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陳氏の手記

作者: 桐帝
掲載日:2017/03/07

陳洸靖氏は私の唯一無二の親友である。

私も彼も新政府に対する抵抗勢力(レジスタンス)で、共に反政府運動を行っていた。


だが先日、どうやら彼は秘密警察に逮捕されたらしい。彼が生きて帰ってくることは多分無い。生きて帰って来た同志は1人もいないからだ。


常日ごろから彼は、自分が死んだら自宅の書斎にある棚の3段目にある日記に書いてある通りにしてくれと言っていた。秘密警察に捕まった今、彼は死んだも同然である。


よって、その日記に記された彼の意思に従い、今ここに憂国の士の燦然たる手記を公開する。








(前書き)


親愛なる同志へ


私が死んだらこの手記を世間に公表してくれ。悪と戦った戦士が確実にここにいたという確かな足跡を残したいのだ。



2月1X日


現政府の任期満了に伴い、次期政府首相の国民投票あり。現政府に近しい穏健派の眞友氏が僅差で当選。次点の弥固氏も四割程度の票を獲得。来月の大統領選に出馬する最大野党勢力の故氏と手を結ぶか。


故氏は革新を唱えながら、実際には王政復古の政治を行おうとしている。穏健派の首相になったがこのままでは野党勢力に呑み込まれてしまうだろう。現政府の跡目とされている阮氏は釈然としないが為に、大統領になれるかどうかわからない。何故、現大統領は来期も勤めないのであろうか。


2月1X日


大統領選控え不穏な空気が漂う。


3月X日


大統領選あり。結果は故氏の圧勝。然れども得票率は五割弱。反抗勢力や無党派が四割程度。国政愈々混迷す。


我々の懸念した通りとなってしまった。阮氏は完敗。来期、現政府勢力は一掃されるに違いない。総じて悪のレッテルを貼られるのだ。だが、そこで屈してはならない。我々は希望の光を探すだけである。


3月2X日


現政府任期満了。次期政府始動。大統領故氏、副大統領阮氏、首相眞友氏、副首相弥固氏並びに仔崙氏。大統領と副首相2人は現政府の方針を全否定し政策廃止。首相は傀儡と化す。


嗚呼我々の命運尽きたるかな。かくも愚かなる政府を選択したのは民衆である。衆愚とは正にこの事、暗雲立ち込み世は濁ることは避けられぬ運命となってしまった。王政復古の時代がまたやってくる。


4月X日

国政は順調のように表向は見える。


4月1X日


我が国を経済面で支えているHG(ハーゲー)カンパニー社長の蔡氏を政府が批判。副社長の嬴武威氏に実権を譲渡するよう要請。

十余年に渡り国政を牛耳っていた磐教の教祖を追放。


早速国政の混乱が始まった。これまでの方針を否定するが為にこういった事が起こるのだ。蔡氏に関しては毎年批判が起きるが、実際彼のおかげで国政が回っていることを故氏達は知らないのであろう。彼は自己資産を国政に出資している。その自己資産がどれほど国を助けたことか。

磐教祖はしぶとい方なので必ず国政復帰するとは思うが…。


4月2X日


言論統制の開始。現政府の素晴しさを説き、前政府を徹底批判。故氏一派の礼賛宣伝(プロパガンダ)が過剰になる。前政権支持者の弾圧開始。


いよいよ住みにくい世の中となってきた。衆愚政治が招いたこの悪政は必ず後の禍根となる。政府はいずれ自然と崩壊していくだろうが、それを待っていては我々の命はなくなる。今こそ立ち上がる時である。


前大統領を我々の旗印に仰いで革命を起こさねばならない。


5月1X日


前大統領、抵抗勢力(レジスタンス)の頭領になる我々の請願を却下。


5月2X日


大統領と副首相の関係が非常に悪化。国政が上手く回らぬようになる。


6月X日


大衆の故氏支持率が低下。反逆者の徹底弾圧が始まる。


遂に職権乱用による暴走が始まった。この結果は衆愚が招いたのだ。国を憂え諸君!今からでも未だ遅くはないのだ!暴政を命を賭して止めよう!

しかし前大統領は何故我々の味方をしてはくれぬのだ。もし我々が彼を盟主と仰ぎ見る事が出来たらば、直ぐに戦いは終わるのに!


6月1X日


磐教祖、混乱に乗じて再び政権に舞い戻る。


7月X日


前大統領、またもや我々の打診を却下。


7月1X日


故氏政権崩壊の始まり。無法地帯と化す。


7月2X日


前大統領、遂に抵抗勢力(レジスタンス)の長になることを決意。


嗚呼何と待ち侘びたことか!遂に我々に勝利の女神が微笑み始めたのだ!再び嘗ての素晴らしい政治が、強く美しい我が国が復活するのだ!

これから私は前大統領を迎えに列車に乗って彼の隠遁地まで行く。この喜びを何と表せばよいだろうか。





以上が彼の手記に記されていた全文である。

彼は、前大統領を迎えに行く為に駅に向かう途中で捕まったらしい。


だが陳よ、安心してくれたまえ。

前大統領による革命は今まさに終焉を迎えようとしているのだ。

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