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覗いた殺人  作者: 暁庵
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星と少年

 カタカタと背中に担いだ天体望遠鏡が小さく鳴る。春とは言えど、夜ともなると少し寒さを感じるが、自宅から天竜山へ向かう少年の額からは、薄っすらと汗が光り出していた。



 ハァッ···


「あと少しだ···。待ってろよ、スイートムーン!絶対にお前を撮ってやるからなぁ!」


 今年の春休み、父である速水幸一の実家(長野県瀬板市)で祖父に見せられたスイートムーンの写真。あまりの美しさに涙を流し、周りを驚かした。そのスイートムーンが、今年の四月三十日に観られるとニュースで知り、裕貴は父と母に天体望遠鏡を入学祝いでプレゼントしてもらった。



 ふふふっ···


「これで、写真撮ってじいちゃんに見せてやる!待ってろよー!」


 坂の中腹になると、街のネオンがチカチカと煌めいたり、個々の家の灯りがついている夜の十時…


「嘘だろー?」と到着し出た言葉も、周囲の言葉に掻き消される。


ーぜってー、知ってる人なんて少ないと思ったのに!!


 天竜山の見晴らしのいい場所には、数組のカップル(家族とか恋人?)がいて、派手に騒いでる人もいた。


「······。」しかも!!


「あの···そこは···」こともあろうに、かの有名な“岩本綱吉”(この天竜山城主)の石像に座ってる女性ふたりに声を掛けようとするも、睨まれすごすごとその場を立ち去る裕貴。


「バチあたりが!」


 じいちゃんの口癖を小さく呟き、それでもあまり声が届かない奥の場所へと向かい、シートを敷き、天体望遠鏡を設置した。



『どっちが上手く撮れるか勝負だ!もし儂に勝ったら、お前の好きなもん買ってやる!』


 自分の息子や娘が、なかなか帰ってこず、まして星にも興味を示さない順一は、孫の裕貴を可愛がる。


『生きる張り合いがあるらしいでね···』と先に空へ旅立った祖母の千代の言葉を思い出す。


 グゥーッ···


 夕飯をキチンと食べた筈なのに、若き身体は、食の催促をし始めた。


「食べるか···」ひとりで食べるのは、慣れてはいるが···


「ムグッ···あいつらも来れば良かったのに···」まだ温もりを残すおにぎりを頬張りながら、スマホをジッと見る。


「···っと、お母さんに返しておかないと」たかが、3キロ県内の外出であれ、心配性の母·詩織から届いたラインを返す。


 先月あったキルガという彗星も同じ場所で撮った。



『星が好きなのに、星学部に入らんのがわからんや』と裕貴の友人はよく言うが、「僕は、趣味は趣味、部活は部活で区別したいんだ」と返してはいる。



「あれ?」と少しずつ周囲がザワつき始めて、裕貴も望遠鏡を覗き始めた。


 この日は、朝から雲一つない青空に見舞われ、夜になっても同じ天気で、肉眼でも月の色が黄色から段々と白く変わるのがなんとか見える。


「······っ?!」小さな窓から覗く裕貴は、瞬時にして笑顔になり、内蔵されたカメラのシャッターボタンを押した。


「スイートルームに掛かる流れ星、か。いいのが撮れた」残っていたおにぎりを無理矢理口に放り込みお茶で流す。


 長野で見た星空は、東京とは比べ物にならない位に綺麗だった。長野には、あまり大きなビルもなく、車は通るが空気が綺麗だからだろう。


 産まれも育ちも東京の裕貴には、他県から東京へ修学旅行にくる子が、口々に、『東京は空気が臭い』というのが、わかりそうでわからない。


 あたりが段々と静かになり、みな思い思いの場所でシャッターを切ったり、ビデオを撮ったりしていた。


 最初は、流れ星も一つだったのに、紙様が気を聞かせたのか、眩いばかりの星を幾度も流してくれた。


「いいのが撮れたな。あとでプリントしよう」


 暫くは、スイートムーンやチラチラと流れる流れ星を見終え、最終的に一人になってから、ゴミを片付け始めて家路に着く。



「······。」


「まぁ、明日ゴミの日だからいいけど···」詩織が、溜息を付きながら、毎回星空観察に行く裕貴が、持ち帰るゴミ袋を見ながら苦笑する。


「だって、あそこはいい場所だからね」裕貴も、詩織と一緒に裏の物置きへ持ち帰ったゴミ袋をしまいながら、夜空を見上げる。


「それよりも!月曜日テストなんだから······」


「また、その話ー?もぉ、勘弁してよぉ!!」逃げるように居内へと駆け込んで行った···



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