやー」
親父は章を見るや否や躊躇いもなく殴り飛ばした。
思いのほか書けちゃったので早めの更新!誤字脱字あったらすみません┏○ペコッ