01話 異質
いつも外から聞こえてくる鳥の囀り、忙しなく走る車の群れ、賑やかに登校する子供達。
おかしい…、何一つ音がしない。耳でもおかしくなったか?いや、アラームの音は聞こえた。なら何故…。
ベッドから立ち上がり窓を開け周囲を見渡す。風景は変わらない。しかしいつものような光景が見えない。何だ、いつもと違うこの感じは…。
階段を降り、リビングに来たものの家族誰一人としていない。寝坊したかと思い時計に目をやる。なんてことだ…。針は何処も指しておらず、ぐるぐる回り続けている。なら日にちは?気絶してしばらく寝てたのではないか?カレンダーに目をやる。花柄のカレンダーだ。確か今日は11月…、あれ、11暦と書いてあるが月とは書いていない。携帯を開いても同じ表記だ。電波は通じている。
「とりあえず親に電話でもするか…。」
電話帳を開く。誰1人として名前がない。友達はいないが家族の連絡先ぐらいはある。
焦りと不安で冬だというのに汗が垂れる。衝動的に外に飛び出す。誰1人いない。見渡しても見当たらない、いや、すぐそこの角に影が見える。少し小走りになりその角の影に寄る。不安な気持ちを消すために声をかける。
「すみません、あの……っ!?」
人じゃない、いや、元は人だったのだろうか。まるで人を複数人合体させたようなものだ。
逃げなきゃ!
「な、なんだよあれ…!一体どうなってやがる!今日は異質だと思っていたがありえないだろ!」
街が変わっていなければその先に隠れられる路地が!一心不乱に走り路地に入り、魔物が過ぎるまで息を殺す。歩くと言うよりは引き摺るような音だ。早く…早く…どこか行ってくれ!
音は次第に遠のいていく、良かった、助かった…。路地から出て周囲を見渡す。まだいた、こちらを見ている。魔物はゆっくり近寄ってくる。恐怖で足が動かない。
三度目の正直と言うやつか、次こそ死ぬ…。ちゃんと友達作っときゃ良かった。頼れるやつがいたらこんな状況も打開できたか…。彼女がいたらとんでもパワーで押し退けれたか…。
魔物の腹についた大きな口を開け、食いにかかってくる。もう駄目だ。
………?
中々来ないな、食べる気でも失せたか?
恐る恐る目を開ける。魔物は真っ二つになり地に伏せている。
「気がついたか?」
その声は透き通ってはいるがとても凛々しい女性の声だった。声のした方を振り向けば腰ほどの長さの後ろ髪で着物を着た女性、手には刀とそれを納める鞘を持っている。何処かで見たような…、そうだ、クラスで同じの睦月凛華!大和撫子と言う言葉がぴったりなくらい清楚で美人だ。しかし喋っている姿を一度も見ていない、それどころか俺と同じく友達がいないやつ!そいつがなんでここに…。
「ありがとう、睦月さんだっけ?さっそくだがなんで君はここに?ここはどこだ?そしてあの怪物はなんだ?どうして他に人がいない?それから…」
まだまだ問いたいことを話そうとしたが血のついた刀を拭き、輝きを取り戻した刀身はまるで鏡を彷彿させる。彼女は遮るように話し出す。
「私は睦月凛華、貴方と同じクラス…ってそれは流石に知ってくれてるかしら。」
そりゃそれだけ美人なら否が応でも知ってるさ。
「私は貴方を守りにきた。貴方はここで居なくてはならない存在。もし死んでしまったら昔みたいに世界が終わる。ようやく治ったこの世がまた壊れてしまう。」
胡散臭い話になってきたぞ。
よくあるゲームの勇者って立ち位置か?
「そしてここは惨劇になる世界の少し前の境界。まだ大したことは起こってないけど先ほどの魔物がうろついてる。あやつは怨骸。人を喰らいそれをとある神の復活の糧となっているものよ。私たちは総称して鬼と呼んでるわ。だから結界を張って鬼と対抗できる者以外は見えないようになっているのよ。」
うーん、なるほど分からん。いくら頭の回転が早いとて理解が追いつかぬ。そもそも何だ?普通につまらん毎日だったのがいきなり死に直面するような程変わるなんて普通ありえないだろ!いや…待てよ、これは夢だ。夢に決まっている!そうだこうやって思い切り頰を抓ってだな…。
「現実逃避しないで、これは現実よ。私が来なかったら貴方本当に死んでたわよ?」
「いや、ちょっと待て」
淡々と話す彼女の言葉があまりにも信じれない。咄嗟に言葉が出る。
「流石に信じられない、俺が居なけりゃ世界が終わるだの、神の復活がどうだの…!俺はただ普通に生活させてくれたらいい!つまらん世界でも構わん!変なことに巻き込まないでくれ!」
彼女は目を丸くしたかと思えば静かに目を閉じ大きくため息をついた。刀を鞘に納め腰に携えた。そのため息に緊張すら覚える。そしてぽつり、
「貴方お爺様から何も聞いてないの?末裔であるなら聞いてるはずなんだけど…」
完全に分かってない顔を見るなりまた大きなため息を吐く。
「百聞は一見に如かず。少し歩くけど貴方のお爺様のところへ行きましょうか。」
すると彼女はこちらの返事を聞く耳も持たないか如く歩いていく。一人で居たらまた魔物に襲われる、死ぬのはごめんだ。なるべく近くにいよう…。
あたりは相変わらず静かだ、見慣れた風景はやはりどこか違う。そんなことを更に身に感じながら先行く彼女の後ろ姿を追いかけるのであった。




