真実
昨日、校長先生から討伐参加の話を聞いてから緊張はしていたが、早めに寮に戻り休んだおかげで体調は万全の状態で朝、目覚めた。
隣の布団を見てみると、水ちゃんの姿はなく書き置きが残されていた。
書き置きにはこう書かれていた。
<千夏、先に行って体を暖めておきます。>
どうやら水ちゃんは、先に学校に行ったようだ。
でも、怒る気は全くない。 今日は自分の生死を分けるかもしれない日なのだ、最終調整を自分でやっておきたかったのだろう。
その書き置きを見てから、私も支度を始めた。
支度が終わり、寮から出たところで畑先生が門の所に立っていることに気づいた。
挨拶して行こうとすると、呼び止められた。
「高橋、橋本から聞いたよ。 あんたら今日は危ないかもしれないらしいね。」
私はそれを聞いて驚愕し、
「隠そうたって無駄だよ。 今日は橋本がいつもより早く学校に行こうとしていたからね、何かあると思って問い詰めたんだよ。」
確かにそうだ。 いつも決まった時間に学校に向かっている水ちゃんが、決まった時間よりも早く行き、なおかつ一人だったとしたら水ちゃんを知っている人なら怪しむだろう。
「それを聞いてどうするんですか?」
私が問うと、
「大事な寮生が危険かもしれないんだ、止めるに決まってるいるだろう。」
その言い分はもっともだが、
「じゃあ、どうやって水ちゃんは学校に行ったんですか?」
その私の言葉に、先生は一瞬苦虫を噛み潰したかのような顔をすると、
「嫌なとこつくね。」
「水ちゃんに聞いたのなら分かってるはずです。 参加は絶対だということを。」
無駄なことだ、そういう意思をこめて言うと、
「そうさ、私に止める権利がないのは分かってる。 だからどんな気持ちで任務に行くのか聞いておきたいんだよ。」
「気持ちとは?」
私が意味が理解できずに聞くと、
「簡単なことだよ、あんたはどんな思いで任務に望む気か聞いてるんだよ。」
その畑先生の問いに、
「そんなの決まっています。」
一瞬の迷いもなく私はそう返す。
その私の反応に畑先生は一瞬だけ観察するように目を細めると、
「ほう、じゃあ言ってごらん。 満足できる内容だったら通してやるよ。」
そう言ってきた。
対する私は、
「私は、ここに無事に水ちゃんと一緒に帰ってくるつもりです。」
そう言いきった。
私のその答えに先生は満足そうに頷くと、
「合格だ。 もし弱気な答え言いやがったら縛って閉じこめとこうと思ったよ。」
そう言ってくれた。
「それじゃあ!」
私は期待の声で聞くと、
「ああ、行ってきな。 必ず帰ってくるんだよ!」
「先生は一昨日もそうでしたけど本当に心配症ですね。」
からかい気味にそう言うと、
「?」
と、不思議そうに首を傾げている。
(ごまかしてるつもりなのかな? まあ、いいや。)
首を傾げている畑先生に手を振りながら、
「いってきます!」
挨拶をし、走って学校へと向かった。
畑先生は高橋の姿が完全に見えなくなると、口調を変えて誰かにしゃべった。
「あの子、大丈夫かな?」
すると、どこからか男の声が聞こえる。
「まあ、ちょっと嫌な予感はするな。 しょうがない、《借り》もあるわけだしこの際ばれるのは我慢するか。」
「どこ行くの?」
「流石に今の状態じゃきついかもしれないからな、ちょっと少し戻りに行ってくる。」
そう言って男の方はどこかに行った。
畑先生?はその様子にため息を吐きながら、
「明後日から学校かな?」
そう言って寮に入っていった。
話が終わった頃、千夏は学校に着いていた。
準備をし、校長室へ向かう。
コンコン
ノックをし、「入りなさい」と聞こえてから入室する。
中には全員揃っていたが、私は気にしない。
校長先生から時間は九時までであれば、自分のタイミングでいいと言われていたからだ。
今の時間は八時三十分、三十分前に来たんだから誰も文句はないはずだ。
周りを見てみると、見たことのない黒服の人がいた。
恐らくこの人が作戦の隊長さんなんだろう。
そう思っていると、その人が話し始めた。
「学生の皆よく集まってくれた。 まずはそのことに関して礼を言おう。」
海崎君が、
「そんな滅相もありません。」
と、恐縮していると、
「それよりも今回の討伐対象はどのようなものなのでしょうか?」
相変わらずの水ちゃんが、本題に切り込んできた。
その様子に隊長さんは一切動じることなく、
「そうか、それなら時間ももったいないことだし、急ぐことにしよう。 まず、相手の特徴だ。」
その言葉をみんな固唾を飲んで聞いている。
「これを見てくれ」
そう言ってある写真を取り出した。
その写真には、口では表現しがたい球体が写っていた。
何故、口では表現しにくいかと言うと、簡単に言えばそれが球体であるかすら怪しかったからだ。
まず、生物の死体を混ぜ合わせて作ったかのようなおぞましい体。
体長は縦、横それぞれ約六メートル程と大きい。
「これはいつ現れたのですか?」
近藤君が問うと、
「三日前だ。 “悪魔族”の者がこの場所に置いていったらしい。」
隊長のその言葉にぎょっとして、慌てて海崎君が確認した。
「その“悪魔族”は前の映像の奴ですか!?」
「違うから安心してくれ。 だが、置いていった悪魔族もなかなかの実力者のようだ。」
校長室に不安が伝染しかけるが、それよりも前にフォローがはいった。
「そのことについても心配はいらない。 部下の情報によると、これを置いていった悪魔族は全く出入りしていないらしいからな。」
それを聞いて皆がホッとする。
「さて、ここからが本題だ。」
「討伐方法ですか?」
近藤君が聞くが、隊長さんは首を横に振る。
「いや、それは移動途中にでも説明する。」
「それでは何のことでしょうか?」
水ちゃんが質問すると、
「君たちの中でこの討伐嫌だと思っている子は今ここで辞退してもらって構わないという話だ。」
皆が驚愕する。
「これは強制任務なんじゃないんですか?」
知華ちゃん最もなことを質問する。
「確かにそうだ。 だが、迷いのあるものは戦場で死にやすい。 強いと言ってもまだ子供、そんな者に無理させるくらいなら自分たち大人が君たちの分まで働こう。」
そう言って前置きし、
「それでは嫌だという者は挙手してくれ。」
その言葉を聞いた私達の中で手を挙げたものは、
ゼロだった。
隊長さんはそんな私達を見て苦笑し、「すまない」と言ってから、
「そうか、ならばなにも言うまい! それでは、件の場所へ向かおう。」
そう言って隊長さんが動きだすと、
「討伐隊隊長殿、くれぐれも私の大事な生徒をよろしくお願いいたします。」
校長先生が頭を下げて、私達の身の安全の保証を頼んだ。
「安心してください、この身に変えてもお守りします。 それでは、行くぞ君たち!」
「「「「「「はい!!!!!」」」」」」
そう返事をし、このモンスターのいる場所に移動する。
~???~
「成る程、敵の場所はそこなのか。 ちょっと遠いな、こりゃ少し急いだ方がよさそうだ。」
校長室での会話をある生徒が盗み聞きしていた。
~討伐組サイド~
私達は移動用高速者車に乗って、現場に向かっていた。
「それでは、本作戦の内容について説明する。 みんな心して聞けよ。」
その言葉に自由にしていた全員の意識は隊長に傾いた。
「まず、このモンスターは近づいてきた奴にしか攻撃はしてこない。」
「それではこの作戦は遠くから攻撃を浴びせ続けるというものですか?」
近藤くんがそう質問する。
「いや、攻撃すれば敵とみなされモンスターも攻撃してくる。」
隊長は続ける。
「よって、本作戦はこうだ。
まず、後衛が最大火力の準備をし、その間前衛はポイントごとに分かれて配置につく。
次に、モンスターに最大火力を浴びせてモンスターが攻撃体制に入ったところを各ポイントごとの前衛が襲撃。
そして、もう一度最大火力を浴びせて弱ったところでとどめだ。」
その作戦を聞いて、私達は前衛後衛に分かれる。
私、水ちゃん、近藤くんが前衛。
知華ちゃん、海崎君、車田君という三組の《序列二十九位》の男子が後衛だ。
車田君は昨日から一言も喋ってない、もともと無口な人だからだ。
「よし、きれいに分かれたな。 それでは気を引き締めろ、もうつくぞ。」
私達はこれから起こるであろう戦いに気を入れ直した。
~???~
「そっか、やっぱーーー、お前がもってたのか。」
「それはこっちの台詞でもあるな、やっぱり俺のはーーー、お前が持ってたんだな。」
そう言って謎の会話が続く。
「それより今日はどうしたんだーーーなんて場所にまで呼び出して?」
「ああ、それはあの時ーーーをかえそう思っているんだ。」
「そっかそれならーーーは渡しておくよ。」
「ああ、じゃあ俺も。 よし、行ってくるぜ!」
そう言って何かを渡しあった二人の中にそれが吸い込まれる。
そのあと、片方の男は何処かへ行った。
残っている男は、
「気をつけろよーーー、ーーーを手に入れてもまだお前は三十パーセントしか出せないんだから。」
そう言って何処かに行った。
~討伐隊サイド~
「「「「「で、デカイ!!!!!」」」」」
私達は現在、車から降りてあの巨大なモンスターを見上げていた。
(写真なんかよりも全然大きい!!)
そう驚愕しながらも、作戦にしたがい数分後、
三ポイントに分かれてあのおぞましいモンスターの近くにいた。
Aポイント 私、水ちゃん、討伐隊の方々
Bポイント 近藤くん、隊長さん、討伐隊の方々
Cポイント 討伐隊の方々
後衛 知華ちゃん、海崎君、車田君、討伐隊の方々
このように分かれている。
後衛が後少しで最大火力が出せる。
「全ポイント聞こえるか。 これから後衛の面々が攻撃を放つ、放った瞬間に一斉に突撃するぞ。」
隊長さんの声がトランシーバーから聞こえてから数秒後、
「カウント開始五、四、三、二、一。 撃てー!!」
とてつもない量の弾幕がモンスターを襲った。
私達はそれに合わせて突撃し、モンスターに攻撃を浴びせた。
モンスターは私達に気がつくと体から手のようなものを無数に放出してきたが、私達はその手を攻撃によって消し去りながら応戦していた。
開始から数分後、私達は優勢なままモンスターに攻撃を浴びせ続けて弱らせることができていた。
「ドライ【アイスウォール】」
ドライの作った氷壁でモンスターの手から水ちゃんと私の身を守りつつ、
「ドライ【氷柱落とし】」
「パルス【衝撃音波】」
攻撃を加える。
「全ポイントの者に通達する!! もう少しで後衛の再攻撃ができるぞ! もう少しだ、踏ん張れーー!」
トランシーバーから聞こえてきたその声に全員の士気が上がる。
そして、ついに後衛の準備が終わった。
「後衛の準備が終わったぞ! カウント開始五、四、三…」
「な、なんだ貴様は! ギャー!」
「た、助けてくれ!」
悲鳴が聞こえてきた途端、通信が途絶えた。
「い、一体何が!?」
私が混乱していると、トランシーバーの機能が復活した。
「て、撤退だ! すまない、完全に油断していた。 奴が“悪魔族”が現れた!!」
その言葉にここにいる全員に戦慄が走った。
「今、そっちに向かっている! 早く撤退するんだ!」
その言葉をここにいる皆に伝えようとしたその時、
「ああもう、せっかく作った玩具を壊そうとしやがって許さねえからな!!」
そこに絶望がいた。
見た目は子供くらいの大きさの魔族だった。
だが、見た目と実力が比例というわけではない。
現に近くにいた銃の心器使いが挑んだが、一分も経たずに殺されてしまった。
銃の心器使いの使いの人は私達より強いとは言いがたかったが、決して弱くはなかった。
(それが一分も経たずに殺されてしまうなんて!)
それを見た近くの討伐隊の方々が、我を失い各々で攻撃を開始してしまった。
全員一瞬で殺されることはなかったが、時間が経つにつれ一人、また一人と殺されていきとうとうこの場にいるのは私達二人と討伐隊を壊滅させた悪魔族だけになってしまった。
「残りは君たちだけか僕の玩具をボロボロにした罪は死んで償ってもらうよ。」
この言葉を聞いた時、私は、
(絶対に勝てない)
そう思ってしまった。
心が折れれば、戦場では死を意味する。
「じゃあ死んでね。」
その悪魔族の言葉に私は諦めかけていたが、その私の前に立つ人影があった。
水ちゃんだ。
「千夏、私が時間を稼ぐから逃げて。」
「なに言ってるの水ちゃん無理だよ!!」
水ちゃんの言葉に私は半狂乱になって叫んだ。
「どうせ死んじゃうんだよ! 私だけ逃げるなんて絶対に嫌だ! 逃げるなら水ちゃんも一緒がいい!!」
(そうだ、無理に決まってる。 あんな人数で挑んで無理だったんだ、私達だけなんて無謀にも程がある。)
水ちゃんはそんな私を見て困ったような顔をすると、
「分かったわ、ならそこにいて。 千夏がいるなら私は絶対に負けないから。」
そう言って、水ちゃんは悪魔族に立ち向かっていった。
「行くわよパルス【超音波】」
「無駄なことだよ。」
そう言って悪魔族は避け、水ちゃんに反撃を加える。
(なんで、何で水ちゃんは立ち向かっていくの!?)
時間がたつごとに傷ついていく水ちゃんわ見ながら私は願った。
(お願いです神様。 どうか、どうか私の大切な水ちゃんを助けてください!)
その私の願いも虚しく、水ちゃんはいつの間にか地面に倒れていた。
「水ちゃん!!」
私は叫びながら駆け寄っていく。
「ちょうど良かった、纏まってくれていると殺しやすくて助かるよ。」
悪魔族の子供はどうでもよさそうににそう言いながら、魔力で作った鋭利な剣のような物をこちらに向けてくる。
「ち、ちなつ・・」
「水ちゃん大丈夫だよ。」
私は水ちゃんにそう微笑んでから水ちゃんをぎゅっと抱き締めた。
魔力の刃がこちらへ降り下ろされるその瞬間、こう願った。
(助けて、龍くん)
そう願った瞬間、目の前に一人の青年が現れた。
その青年はとても見覚えのある姿だった。
だって、私達はつい昨日その青年と戦ったのだから。
「大丈夫かい、お二人さん?」
「「富永くん!!」」
倒れていた水ちゃんまで声をあげて驚いていた。
「どうやってきたの!? 君はこの作戦のことを知らないはずだよね?」
混乱しすぎて、いつもの調子で私は話しかけてまっている。
「愛しの高橋さんと橋本さんを助けに来たよって言ったら信じる?」
おどけて答える富永くんに私はイラつきながら、
「見てわからないの! 私達と引き分ける程度の実力じゃあの悪魔族は倒せないの! だから今すぐ...」
「へえ、あいつ悪魔族って言うんだ。 魔族とはちょっと違うところをみて魔族じゃないだろうナーって思ってたけどあたりだったみたいだね。」
私は自分の失態を恥じるよりも先に聞きたかったことを聞いた。
「富永くん、真面目に答えてね。 場所がわかったのは後にでも聞くけど、この場所が分かってるってことはこの任務が危険なのは分かってるはずだよね? どうしてきたの?」
私が真剣に聞くと、富永くんは観念したのか答えた。
「《借り》を返しに来たんだよ。」
「借り?」
私がそう尋ねると、黙って聞いていた悪魔族は痺れを切らしたのか怒鳴ってきた。
「もう、突然出てきてなんなんだよ! 話聞いてたらお前も雑魚なんだろ、イラついたからぶっ殺してやる!!」
悪魔族は標的を私達から富永くんに変えると、刃を振りかぶって富永くん向けて降り下ろした。
「「富永君!!」」
無理せずに黙って聞いていた水ちゃんも富永君に心配の声を挙げる。
そんな私達に富永君は優しく微笑むと、
「大丈夫だよ千夏さん、橋本さん。 俺がこんな雑魚に負けるわけないだろう?」
力強い言葉でそう言った。
「僕が雑魚だと!? ふざけるな、死ねー!」
悪魔族が怒って富永君を殺そうとするが、富永君は慌てることなくこう言った。
「第一封印解放」
その瞬間、富永君から光が溢れ富永君の姿が変わっていった。
身長や体格こそはそこまで変わってはいないが、顔は少し吊り目気味だった目が垂れ目に変わり、優しげな顔立ちになっている。
そう、そこにはあの水野龍がいた。
「龍くん!!」
私は思わずといって言い程の声をあげた。
誰だってそうだろう、目の前には世界最強の味方がいるのだから。
龍くんはこちらに微笑むと、水で作った双剣で魔力の剣を防ぎ、悪魔族の子供を弾き飛ばした。
「っ!」
「ごめんね、千夏さん。 すぐに終わらせて事情は説明するから。」
そう言って周りに水で槍のようなものを作り出し、悪魔族に向けて打ち出す。
その速度は私達には見えず、悪魔族が悲鳴をあげたことで当たったのだと分かった。
《水弓》、水野龍くんの特殊能力は水を操ること。
その能力は一見弱そうに聞こえるが、龍くんが使うことによって人類最強クラスに変わった。
それは悪魔族の子供で証明してもらおう。
「く、くそお前雑魚じゃなかったのか?」
「さっきまではな。」
龍くんはそう言いつつ、水で作り出した弓で矢を放ち攻撃する。
「くっ!」
悪魔族の子供ははギリギリで避けるが避けた先には龍くんがいた。
「なっ!」
「落ちろ。」
そのまま地面に悪魔族を叩き落とす。
「うわあああ!!」
悪魔族の子供は悲鳴をあげながら、地面に落下する。
「「やった!!」」
私と水ちゃんは思わず喜びの声をあげる
しかし、悪魔族の子供は地面にぶつかった瞬間に立ちあがり、逃げ出した。
「あっ!」
私が慌てるが、
「大丈夫だよ、千夏さん。」
そう言って、龍君は弓に矢をつがえ一声、
「【貫矢】」
その一声の後に矢がはなたれ、悪魔族の子供は貫かれた。
そして、
「あっちにいる奴も、と」
そう言って龍君は水の矢を少し時間をかけて作り出し、
「【ハンドレットアロー】」
その言葉と共に矢が放たれその矢が飛んでいく途中に約百の矢に分裂した。
その矢を受けたモンスターは跡形もなく吹き飛んだ。
「ふう、いっちょ上がり」