出立
本日二話目の投稿です。
「ん……うぅん……」
目が覚めると、あの狭間と呼ばれる世界ではなかった。
周りには、瓦礫の山と一振りの剣。
現実に戻ってきたんだ。そう思った。
少年は穴を掘り、そこに灰を埋めた。
そして近くにたまたま生き残っていた一輪の花を添えた。そして少年は作った墓の前で手を組み、
「今までありがとう。いつかきっと戻ってくるから。」
と、呟いた。
もう迷わない。
少年は心に決めた。
墓に背を向け、その場を後にしようとした時、
「いってらっしゃい。」
「いってこい!」
そんな声が聞こえた。
「おとうさ……!!」
すぐに振り向いたが、そこには誰もいなかった。
でもたしかに、温かい声が聞こえたのだ。
少年は溢れ出しそうになる涙を堪え、今自分に出来る一番の笑顔で
「いってきます!」
そう叫んだ。
少年は近くの他の村を目指し、歩き始めた。
他の村の生き残りを探すためだ。
その途中、水の音が聞こえたので、音のなる方へ行ってみると、小さな川があった。
「ちょうどいいや、休憩しよう」
少年は小川に近づいて、
ゴクッ ゴクッ ゴクッ
「ぷはぁぁっ!!生き返る!!」
水分補給を終えた少年は近くの木陰で休んでいた。
その時だった。
ザッザッザッザッ
何かが近づいてくる音がしたので少年は身を潜めた。
ピチャ ピチャ ゴクッ
「魔物だ……」
三匹の銀狼が川に水を飲みにきていた。
全身に寒気が走る。
魔物に会ったら逃げろ。父の教えだった。
「でも……逃げたら強くなれない。
今の僕には、力がある。強くなるための力が。」
少年はそう言って剣を構え、三匹の銀狼と対峙した。
「こい! 僕がお前らを倒してやる!」
銀狼たちは少年の持つ剣を見て、自分たちの敵だと判断したのか、威嚇しながら徐々に距離を詰めてくる。
そしてしばらく拮抗状態が続いたとき、三匹のうちの一匹が襲いかかった!
「はあっ!」
少年は狼の鋭い爪を剣で止め、狼の腹に蹴りを入れた。
まさか自分が攻撃をくらうと思っていなかったのか、狼は「ギャウン!」と声を出し、吹き飛んだ。
それを見た残りの二匹はすぐに戦闘態勢に入り、立て直したもう一匹といっしょに、今度は三匹同時に襲いかかってきた!
「うぉぉぉ!!!」
一匹目の攻撃をなんとかいなした直後、左右から同時に攻撃が来た!
(これはまずいっ!!)
ザシュッッッ!!
「うわぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
二匹の狼の爪が両肩に食い込んだ!
そのまま爪は肉を引き裂き、少年の方からは血が流れ出した。
「はあっ はぁっ はぁっ」
傷がジンジンする。
肩が熱い。力が入らない。
少年はかろうじて剣を持つのが精一杯の状態となっていた。
相手が弱っていることを察した狼たちは、もう一度一斉攻撃を仕掛けた!
「ちくしょう!」
やられる。
そう思ったとき、左手に何か熱いものが溢れ出てきた気がした。
そこには、たしかに小ぶりな火の玉が顕現していた。
「これは……」
不思議とこれの使い方も分かる。
そして少年は息を整え、
「其は火
形どるは玉なり
敵を殲滅する 無数の玉なり」
と、詠唱した。
すると小さかった火の玉が、人の顔の大きさほどにまで成長した!
さらに三つに分裂したのだ!!
そして……
「炎弾!!!」
叫ぶと同時に火の玉は狼たちに襲いかかっていった!!!
「ギャウゥゥゥゥ?!??!!!!」
狼たちはあっという間に火だるまになり、しばらくして悲鳴は聞こえなくなっていた。
「はぁはぁはぁ……倒せた……のか?」
狼の生死を確認しようとしたとき、突然少年の視界が揺らいだ。
「え?」
ドサァ!
少年はその場に倒れ込み、全く動けないでいた。
直後、少年を激しい眠気が襲った!
「ぁぁぁぁぁ……お父さん……お母さん……」
暗くなる意識の中、自分に駆け寄る人影が見えた気がした。
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夢に見るのは温かい家族での思い出。
「お父さん!剣の稽古して!」
「よおし!じゃあ今日は少し張り切っちゃおうかなあ!」
「ふふ、怪我はしないようにしてね。しっかりお父さんに教えてもらうのよ?」
「うん!剣神さまに認められるように頑張るよ!」
これはある朝の記憶。
騎士である父に剣を教えてもらおうと頼んだときの記憶。
強い父と、優しい母が大好きだった。
「じゃあ、先に庭に行ってるね!」
そう言って庭に出る。
庭に出た瞬間、景色が大きく変わった。
空は暗く、周りは瓦礫でいっぱいだった。
そして庭にいたのは……あの悪魔と、父と母の死体だった。
悪魔と目があった。
汗が噴き出す。息が乱れる。足が震える。
僕はその場から逃げ出そうとする。
しかし、走っても走ってもあの悪魔は追ってくる。
「うわぁ!!」
転んだ。膝から血が滲む。
目の前が影に覆われる。
振り返る。そこにはあの笑みを浮かべた悪魔がいた。
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「うわぁぁぁぁ!!………………はぁっ はぁっ はぁっ」
飛び起きると、そこは見知らぬ部屋だった。
「やあ、やっと起きたか。ずいぶんうなされてたな」
声のする方へ顔を向けると、そこには女性が立っていた。
黒くて長い髪をしていて、背はそこそこ高め。
しかも結構美人な人だと思う。
年は……二十歳くらいだろうか?
「あなたは……誰ですか?」
「おいおい、命を助けてやった恩人にそんな口の聞き方はないだろう。覚えてるか?お前魔力切れで気を失ってた上に出血が凄かったんだからな」
「そうだったんですか……あの、お名前は……?」
「ん?ああ、私の名前はレイス。魔術師だ。」
「魔術師……」
「お前は?」
「え?」 「お前の名前だよ」
「ああ、はい。僕はカインです。」
「へえ、カインって言うのか。じゃあカイン、お前今いくつだ?」
「今は八歳ですけど……」
「八歳でウルバを三匹討伐か!ハハッ、大したもんだ!」
「ウルバ?」
「あの狼の名前だよ。ところで、
…………お前、どうやって奴らを倒した?」
「え?剣でですけど……?」
「ちげーよ。明らかに火魔法だろ。しかも第三階位の。」
「? だいさんかいい?」
「魔法のランクだよ。八歳でもう第三階位の魔法を使えるなんて大したもんだ!」
へえ、あれは結構すごいことなんだ……
「もしかしてお前、魔法系の加護持ちか?もう八歳なら加護は受け取っただろ?」
そう、この世界では七歳になると神様から加護というものを授かるのだ。
これはいわば才能のようなものであって一人一つしかもらえない。
「いえ、僕の加護は魔法じゃないです。僕の加護は剣神の加護です。」
そう、僕の加護、剣神の加護は、剣術の才能のようなもので、本来ならば魔法は使えないはずなのである。
「へえ……じゃああれはなんなんだ?お前、火魔法を使っただろ?」
「あればなんか……突然白い空間に飛ばされて、神様にもらいました。」
「へえ!!贈り物持ちか!これは珍しい!」
「贈り物?」
「なんだお前知らないのか?
それは本来は訓練とかをして、その努力が神に認められた時にもらえるものなんだよ。」
へえ、これって結構特別なものなんだ……
「しっかしその歳でもらえたなんてなぁ......訓練するには時間がないだろうし……なんかあったのか?」
「それは……」
脳裏によぎるのはあの憎い記憶。思わずカインはぎゅっと手を握りしめた。
それを見たレイスは、
「なぁカイン、一個提案があるんだが……」
「何ですか?」
「お前帰るところはあるのか?」
「っっっっっ……ないです。」
「じゃあ私の弟子になれよ。」
「え?」
「私ならお前の魔法を伸ばしてやれる。お前を強くしてやれる。どうせ帰るとかもないんだろ?どうだ?」
そんなの初めから答えなんて決まってる。
強くなれるのならどんなことでもしよう。
「レイス師匠、これからよろしくお願いします!」
すると彼女はニッコリ笑って、手を差し出して、
「ああ、こちらこそよろしくな、カイン」
と言った。
二人の手が、がっしりと握られた。
読んでいただきありがとうございます!
今後も自分のペースではありますが、投稿していきたいと思いますので、よろしくお願いします!