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巣立ち

楽しんでいただけたら幸いです。

 

 あれから、10年が経った。


 チュン チュン チュン チュン …………


 十八歳になったカインは、朝の日差しと、鳥の鳴き声で目が覚めた。


「いい天気だな。」


 ベットから起きたカインは、すぐに階下に行って顔を洗い、庭に出て日課である剣の素振りを行う。

 素振りをしている途中、ふと、昨日師匠に言われたことを思い出した。




「カイン、よく聞け。

 お前がうちに来てから、もう10年になる。

 その間ずっとお前は山にこもりっぱなしだっただろ?」


「はい。」


 そう。この十年、俺は修行に夢中で外の世界に関心なんて持たなかった。

 師匠は度々外に出ていたらしいのだが、行き先も、目的もなぜか教えてくれなかった。


「それでだ、お前もそろそろ外の世界を知らなきゃいけないと思ってな。明日の朝、王都に旅立て。」


「え? 王都にですか?」


「ああそうさ。あそこなら私の知り合いも沢山いるしな。まあお前のステータスならどこに行っても恥はかかん!! 胸張って行ってこい!」


 そう言って俺は突然師匠からの旅立ちを命じられたのだ。





 素振りを終え、俺は近くの木のそばに腰を下ろした。


「ステータスオープン」


 そう俺が唱えると、虚空から文字が出現した。



 名前 カイン

 年齢 十八歳

 性別 男

 種族 人族

 スキル 剣術(上)[剣神の加護] 身体強化[剣神の加護]

 見切り[剣神の加護] 極火魔法[贈り物(ギフト)] 暗黒魔法[贈り物(ギフト)]

 犯罪歴 無し




 今までの修行で、もともとあった剣術(下)は剣術(上)に、火魔法は炎魔法・業火魔法を経て極火魔法に、黒魔法は暗黒魔法へと進化した。


 自身のスキルは、その熟練度によってレベルアップし、進化する。


 師匠はそう言っていた。


 休憩を終えて、これまた朝の日課である朝食作りをしている時、後ろから肩を叩かれた。


「ああ、おはようございます。師匠。」


 そこには、十年もの間俺を育ててくれたレイス師匠の姿があった。

 まあ、髪はボサボサで、パジャマ姿のだらしない格好なんだけどね……


「今日の朝飯何ー?」


「ハムエッグと鳥のローストとキノコのスープとトーストです。」


 朝食にしては豪勢な気がするが、これくらい作らないと師匠は満足しないんだよ……

 ホントに飯にだけはうるさいんだからなぁ……


「あー いい匂いがするなぁー」


「もうすぐできますから、先に席について待っていてくださいよ!」


「あいよー」


 そう言って師匠は手をひらひらと振り、奥にあるテーブルに座った。





 しばらくして、できた料理をテーブルに並べた。

 テーブルに並べられた数々の料理からはとてもいい匂いが漂ってくる。

 これは……我ながら最高の出来かもしれない……


「ほら何してんだよ。早く食うぞ」


「はいはい。分かりましたよ。全くせっかちなのはいつまでたっても変わらないんだから。」


 そう言って俺は椅子に座り、師匠と一緒に手を合わせて、


「「いただきます。」」


 と、料理を食べ始めた。










「「ごちそうさまでした。」」


 朝食を食べ終えたのは、食べ始めてから約二十分後だった。


「いやー今日はいつにも増してうまかったなあー」


「あはは。それは良かったです。」


 そう言って俺は食器の片付けをしようと思って、席を立とうとした。


「なあカイン。ちょっといいか。」


「はい。何でしょうか、師匠?」


 珍しく師匠が真剣な顔で話してくるので、少し驚いた。


「お前の両親を殺した奴についてだ。」


 驚いた。

 このことは今まで師匠には言ってこなかったはずなのに。


「……知っていたんですね。」


「もう十年も一緒に暮らしてんだ。わからない方がおかしい。それに夜にもよくうなされてたしな。」


 正直焦った。

 ここで急にこんな話を振ってくるとは思ってもいなかった。


「それで、肝心の内容は何なんですか?」


「ああ。なあに、お前のことだから復讐する相手のことをほとんど知らないだろうと思ってな。」


「うっ……それは……」


「図星だろ。

 まったく、どんな奴だか分からんような相手に復讐しようなんて考えてたのか。」


 仕方ないでしょうが!!

 山にこもってて調べることもできなかったんだからさ!


「さて、話を始めようか。

 まずは、あの出来事の収束について説明しようか。」


 そう言って、師匠は話を始めた。








 俺の両親が殺されたあの日、俺の村以外でも、あの悪魔は出現していたらしい。いや、正確には悪魔ではなく魔人というそうだ。

 魔人は大量の魔物を引き連れ、村を、町を破壊していったという。

 魔人が出現したことには、魔神の復活が関わっているらしい。あの日の空が黒に染まっていたのは、それが関係しているのだろう。

 実際魔神の復活は、世界に闇をもたらす厄災とされている。

 結局、この事件によって数え切れないほどの命が失われることとなった。

 そして、この事件は、勇者の出現によって終わりを迎えたらしい。

 世界の半分ほどが破壊されたとき、その勇者が突然出現した。

 勇者の力は結界を築く力で、それを使って各地の魔人を封印していったらしい。

 しかし、勇者が魔神と対峙したとき、魔神の力が大きすぎて勇者の力では封印し切れなかったという。

 そこで勇者は自らを礎にして、魔神を封じ込めることに成功したという。

 この世界最悪の厄災を、人々は悪魔の宴(デビルカーニバル)と呼んだ。



「と、いう感じだ。」


「じゃあ、あいつらは今は封印されているんですか……」


「実はそうでもなくってな、」


「え?」


「勇者はたしかに魔神を封印したが、魔神の力が強すぎて勇者の身をもってしてもその全てを封印しきれはしなかったんだ。

 そして今、魔神の力が強まってきて、各地の魔人の封印がだんだん解け始めているようなんだ。」


「そうなんですか……」


 カインは心の中で少し安心してしまっていた。

 封印されていては何もできないが、それが解けていれば仇が討てるからだ。


「おいカイン。顔に出てるぞ。」


「えっ?あっ!ごめんなさい……」


「お前にとっては朗報かもしれないが、世界にとっては深刻な問題なんだぞ。」


「分かってます……ごめんなさい……」


「まあ、別に復讐が悪いことだとは言わない。

 ただ一つだけ約束してほしい。」


「はい。何でしょうか。」


「魔人を見つけたら必ずぶっ殺せ。お前の両親の仇でも、そうでなくてもだ。

 それを、約束してくれるか?」


「はい。もともと俺はそのつもりです。

 魔人どもを、この世界から消し去ってやる。」


「良い目だ。大丈夫。お前ならきっとやれるさ。」


「はい。ありがとうございます。」


「さて、次の話だが……魔人の特徴についてだ。」


「魔人の……特徴?」


「ああ。実は何年か前に小さな魔人のサンプルをもらう機会があってな、その時から魔人について研究をしていたんだ。」


 師匠のいう魔人の特徴はこうだ。

 ・魔人は全体に共通して、黒い体をしている。

 ・魔人は二足歩行、巨大な角と、巨大な羽を持つ。

 ・魔人は魔法を扱い、扱う魔法はその個体によって違う。

 ・魔人の扱う魔法に共通して、黒魔法を扱うという特徴がある。

 ・魔人の体を傷つけるには、同じ黒魔法を纏った攻撃か、もしくは白魔法を纏った攻撃のどちらかしかない。



「以上が、魔人の特徴だ。」


「黒魔法でしか、傷つけられない……?」


「まさに、お前が望んだままの能力だな。

 黒魔法や白魔法を持つ人間は少ない。

 お前は魔人(やつら)と戦える数少ない人間なんだよ。」


「そうなんだ……」


「ああそうさ。さて、私からの話はこれで終わりだ。

 そろそろ良い時間だな。

 お前、出発する準備はできてるのか?」


「はい。一応必要なものはまとめてありますけど……」


「そうか、じゃあ私からのプレゼントだ。」


 そう言って師匠は何やらずっしりとした袋と、布でぐるぐる巻きにされた棒を渡してきた。


「これは……?」


「金。」


 金って…………。


「あとは私の手作りの剣だな。」


「剣……?」


「お前のその剣ももうボロボロだと思ってな。

 ちょっと新しいのを作ってみたんだ。

 しかも魔法の威力を増大させる魔石を埋め込んである。きっとお前の役に立つさ。」


 布をほどくと、そこには鞘に入った片刃の剣があった。


「それは私が旅をしていた時に教えてもらった刀という武器だ。」


「刀……」


「きっとお前を守ってくれるさ。」


 俺は刀をぎゅっと握りしめ、


「師匠……ありがとうございます!! ずっと大切にします!!」


 と言った。

 すると師匠はニカッと笑って、


「おう! 頑張れよ!」


 と、俺の肩を叩いた。












 俺はすぐに着替え、旅の荷物が入ってカバンを背負って、さっきもらった師匠からの剣を腰に挿した。

 今まで使っていた父の剣を持って行こうか迷ったが、置いていくことにした。

 今の俺には、師匠からもらった大切な相棒がいる。

 きっともう大丈夫だ。

 部屋を出るとき、立て掛けた剣に、


「いってきます。」


 そう言って部屋を出た。





 家の玄関では師匠が見送りに来てくれていた。


「この家とももうお別れですね……」


「ん?寂しいのか?」


「まあ、そりゃあ少しは。」


「別に何も帰ってくるなと言っているわけじゃないんだ。寂しくなったらいつでも帰ってきて良いんだぞ。

 ここはお前の家なんだから。」


「師匠……」


 少し照れくさかった。


「さあ!早く行け!いつまでたってもグズグズするな!」


「あー!はいはい!分かってますよ!」


 そう言って俺はドアノブに手をかけた。

 一人だった俺を拾って育ててくれた師匠。

 帰る場所のなかった俺の、帰るべきところとなっていたこの家。

 数え切れないほどの感謝を込めて、


「いってきます。」


 家を出た。





だいたい二日に一話、できたら二話投稿していきたいと思います。

よろしくお願いします。

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