正体!?と悪魔族
「ひ、引き分け?」
私は電脳カプセルからでて、開口一番戸惑い気味に結果を口にした。
まだ戸惑いから抜けきれない状態で隣を見てみると、先に目覚めていた水ちゃんと桜ちゃんが同じようにこちらを見ていた。
「ち、千夏ちゃん大丈夫?」
そう桜ちゃんが心配そうに質問してくる。
大丈夫とは、恐らく[反動]のことだろう。
反動とは電脳戦で戦死した時に起こる精神にダメージを負う現象だ。
そもそも電脳戦とは、電脳カプセルの中に入り一時的に精神体とよばれる状態なって戦うことである。
その状態で死んでしまえば精神に影響がでるのは当然の結果ともいえる。
桜ちゃんの問いに「そこまでひどくないよ」と答えてから、水ちゃんに問う。
「最後どうなったの?」
「あなたが一番覚えてるんじゃない? 私たちが見たものと千夏の記憶は恐らく全く同じものよ。」
まあ、私は見れてないんだけどねと、自虐気味に呟く水ちゃんの言葉を聞きながら、決着の瞬間を思い出す。
水ちゃんが富永君の腕を切り落とし戦死した後。
一瞬だけ生まれた富永君の隙に水ちゃんの太刀を拾い上げ、躊躇うことなく切り上げた。
が、そこにはすでに切り落とされなかった方の腕で双剣を突き出している富永君の姿があった。
そして、私が富永君を真っ二つにする感触と心臓に剣が突き刺さってくる感覚は同時にきた。
自分の最後を思い出しながら、桜ちゃんにどんな死に方をしたのか聞いてみる。
確か富永君の人間離れした技術で弾がそのまま跳ね返っていたのはわかったが、流石に驚いても回避できただろうと思っていると、
「千夏ちゃん達は見えなかったらしいけど、あの時の私ね、二発の弾を撃ったんだ。」
「二発?」
「うん。」
「それよりも見えてなかってどういうこと?」
「それは、水樹ちゃんも千夏ちゃんと同じ質問をしてきたからだよ。」
その言葉を聞いて納得してもう一度同じ質問をする。
「結局どんなやられ方だったの?」
その私の質問に、
「その件は千夏ちゃんが私達のところに来る前までの状況を説明するときに詳しく教えるよ。」
その桜ちゃんの言葉に頷いていると、
「あのー、話し込んでいるとこ悪いんだけど先に終わらない?」
富永君がそう言ってきた。
その言葉を聞いて私達が迷惑になっていることに気づいた。
「あ、ごめんなさい!」
すぐに姿勢を正して並ぶと、
「それでは今回の決闘は引き分けです。 両者、礼!」
「「「「ありがとうございました!!!」」」」
そして、退場していくと拍手をされていることに気づいた。
パチパチパチパチ・・・
そのなかには賞賛の言葉もあった。
「いいぞー!」 「やるじゃねえか転校生!!」 「見直したわー!」
などだ。
そのみんなの対応に富永君が困っていると、
「早めに控え室戻ればいいんじゃない?」
と、桜ちゃんが助け船を出していた。
桜ちゃんの助言に「ありがとう」と言って、富永君は控え室まで走っていた。
富永君に続いて私達も控え室に戻っていく。
しばらく歩いてから、突然水ちゃんが立ち止まった。
「さ、行くわよ。」
といって、富永君の控え室方面に歩きだした。
「い、行くってどこに? そっちは富永君の控え室しかないよ。」
その私の疑問に対し、水ちゃんはやれやれとでも言うように首をふると、
「もう忘れたの? 私達が勝負した理由。」
もちろん忘れていたわけではないが、
「で、でも私達勝ててないよ。」
「そうね。 けど、負けてもいないわ。」
屁理屈だ。 そう思っていると、
「勝負は引き分け。 引き分けになったときの条件は決めていなかったのだからその件について聞きに行かないと。」
私がそういうもんなのかな~、と唸っていると、
いつのまにか富永君の控え室に着いていた。
コンコン
ノックしてみると、中から「はい」という声が聞こえてきた。
ドアを開けてみると、中にはこちらを向いている富永君の姿があった。
「やあ、来ると思ってたよ。」
「来ると思ってた?」
その富永君の言葉に疑問を持ったので聞いてみると、
「うん、聡明な橋本さんならそうするだろなと思ってね。」
「そう、ならこっちが来た理由も分かってるんじゃない?」
そう水ちゃんが問うと、
「引き分けだった場合どうするかって、言いたいんだろう? 何もなかったじゃだめなの?」
富永君が真っ当なことを言うと、
「確かにその通りだけど、勝負を仕掛けてきたのはそっちでしょう。 なら、引き分けたんだからこっちが有利なはずじゃないの?」
私達が聞いても「うわぁ」と思うような暴論を言っている水ちゃんを見てみると、こちらにウインクしてきた。
(全く悪いと思ってない。)
そう思いながら富永君を見てみると、富永君は呆気に取られたような顔をしていた。
(当然の反応だよね。 こんなこと言われたら呆れるに決まってる。)
そう思っていると、
「あっはっはっはは!!」
突然、富永君が笑いだした。
(え、何!?)
私が富永君の奇行に戸惑っていると、
「いやー、おかしい。 まさか橋本さんほど頭いい人がそんな暴論言い出すなんて。」
流石の水ちゃんもこんな事態は想定していなかったのか、狼狽えている。
富永君の笑いが少し収まったところで、
「そ、それで結局どうしてくれるの?」
と、桜ちゃんが私達の代わりに質問すると、
「面白いこと聞いたお礼にヒントをあげるよ。」
「「「ヒント?」」」
私達三人がハモって聞くと、
「そう、ヒント。 知りたいんでしょう俺のこと。」
そりゃあ是非とも知りたい。
「教えてよ!」
私が少し興奮した様子で聞くと、
「他言無用で頼むよ。」
そう言いつつ、富永君は扉の前まで行くと、
「俺の名前は確かに偽名だよ。」
そう言って立ち去ろうとする富永君に、
「それは分かってるのよ、知りたいのは正体!」
水ちゃんが慌てたように聞くと、
「正体?」
「そうだよ! ヒントをくれるんでしょ!?」
私も便乗すると、
「嘘つくの!?」
桜ちゃんのその言葉に、
「そう言われると弱いな。 そうだね、じゃあ一つ本当の俺のヒントをあげようか。」
その言葉に私達が、ゴクッと生唾を飲みこむと、
「俺はこれでも英雄とか恥ずかしい呼び名で呼ばれている奴らの中の一人、とだけ教えておくよ」
そう言ってから、富永君は「じゃあね」といって控え室から出ていった。
その言葉に私達は、
「「「ええー!!!」」」
と、普段あげないような大声をあげて驚愕していた。
その頃、出ていった富永一は、
「さて、このことを信じるかな?」
そう言って、少しの間考えるように立ち止まり、やがて、
「まあ、信じないなら信じないでそれも一興。 これからどうなるかが楽しみだな。」
そう言って、どこかに去っていった。
一方、その頃の高橋千夏達は、
「え、え、英雄の一人!?」
「ほ、本当なのかな!?」
「落ち着きなさい、二人とも。」
橋本水樹以外、盛大に戸惑っていた。
~五分後~
私達が少し落ち着くと、水ちゃんが、
「冷静に考えなさい、そんな訳ないでしょ。」
と、冷めた態度で富永君の話を否定する。
私が反論しようとすると、
「そもそも、本当の英雄なら私達と引き分けになるなんてありえないわ。」
その言葉にぐぅの音も出ないでいると、
「わ、私達が強くなってるじゃ。」
桜ちゃんのその言葉に、
「いいえ、関係ないわ。 本当の英雄の力はあんなものじゃないの。」
そう言う水ちゃんの肩は少し震え、急におびえだした。
「ど、どうしたの?」
水ちゃんの異変に気づいた桜ちゃんが心配そうにたずねるが、事情を知っている私は、
「少し訳ありなんだ。 でも、水ちゃんの話は本当だよ。」
私と水ちゃんは、経緯や時間も違うがそれぞれ間近で英雄の力を見ている。
私が反論できなかったのはそれが理由だ。
「それじゃあ、あいつ嘘ついたの!?」
富永君が嘘をついたと考えた桜ちゃんの口調が荒くなる。
「まだ、嘘って決まったわけじゃ」
「でも、二人が違うって思ったわけでしょ? じゃあ、私は違うと思うね!!」
必死に宥めようとするが、桜ちゃんの暴走はとまらない。
私がどうしようもできないでいると突然、
「ええー、一年生で序列入りをしている者に連絡する。 一年生で序列入りしている者は今すぐ校長室へ来るように、繰り返す・・・」
と、校長先生の放送が聞こえた。
その放送を聞いて、落ち着きを取り戻した水ちゃんが、
「千夏いくわよ。」
「うん。 ごめん桜ちゃん、ちょっと行ってくるね。」
私はそう桜ちゃんに言い残して、水ちゃんと共に控え室を後にする。
後ろで「うがー!!」と言う声が聞こえたが、聞かなかったことにした。
小走り気味に校長室へ向かっている途中で私は、
「ねえ、水ちゃん。」
「分かってるわよ、もう大丈夫。」
先程の様子を見て、大丈夫か聞こうとしたが、どうやら心配なかったようだ。
その事にほっとしていると、水ちゃんが、
「千夏はどう思う。」
「どうって?」
「彼の事よ。」
彼とは富永君の事だろう。
「嘘は言ってないように見えたよ。」
「嘘を言ってない?」
私の返答に疑問を持った水ちゃんが問うてくる。
「水ちゃんも気づいてるんじゃない?」
職業柄、相手の心の中を少しだけ分かるようになっている私は、富永君は嘘は言ってないと判断した。
「確かに嘘は言ってなかったようだけど、千夏はあの事を信じるの?」
あの事とは、富永君が自分を英雄の一人だと言ったことだろう。
そう言われてしまえば、本当の英雄達を実際にこの目で見て名前、姿、強さを知っている私は信じるがとができない。
私達がしばらく話を続けていると、校長室が見えてきた。
そして、扉の前に立ちノックをしてから名乗る。
「橋本水樹です。」
「高橋千夏です。」
すると、扉が開き「入りなさい」という声が聞こえてきた。
指示に従い、校長室に入ると既に全員揃っていた。
一年生の序列入りは十人。
遠征に行っている四人の英雄を除けば六人なのでこれで全員だ。
その中の一人の海崎くんが、
「遅いぞ、二人とも。」
と、注意してくるが、
「まあまあ、スタジアムからここまで遠いんだから仕方ないじゃないの。」
と、四組の《序列二十四位》である山崎知華ちゃんが助け船を出してくれる。
知華ちゃんは、水ちゃんに負けず劣らずのプロポーションをしており、真面目な水ちゃんと違い、お色気キャラだ。
「それよりも全員揃ったんだ。 校長先生から話を聞こう。」
そう言うのは三組の《序列十位》の近藤貝君だ。
近藤君は英雄のいないこの中では一番強い。
見た目は背が高く、どう見たって力が強いと分かるほどの筋肉に男気もあるので女子にも人気だ。
その近藤君の言葉に全員が、校長先生の方を向く。
「みんなよく集まってくれたね。 今回集まってもらったのは他でもない、ある重要な任務を頼みたいからだ。」
すかさず水ちゃんが、
「その重要な任務というのはここにいるメンバーから見て、力量のないといけないような内容と判断して構いませんか?」
「流石に察しがいいね、その通りだ。 重要な任務とはある“魔族”の討伐だ。」
“魔族”という言葉に室内に緊張が走った。
海崎君が、
「はぐれではなく魔族というのはどういうことでしょうか?」
皆の気持ちを代弁して言うと、
「このことについて教えるのはもう少し後になると考えていたが、こうなっては仕方ない。 真相を教えよう。」
校長先生はそう言って、ある映像を見せてきた。
「これからの事は極秘だ。」
その言葉を合図に映像が始まった。
それは、討伐隊の討伐映像だった。
「魔族を発見、攻撃を開始します。」
ある槍の心器使いが伝達をし、攻撃体制を整える。
「了解、慎重にいけ。」
無線からの応答を合図に討伐隊の面々は動き出した。
弓の心器使いが牽制で矢を放ち、そこに土竜の精霊使いが追撃を仕掛ける。
魔族が避けたところに槍使いが攻撃を仕掛け、それを他の討伐隊の面々が援護し戦況は有利かに思えた。
すると、突然追いつめられていた筈の魔族が喋った。
「あー、ダリイ。 こんなに雑魚なら様子見なんてする必要ねえだろうが、ジジイ。」
誰もいない空間にいきなり喋りだした魔族に違和感を感じた討伐隊は「何を?」と疑問を口にしているが、答えはある声と共に現れた。
魔族が喋りかけた空間から別の魔族がいきなり現れたのだ。
「ふむ、それもそうだな。 我々を封じた忌々しい神族に似た力を感じたので警戒してみたが、どうやら無用な心配に終わったようだ。」
その魔族に対し、恐らく討伐隊のリーダーであろう槍使いが、
「貴様等は何者だ!」
魔族に対して問うと、
「ふむ、何者かと聞かれてもただの“悪魔族”のものだ。」
「“悪魔族”だと!?」
「その様子だと知らないようだな。 無理もない、なんせ我々は五千年近く忌々しい神族のせいで封じ込められていたのだから。」
「封じ込められていただと、何を言っている。」
「そちらが何を言っているのだ。 我は事実しか述べておらぬぞ。」
まるで、本当に知らないかのように振る舞う魔族にリーダーは、
「貴様等“魔族”はつい数年前からいただろうが!!」
その槍使いの言葉に新たにでてきた魔族は反応し、質問してきた。
「お主等の言っている“魔族”とはなんだ?」
「何をおかしな事を言っているのだ。 貴様等のことだろうが。」
その言葉を聞いた魔族は何度か頷くと、
「ライヅ、どうやら我々の預かり知らぬところで我々に似た何かが一騒ぎ起こしたらしい。 これは詳しく調べる必要があるな。」
討伐隊と戦っていた魔族に新たにでてきた魔族がそう言うと、
「あの男だけ残して皆殺しにしてしまってくれ。」
と、ゾッとするようなことを平然と言い放った。
「わかったよ、ジジイ。」
そう答えてから、ライヅと呼ばれた魔族は先ほどとは比べものにならない速度でリーダー以外を殺した。
それをもう一人の魔族は見届けてから、リーダーの方を向き、
「悪いが、ちと聞きたいことがあるのでな一緒に来てもらうぞ。」
その言葉を聞いて、返事すらできずにリーダーは突如気を失った。
リーダーの後ろにはライヅが立っており、気を失ったリーダーを抱えたライヅはこちらに振り向き、映像カメラを不審に思ったのか魔力弾を放ち壊していった。
映像はそこで途切れた。
映像を見終わってから、室内のメンバーは恐怖に震えていた。
その中で私が、
「校長先生まさか討伐対象はこの魔族ですか?」
震えながらそう聞くと、
「安心したまえ、全くの別物だ。 この映像を見せたのはただ海崎君の質問に答えたかったからだ。」
その言葉に皆が安堵していると、
「さっき映像の魔族が言ったようにどうやら“魔族”の上位種の存在である“悪魔族”が目覚めたようだ。 この事はいずれ世間に広がるだろう。」
その校長先生の言葉に皆が驚愕し、
「あいつらがそうなんですか!?」
と、またもや海崎君が代表して質問した。
「うむ、唐突ですまないがこの事は討伐隊本部の上層部しかまだ知らない話だ。 極秘とは討伐対象が“悪魔族”だからだ。」
その言葉に皆にまた緊張が走り、
「詳しいことは明日の朝、作戦のリーダーがここに来て説明してくれる。 今日はその事を伝えるために集まってもらった。」
知華ちゃんが急な展開に戸惑いながら、
「それでは今日はこの後どうすれば?」
と、質問すると、
「この後は解散して好きにして貰ってかまわない。 だが、くれぐれも明日の調子に影響を及ぼさないようにしてくれ。 体調一つが自分の命運を分けるぞ。」
その言葉を聞いた水ちゃんが、
「これは強制なのですか?」
と聞くと、校長先生は申し分けなさそうに、
「すまないがその通りだ。 討伐には他の討伐隊のメンバーも参加するので比較的安全だと思うが、くれぐれも無茶だけはしないでくれ。 大事な生徒の命を失いたくない。」
そう言って頭を下げた。
私たちがその行動に驚いていると、
「私が弱いばかりに迷惑をかけて本当にすまない! どうか無事に帰ってきてくれ。」
校長先生の真剣な言葉に私たちは、
「校長先生、安心してください自分たちは絶対に負けません!」
そう語る近藤君の言葉に頷き、同じ考えであると意志表示していた。
校長先生はそんな私たちを見て、
「そうか、私が心配しなくても君たちは十分強かったな。 よし、私は君たちを信じよう! 今日は解散するので明日の朝、最高の状態でまたここに集まってくれ、それでは、解散!!」
その言葉で解散し、私は明日のために寮に帰ることにする。
(明日は絶対に帰ってくるぞ。 頑張ろう!!!)
そう意気込んで私は、教室に戻っていった。
まさか、明日があんな波乱を迎えるなんて知らずに。