壱
「まずは冒険者登録だな」
「適応早すぎィww」
目を覚ましてすぐに言った俺に、女神様が爆笑した。
「そういや、あんたの名前はなんていうんだ?」
「リゼルww」
「自分の名前に草生やすな」
「本名はリゼリシオーネンベルヒ・アッテンシャローネ・ティミドアリシア・グル・グリグラッペww自分でも噛まずに言えたことないしwww」
「それは草も生えるな……。
それより、いい加減そのウザい話し方をなんとかしないと、感想欄で読みにくいって叩かれるぞ。俺の人生に感想欄がつくとして、だが」
「ププッww毒者乙ww」
「おいやめろ」
俺は残念女神の口を押さえて周囲を見る。
よかった。誰もいない。
俺とリゼルがいるのは、のどかな草原のまっただ中だ。
「リゼル。いいか? 俺は今から3秒数える。数え終えたら手を離す。その時おまえは大草原不可避のウザいしゃべり方を忘れて、読者が読みやすく安心して萌えられる作品のマスコット的ヒロインとして生まれ変わる。じゃあ数えるぞ、3、2、1、ポカン!」
リゼルの背景に紫色の波紋のようなものが走り、リゼルの目から光が消えた。
一瞬後、リゼルが再起動する。
「おかしいわね? あたしはいままで何をしてたのかしら」
「ぐへへ。おまえは今日から俺のメス奴隷だ! 催眠キーワードは『残念おっぱい』」
「誰が残念おっぱいよ!」
「おかしい。俺の催眠術が効いてない⋯⋯?」
「催眠術でも相手の嫌がることはさせられないってそれいちばん言われてるから」
「まぁいい、これはノクターンノベルじゃないしな。ノクターンじゃなくても直接的な描写を避ければ奴隷少女を購入してハーレムにできるし。おっと、タグにハーレムありって入れておかないと感想欄で叩かれるな」
「なんであんたは感想欄をそんなに気にしてるのよ。
ま、それはいいけど、まずはお金よね」
「いいのかよ」
「だってそういう世界なんだもの。さっ、冒険者登録しましょ」
そう言ってリゼルがすたすたと歩き出す。
「おい、そっちで合ってるのか? なんか人里離れた寂れた街道筋に入ってくみたいなんだが」
「次のイベントフラグはこっちで合ってるわよ。クエストマーカー出てるし」
「そういうことはわかってても言うなよ!」
リゼルについていくと、森の中で車輪が外れ、賊に囲まれてる馬車があった。
馬車の幌が外れ、荷台の中身が見えている。
荷台にあったのは頑丈な檻だ。
檻の中にはエルフの美少女が二人いた。
「へっへっへ。命が惜しかったら荷台の奴隷を寄越すんだな」
「なんだと! これは大事な商品だ!」
「じゃあ死ね!」
「ぐわぁ!」
賊たちが矢を放ち、御者台にいる奴隷商人が死んだ。
ざまぁ。
「で、リゼル。俺のチートは?」
「え? ないわよ?」
「なんでだよ!」
「この世界は、テンプレはテンプレでも『異世界って言っても実際はこんなもんだよね』のほうだから、チートはないわ。ついでに言うと一般人のあんたじゃゴブリンにも勝てないわよ。ヒロインは産む機械にされるから」
「どーすんだよ、イベントフラグなんだろ⁉︎」
リゼルにおもわずつっこむ俺に、
「おい、そこに誰か隠れてるぞ!」
「捕まえろ!」
「おっ、こっちもいい女じゃねえか!」
賊どもがこっちにも向かってくる。
「主人公が捕まるイベントフラグね」
「どうしようもねえな!」
「修行回の前に溜めって必要でしょ? 主人公の課題を設定して読者のモチベを維持するのよ」
「んなもんいるか! ネット小説に溜めなんてもんは必要ねえんだよ! もっとチートで無双してスカッとするのがいいの!」
「そういうことなら、テコ入れしてあんたには眠ってた力があるってことで。前世での特技でもいいわ」
「じゃあ催眠術で」
「伏線を回収するのね」
「ぶん投げるつもりだったけど、あるものは利用するのが俺の正義!」
俺は向かってきた賊の一人に、懐から取り出した糸付き五円玉を突きつける。
「五円玉ww」
「うるせえ、催眠術切れてるじゃねえか!
さあ、盗賊! おまえはだんだん眠くなる」
「ならねえよ!」
「どわあ!」
斬りかかってきた盗賊から逃げる俺。
「ど、どうして⁉︎」
「テンプレ力が足りなかったのよ!」
「テンプレ力だって⁉︎」
「ええ、あなたのチートは『テンプレを現実化する力』に決まったわ、今!」
「今かよ!」
「ネット小説なんてたいてい見切り発車なんだからそれでいいのよ!」
「開き直るな! で、どうして今のじゃ足りないんだ⁉︎ ちゃんとテンプレ通りだったろ⁉︎」
「よく思い出しなさい! あんたが前世でエロい同人ダウンロードサイトで買い漁ってた催眠陵辱CG集のことを!」
「ぎくっ! なんでバレて⁉︎」
動揺した瞬間、盗賊が斬りかかってきたが、転んだ拍子にあやうく剣を避けられた。
「えーっと、同人だろ⁉︎ 催眠術って言っても長々と導入部分を描いてもしょうがないからたいていは念じただけで術がかかる! そうかこれだ!」
俺は斬りかかってきた盗賊に術をかける。
盗賊は、一瞬ぽかんとしてから言った。
「……はい、僕は彼女を寝取られると非常に興奮する性癖です」
「うん、合ってるけど役に立たねえ! 盗賊の彼女とかどうでもいいよ! でもまぁこれでいっか!」
俺は、残りの盗賊たちにも念を飛ばし、寝取られスキーに意識を改造したのだった。




