02話 十三暦ノ神
神後町。
今は現代的な建物が多く並び、山にあるのが特徴的だ。住む分には不便なく平和な街だ。だが昔は何もないところだったと言う。と言うのも、もうずっと前に神々の戦争があったらしくこの土地一帯はその影響で所謂曰く付きと言われていた。住むものは皆、正体不明の病、突然死など見舞われていたらしい。それをとある救世主達が解決をしてくれたらしいのだ。そこに俺の爺さんの家がある。家から然程離れてはないが近代的な建物がある所よりもまだ上の山の森の中にある。自分が生まれてすぐに病に侵され、亡くなってしまった為どんな人か知らない。爺さんの家には数回行った程度で、もう長らく行ってない。どんな廃墟と化しているかだけが心配だ。
ふと凛華の腰掛けた刀を見た。綺麗な装飾が施されているが幾分重そうにも見える。
エスコートなど慣れていないが女性に重たいものを持たせるわけにもいかん、
「その刀持とうか?重いだろ?」
凛華は振り向かない。歩みを止めることなく彼女は言う。
「大丈夫だ。この刀は主人を選ぶ。違う奴が到底持てる物じゃない。」
ツンと跳ねる言い方が癪には触るが触らせたくないほど大切なものなんだろう。続けて凛華は言う。
「これは刀じゃない、護神刀だ。」
護身刀?守るためとは言え魔物相手ならともかく対人ともなれば殺すんじゃないか…?
凛華はそのくだらない思考すら読んでいたのだろうか。また小さく溜息を吐けば言葉を続ける。
「自分を護る刀ではない。神の加護を授かり鬼どもに対抗できる特別なものだ。これがなければ鬼に太刀打ちできない。」
そういう風には見えんがな…。まぁ彼女がそういうのであれば仕方ない。にしても登るのも一苦労だな。家が頂上にあるだけに面倒だ。
劔は疲れているが凛華は全く疲れてない様子。暫くの足音と刀の跳ねる音だけがどこか緊張感を漂わせる。
「さぁ着いたわよ。」
膝に手をつき、息を切らす劔に静かに告げる。相変わらず立派だ。自分の身内の家には感じない。赤の他人のお金持ちのお屋敷にでも入るような感じだ。思っていた程待ち受ける門は朽ちていなく、むしろいまだに使われているというように見える。
凛華は慣れた感じで門横の扉をくぐって行く。追随して神在も入っていく。
見惚れるほど立派な家だ。門をくぐれば尚、異彩を放つ。見惚れる暇など待ってくれない感じで家の中へと消して行く。急いでるのだろうか。お邪魔しますと控えめに玄関に入れば奥の部屋から手招きが見える。靴を脱ぎ、手招きの方に向かうまで何部屋あっただろうか。その部屋どれもが綺麗に掃除してある。誰か住んでるのだろうか。
手招きされた部屋に入ればそこは書斎みたいだ。きっと爺さんの物だろう、夥しい数の本がある。部屋の真ん中には机があり、そこに座るように催促される。
「飲み物入れてくるわね。」
そう言って凛華は姿を消す。棚にある本を眺めると、書物はどれも年期が入ってはいるががとても綺麗な状態だ。ふと1つの書物に目が行く。
「十三暦戦…?」
他の書物よりも更に年期が入っている。分厚さは辞書よりもずっと分厚い。詰まった本棚から取り出す。ページをめくれば目次が書いてある。興味本位に目次通りに目を通す。
〜十三暦ノ神〜
かつて世界は十三暦と称した神達によって領土争いが絶えなかった。神に仕える民たちはそう長くは保たなかった。その時十ノ暦、神在月は提言した。このままでは民は疎か、世界までが滅亡する。我々は何のために争い、何を望む。欲しているものが無くなったらその先は何だ。つまるところ終戦しようではないかという話であった。他の神達も肯定した。こうして神達は均等に領地を分け合い、民に役割を与え、朽ちていく運命だった世界の平和を再生していった。しかし神の中で唯一、その平和な世界を良しとしないものがいた。十三ノ暦、黄泉月だ。黄泉月は戦いを好み、それを楽しんでいた。平和など望んでいない。己の闘争心だけが原動力であった。そして彼は突如姿を消し、以降姿を見た者は居なく、神在月を中心とする十二暦の神達によって世界の再生の一途を辿った。
(まるでお伽話を読んでるようだな…)
〜十三暦戦〜
突如世界の平和は絶たれた。十二暦の神達が築いた世界は見たこともない力によって壊滅寸前となった。その力は誰でもない黄泉月であった。十二暦の神達は強力し合い、神在月に神忠を誓った神達は黄泉月を討とうと、残りある戦力で立ち向かったが赤子を遇らうかのように太刀打ちできなかった。どうにか黄泉月の力だけでも封印しようと自分達の子に名を託し、己の命を犠牲に力を封印することに成功した。が、力を失った抜け殻は残っており、抜け殻がいつ動き出してもいいように十二暦の子孫達は、身に宿る護神を使ってそれを見守るのが役目となった。
(つまり俺や睦月さんはその子孫ってわけか…。)
〜護神とは〜
十三暦の神達にはそれぞれ護神という能力が備わっている。それは神達の子孫皆に受け継がれていき、より血の濃い者だけが真にその力が継承される。またそれを己の刃とする物に付与することでより発揮される。
(成る程…。彼女の言ってた護神刀とは護神の力を付与した刀の事を指してたのか…。)
小さな物音で我に返る。どうやら相当読み入ってたのだろうか、いつの間にか持ってきてくれた温かいお茶がとっくに冷めていた。物音は彼女の扉の開ける音だった。
「どう?何か自分のことわかったかしら。」
急に来た疲労で目を窄める。冷めたお茶を味わいひと息、大きく背伸びして
「分かったような分からないような…。読んでも今だにお伽話のようにしか感じないな。まだまだ読んでいたいがもう結構時間経ってるみたいだしな。」
空を見ればもう日も傾いて辺りは薄暗い。時間を見ようにも携帯の時計すら時間が出ない。そろそろ帰るか…。そう思い渋々立ち上がる。
「そろそろ帰るか。家まで送って行くよ。」
流石にいくら強いとて女性一人で暗くなる中を帰すわけにはいかない。
すると凛華は他の部屋に向かいながら返事する。
「先に帰って大丈夫よ。今の所鬼の気配は感じられない。街もいつものようになってるはずよ。」
まだ予定あるのかな…。まぁ忙しいなら仕方ない。大人しく帰るか。
「りょうかーい。睦月さんも気をつけてな。また何かあったときはよろしく頼むよ。」
凛華は返事しない。玄関から出れば森の中だけに鬱蒼としている。家の中からは物音がするが、扉を閉めれば風と木々のざわめきだけがやけにうるさく聞こえる。足早に門をくぐれば見慣れた街並みが広がる。先ほどまで聞こえなかった音がまるで嘘かのように耳に飛び込んでくる。いつもの人混み、いつもの音、いつもの匂い。ここが狭間の世界というのが嘘としか思えないほど変わらない街並みだ。
登りはしんどいが帰りは楽だ。今日の事を一つ一つ思え返しながら帰り道を歩く。鬼のこと、自分のこと、そしてこの世界に関する神達のこと。今だに信じていないがそういうわけにも行かなさそうだ。気がつけば家の前。明かりが灯り、中からは今日の夕飯が丸わかりなぐらい匂いを漂わせている。ドアを開ければ賑やかそうな声が聞こえる。今日は風呂入って飯食って早めに寝るか。あわよくば今日の事が夢であることを願って…。




