08話 神忠の儀
「こんな俺でいいならよろしく頼むよ。」
先程まで流していた涙が嘘のようにクールな顔つきに戻る。劔は手を差し出し握手を求める。が如月は膝をつき、まるで王子様とお姫様のように下から手を持ち劔の顔を見る。
待て待て、仲間になってくれとは言ったが誰もこんな展開期待しちゃいねーぞ。ましてや男だろ。女の子ならラッキー展開だが、この現状絶対ラッキーとはならんだろう。
不安げな顔で凛華たちを見る。何か知っているようで凛華はニヤニヤしており、美奈子は顔を手で隠しているが隙間からガッツリそれを見ているのが分かる。
「今からするのは神忠の儀だ。方法について見なかったか?」
全部は見れていなく、確か共鳴と…。
疑問を浮かべる劔をやれやれと言った感じでため息をつけば、劔の甲に柔らかい感触が伝わる。如月が口づけをしていたのだ。
「ちょっ!?」
「神忠は暦神同士の共鳴と、忠義を示すものが主君になる者に対して体のどこかに口づけをする事で完了する。」
引っ込めた手をまるで虫に刺されたかのようにそこを摩る劔に言う。いくら儀式とて、初めて自身に触れる唇がまさか男になるとは…。さよなら俺の純白よ。
ドクンと心臓が脈を打つ。まるで如月の力が全身を駆け巡るようだ。堪え難い違和感に胸を抑える。如月は立ち上がり言う。
「どうやら、問題無さそうだな。神忠を誓えば互いに力が増強される。俺の技もお前に受け継がれているだろう。すぐに使いこなせるかは分からんが、お前なら大丈夫だ。改めてよろしく頼む。」
現実味のない話だが、全身に流れる違和感だけが教えてくれる。力のない劔がようやくみんなの力になれる。興奮とこれからの不安がより一層奮い立たせる。如月の差し出された手を力一杯握る。
「ああ、よろしくな!えーっと、如月…」
「如月朔弥だ。何とでも呼んでくれ。」
「分かった。よろしく朔弥!」
笑顔で交わせば、ふと凛花達を見る。気が張って気がつかなかったが戦闘で服が大きく破れている。それにより露わになりそうな胸に顔を背ける。服を急いで脱げば2人にかけてあげる。これと言ってないほどの紳士対応だっただろう。
「す、すまんな…。劔君も大きな傷を負っているというのに…。」
傷?そうだ。
今の今まで忘れていた。如月から受けた攻撃で大きく背中は切り裂かれていたのだ。凛華達に貸した服についた血の跡が傷の大きさを物語る。すると思い出すように背中の鈍痛が騒ぎ出す。
「弱ッテイル暦神ガ4人モ居ルトハ何ト好都合。此奴達ヲ献上スレバ、名モ冥府二轟くダロウ。」
唸るように片言で聞こえる言葉に一同空を見れば、大量の鬼が襲来してきている。多種多様の鬼が空を覆い尽くす。
「く…、こんな時にこの鬼の量…。いくら雑魚とてこんな状態でやるのは無理がある…!」
如月は今にも崩れそうになる体を何とかして立たせ構える。が、最早戦えるような状態でない。凛華、美奈子も構えてはいるがとても応戦できるような状態ではない。
「抗ウカ、良カロウ。貴様ラ全員血スラ残サヌ程、吸イ尽クシテヤルワ!」
その声と共に鬼達は声を上げて迫ってくる。その声は地を揺らし、あたかも地震が来たかのように錯覚させる。
それにしても力ある者、即ち暦神達には感服する。戦える状態でないと言えども次々に鬼を倒していく。劔も応戦したいところだが何故か先程の力は出ない。一時的なものだったのだろう。それを知っていたかのように3人は庇うように戦い続ける。しかし、そう長くは持たなかった。数を減らしても減減らしてもまたまだまだまだ鬼は湧いてでる。
「流石にこの状況、無理がありますわ…。」
次第に膝をつく3人。
「漸ク、クタバッタカ。敵ナガラ天晴レ。終イダ。」
声の波が押し寄せてくる。
「つまらん事をするでない!」
激しい衝撃と共に何かが降ってきた。捲き上る粉塵に目を窄める3人。薄っすら粉塵が散り、目を開けると先程までいた鬼の姿は無く巨漢が腕組みをして立っていた。
「お主ら大丈夫か?」
渋い声と共にはっきり姿を見れば異様な鎧を着た者だった。
「貴方は…?」
圧倒的な力を振りまいた男に劔は尋ねる。
「我が名は怒鬼。黄泉月様に従える七大罪の1人、お主らで言う鬼だ。」
緊張が走る。絶望が劔達の顔を強張らせる。それでも凛華達は構えだす。圧倒的な力を見せつけられても尚、負けるわけにはいかないと。
「ふはははははは!」
声を上げて笑う怒鬼。それですら威圧に感じる。
「そう構えんで良い。弱ったお主らなど興味ない。ましてや、そこの小僧に関してはまだ力に目覚めて間もない。とても相手になるような存在じゃ無い。」
劔を指差しまた一頻り笑うと言う。
「お主らとはそう遠くないうちにやり合うだろう。その時までに強くなり、我を存分に楽しませてくれ。さらばだ。」
空間に亀裂が入り姿を消す。大量の鬼を瞬時にして葬った圧倒的な力を持つ七大罪。その異常さに劔達は呆気にとられたままだ。しかし、なんとか生き延びることができた。その安堵からか、途端に失せていく意識。聞こえたのは凛華の声。答える気力もなければ体は崩れ、倒れていく。
目を覚ますとセピア色の世界。久しく見てなかったようにも感じる。相変わらずの光景だ。燃えている見知らぬ街に悍ましい鬼。前ほどの驚きはなく余裕がある。怨骸みたいな歪な形のものじゃない、人型の鬼もいるようだ。きっとこいつらによって被害を受けたところなんだろうか。にしてもこの街どこか見覚えのあるような感じもするが燃えていて見える世界がぼやけて見えにくい。そしてまた誰かの視点に切り替わる。そしてまた何かを話しているようだ。前と同じ何を言っているのかわからない。ただ前と違うのはその声だ。聞き覚えのある声、まるで自分の声のよう。そして前と同じ斬り合いに負けて地に伏せ空を仰ぐ。また鈍痛を感じる。実際に斬られていないのに斬られたように思える。意識が切れる。
パッと目を覚ませば、見たことのない天井が目に映る。ふかふかな感触を感じれば何故か布団に寝転んでいる。パッと体を起こすと体に痛みが走る。少し呻きながら辺りを見渡すが全く知らない和風の部屋が広がる。ぽつんと畳の上に布団が敷かれそこに劔はいた。気づけば手当されている。一体誰がしたんだろうか…。
「気がついたか?」
襖を開け入ってきた凛華。破けた服から着物に着替えていた。劔の布団の横に正座で座れば言う。
「あの後、劔君を運んで私たちの仲間のところへ連れて行って、手当してもらってたの。丸一日、疲れと力の自覚で寝てたのよ。」
「丸一日もか…。けど仲間って?」
「今から紹介するわ、 入って。」
すると襖の方から小さな足音が2つ。新たな仲間に期待を膨らませる。現れた姿は幼い巫女の服装をした女の子2人だった。




