スタートダッシュ……?
「でっけー……」
俺は王都に入るための門を見て、思わず呟いた。
王都には東西南北の四方に王都に入るための門があり、俺はそのうちの東側、正門に到着した。
壁の大きさもさることながら、これまた門の大きさもとてつもないのだ。
「おいカイン! 早く並ばんと日が暮れちまうぞ!」
そう。ここは王都。大陸最大の都市なのだ。
そりゃ王都に別の街や村から来る人もたくさんいるわけで、今もこうしている間に一人、また一人と門の前に、検問に並ぶ人が増えている。
「わかりました! すぐに行きます!」
そう言って俺はハイルさんの元に走り、列に並んだ。
「ああ、そうだボウズ」
「何ですか?」
「お前、王都に入ったらまずどこにいくんだ?」
あっ……なんも考えてないや……
「その……なんも考えてないです……」
「んなことだろうと思ったぜ。
そんじゃまずうちに来な!助けてもらった礼をさせてくれ!」
まあ特にこれといった予定もないので、
「はい、わかりました。お邪魔させてもらいます。」
と、同意した。
「次ー!」
「おっ順番が来たみたいだな。ボウズ、先に行ってるぜ。」
そう言って彼は門番の元へ歩いて行った。
「次の人ー」
おっ俺の番だな。
俺は門番の元へ歩いて行った。
これからこの門番さんにお世話になるかもしれないのだ。
ここはしっかり好青年だということを示さねば。
「こんにちは!お勤めご苦ろ……」
「身分証を。 」
「え?」
「身分証。」
「なんですかそれ?」
「は? お前持ってないのか?」
「はい。そんなの無いですけど……」
「まじかよ……」
「………………」
やらかしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!
なんで!? なんで師匠持たせてくれなかったの!?
ああ! なんか階段一段目で転げ落ちた感じだよ!
「ごめんなさい……」
「どうしたんだよお前、無くしたのか?」
「いや、何年もの間山にこもってたもので……持ってないです。」
「なんだよそれ……まあいいや。
おーい!誰かこいつの仮発行やってくれ!」
門番さんがそう大声で叫ぶと、奥の方から若い兵士が走ってきた。
「よう、すまねえなラック。ちょっとこいつの身分証を仮発行してやってくれ。」
「どうしたんですか? 無くしでもしたんですか?」
「いや、山籠りしてたから持ってないらしい。」
「なんですかそれ……」
なに!?そんなに山籠りって珍しいことなんですか!?
そんなに俺がおかしいのか!?
「わかりました。じゃあ奥で手続きをするのでついてきてください。」
「あっハイ。お手数をおかけします。」
「まあ、仕事ですので。」
そう言って彼は疲れたような顔を見せた。
本当にごめんなさい…………
ついていくと、そこには小さな部屋があった。
門番たちの休憩所兼事務室らしい。
「どうぞ、入ってください」
「お邪魔しまーす……」
中にはテーブルと椅子が複数、そして本棚と端に置かれた水晶?のみ。
「どうぞ掛けてお待ちください。」
そう言われたので椅子に座りながら待っていると、
「お待たせしました。今から身分証の仮発行を行います。と、言っても簡単な質問と犯罪歴を調べるだけですので。」
そう言って彼は紙とペンを取り出し、部屋の恥にあった水晶を持ってきた。
「じゃあいくつか質問をしますね。
お名前を教えてください。」
「カインです。」
「カインさんね。じゃあ年齢は?」
「十八歳です。」
「十八歳ね。結構若いんだね。」
ハイルさんにも言われたが、そんなに俺は老けているだろうか。
「オーケー。じゃあ次は犯罪歴を調べます。この水晶に手をかざしてください。」
「これは何ですか?」
「これは真実の水晶と言ってステータスを一部見ることができる魔道具だよ。今は犯罪歴を見る設定になってるから、手をかざすとその欄だけが表示されることになる。」
「へえ……」
世の中便利なものもあるものだと思った。
「じゃあ手をかざして。」
そう言われたので俺は自分の手をかざすと、水晶に文字が表示された。
「犯罪歴なし……と。よし、これで仮発行の手続きは終わりです。」
そう言って彼は俺に文字の書かれた木の板を渡してきた。
「これを三日以内にこの王都にあるいずれかのギルドに持って行ってください。発行には銅貨五枚必要ですが、発行しないと不法侵入とみなされますので、注意してください。」
「了解しました。ありがとうございます。」
俺がそう言うと、彼は部屋の扉を開け、外に出るよう促した。
「それではカインさん! 良い一日を! そして、ようこそ王都へ!」
彼はそう言って俺を送り出してくれた。
門をくぐると、そこには人で溢れかえった街があった。
どこを見ても人。人。人。
こんなに賑やかなのは見たことがない。
「おーい! カイン!こっちだ!」
声のする方を向くと、そこには先に入っていったハイルさんの姿があった。
「お待たせしてすいません。」
「いいってことよ。でもまさか身分証を持っていないとはなぁ。」
「もう過ぎたことだしいいじゃないですか!仮発行も済みましたし。」
「まあそうだな。それで今からどうすんだ?
予定どうりうちに来るか? それとも先にギルドにいくか?」
「いや、予定どうり先にお邪魔させてもらいます。」
「おうそうか。よしわかった。なら早速いくか!」
そう言って彼は歩き出す。
「そういやお前どこのギルドにいくんだ? もう決まってんのか?」
「そうですね。師匠に冒険者ギルドに行けと言われたので、その通りにしようかなと。」
「ほう、冒険者か。そりゃいい! お前にぴったりだ!」
ガハハ!と笑いながら彼はどんどん進んで行く。
俺も人の波に多少流されながらも、頑張ってついていった。
「そういえばハイルさん。馬車はどうしたんですか?」
「ああ、あれは門のところに馬小屋があってな、そこにいつも預けてんのよ。そこから遠出するときは出して行くって感じだ。」
へえ……そんなとこがあるのか。
「ほらカイン!見えてきたぞ、あそこだ!」
ハイルさんのお店かあ。一体どんなとこなんだろう……ってでっか!!!
ナニコレ!! ハイルさんってこんな大きな店持ってんの!?もっと小さな可愛いお店かと思ったら思いっきりゴッツイじゃねえか!!!
「どうだカイン。でっけえだろ?」
「ええ、正直びっくりです。ハイルさんならもっと小さなお店だと思ってました。」
「なんだとてめぇ! いい度胸してんじゃねえか !」
そんなことを言って店の前でドタバタしてると、店の扉が開き、中から一人の綺麗な女性が出てきた。
「あらあなた。お帰りなさい。」
ん? "あなた"? 今"あなた"って言わなかった!?
「おおミラただいま。しばらく留守にしてすまねぇな。俺がいねえ間、大丈夫だったか?」
「ええ。何も起きずに平和でしたよ。それで、そちらの方は?」
「は、初めまして、か、カインと言います。」
か、噛んじゃった……
今頃俺の顔めっちゃ赤くなってんだろうな……
「おおそうだ! 聞いてくれよミラ!」
そう言って彼は俺との出会いを奥さんに話し始めた。
「そうだったんですね……。カインさん。夫を救っていただいてありがとうございました。」
「いいえ、そんなこと。当然のことをしたまでですよ。」
「ふふ。お優しいんですね。」
「ミラ。これからカインに色々と礼をしたいんだが……悪いがちょっと二人分の紅茶を部屋に持ってきてくれ。」
「ええ。わかりました。」
「じゃあカイン。ついてきな。」
「あっはい。わかりました。」
そう言って俺たちは店の中へと入っていった。
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ごめんなさい。