1話 事実〈フェ〉
世の中は不平等だ。
なぜ人々は等しく生きることができないんだろうか。
この社会で生きる上では、我々に常に何かしらの
他人との格差が生じている。
社会的地位、経済力、魅力、学力、身体能力など、
格差を生む例をあげればキリがない。
たしかに個々の個性は様々だし、
生まれ育った環境や遺伝子的な要因を含めれば、
個人の差は生まれても仕方ないことだと諦めがつく。
何億も人がいるんだ、そりゃ変わったやつもいるし、
むしろ何億も同じ人間がいたらかえって気持ち悪いだろ。
しかし、その格差はいいとして、
なぜその格差があるだけで
他人に虐げられなきゃいけないんだろうか?
なんで俺はいじめられる方で、
こいつらはいじめる方なんだろうか。
何も他人が劣ってるからって蔑む必要ないだろ?
一度でいいから、そっちの世界の景色を見てみたいな……
思いつく限りの悪で虐げてみたい……
なーんてくだらないことを目の前の
ヤンキー3人の話を聞きながら考えていた。
「おいノロマ、早くパンとお弁当買ってこいよ。
もちろんお前のおごりでな?」
「話聞いてんのかてめえ?何ぼーっとしてんだよ!」
「キモイんだよ!早く行け!!バーーーーカ!!!!!!!」
そしてオマケに腹パンを1つ。
「グハッ……い、いま行くよ……」
罵詈雑言の三重奏に腹パンを1つ、
ここまではワンセット。
俺がパシられる時のテンプレイベントである。
毎日昼休みになると決まって屋上に呼び出され、
こうしてパシられるのだ。
慣れたもんである。バイトしてるし金銭的な問題は無い。
暴力に関しては元々の体質のせいか痛覚が弱いらしく、
痛みもさほどではない。
素直に言うことに従っていればこれ以上
酷いことも滅多にされない。
慣れってのは怖いもんである。
何事も当たり前になっていくんだから。
俺の昼休みの流れは基本的に、
パシリの呼び出し→イベント→買い出し→便所飯、
である。
今日もいつものように買った品々を届けて、
そそくさと帰ろうとしたところ、
ヤンキーの1人が俺を羽交い締めにして押さえ込んだ。
「いーぞ、りゅーじ、そいつを離すなよー笑」
「早く取れよ!こいつから変なもん移ったら
どーしてくれんだよ?!」
「わーってるって笑焦んなよ笑」
そう言うと、ヤンキーがもう1人俺に近づき、
俺のポケットから持病用の薬を取り上げた。
運が悪いことに、いじめられっ子だけでなく、
俺は持病持ちである。
1日3回、しかも決まった時間に必ず薬を飲まなければ、
すぐに発作が生じる重病である。
「やめてくれ!!それだけはやめてくれ!!返して!!!!」
「うるせーなー笑ちょっと借りるだけじゃーん笑」
「お願いだ……それだけは……」
そいつが俺の薬を取り上げ、ご機嫌に騒いでると、
「隼人、それよこせ、いいもん見せてやる笑」
隼人と呼ばれた男は奥のヤンキーに俺の薬を渡した。
その瞬間、俺は凄まじい口渇感と欲求不満に襲われた。
別に痛みがあるわけではない。
ただただ何かを飲みたい、
何かに満たされたいという激しい衝動である。
「グハッ!!お願い…!!!うぐっ…かえ…し....て......!!!」
「うっわぁ笑笑まじかよ笑ほんとに発作出るんだ笑笑」
「マジきめー笑ありえねー笑笑」
俺がもがき苦しむそばで龍二と隼人がゲラゲラ笑う中、
俺の薬を持ったそいつがまるで見慣れたかのように、
慣れたかのように俺に問いかけてきた。
「どうだ彰、苦しいか?久しぶりの発作どうよ?」
「しょ....う......かえし......て…」
「お前ちーっちゃい頃からこの薬なしじゃダメだもんなー
高校生になった今なら変わった
反応してくれると思ったのに昔と一緒じゃん笑」
「ぐはっ…!うぐっ......くっ......!!!!」
俺は狼狽え、もがき苦しむことしかできなかった。
俺にとってあの薬は全てだ。あれがなきゃこの有様だ。
イジメを受ける受けない以前に、
まともに話すことさえ出来ない。
この持病こそが俺を圧倒的な
弱者たらしめてるもんである。
「よっわいなぁお前笑なんで俺とお前の間に
こんな差があんだろーなー笑笑」
「おい章笑そこまでにしてやれよ笑彰死んじゃうよ笑」
「大丈夫だって笑ちっちゃい頃からやってるから
加減ぐらいはわかるっての笑笑
こいつのことならなーんでもわかるよ笑だってー」
「俺とこいつ双子だもの笑笑笑」
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