転校生の実力
作戦会議が終わり、早めの昼食をとっていた私たち三人の控え室にとつぜんある男子がやってきた。
「ねえ、試合前で悪いんだけど電脳空間に武器の配置してもらうことって可能かな?」
私達が驚くのも無理はない、その男子生徒は私達が後少ししたら戦うことになっていた富永一、その人だったのだから。
「急にどうしたの富永君? もうすぐ試合の時間のはずだけれど。」
水ちゃんがそういうと富永君は、
「いやー、本当に申し訳ないんだけどね。 武器の申請ってのが必要だと思わなかったもんだから、さっき先生に話を聞きにいってよかったよ。」
と、あっけらかんと笑った。
「それはそちらが望むのら構わないわ。 二人もいいわよね?」
水ちゃんのその言葉に私達二人はうなずいた。
「そっか、ありがとう!! それならこの紙にサインしてもらってもいい?」
そういうとスタジアムの武器の設置同意書を渡してきた。
私達三人は、それにサインして私が「はい、どうぞ」と手渡すと、
「わざわざごめんね、それじゃ俺はこれを先生に提出してくるよ。」
そう言って、走ってどこかにいってしまった。
その嵐のような富永君に私達がしばらく呆然としていると、また一人新しい男子がやって来た。
その男子生徒は、女子生のほとんどに嫌われていて私に執拗に付きまとってくる平野駿だった。
「なんのようかな、平野君?」
私がそう聞くと、
「駿でいいって言ってんだろう高橋、俺も千夏って呼ぶからよ。」
と、下卑た笑みこちらを見てくる。
その笑みを私が気持ち悪がっていると、
「千夏はなんのようかと聞いたのよ。 さっさと答えてくれるかしら?」
私のナイトの水ちゃんが威嚇しながら対応してくれる。
「おー、怖い怖い。 そう身構えんなって今日は助言しにきてやっただけだから。」
そう訳の分からんことを言ってくる。
「高橋、お前はもう少ししたら俺に感謝することになるぜ、ありがとう駿!!ってな。 今回はそんだけだ、じゃあな。」
そう言って、笑いながら観客席に行った。
完全に行ったのを見て、
「なんなのよあいつ!! 本当にむかつくんだけど。」
桜ちゃんが怒ってくれた。
「落ちつきなさい、清水さん。 確かにとてもイラついたけど、気になる点はそこではないわ。」
その水ちゃんの言葉に、
「私が感謝するってことだね。 どういう意味なんだろう?」
私が応じる。
はっきり言おう、私はあんなやつと喋りたくもないし顔すらみたくない。 感謝するなんて断固ごめんだ。
(本当にどういうこと?)
そう考えていると、
「控え室で待機している高橋千夏さん、橋本水樹さん、清水桜さん、試合開始の時刻となりました。 スタジアム試合会場にお集まりください。」
と、放送の声が聞こえてきた。
「あれ、もうそんな時間?」
「どうやら、私達は結構な時間を富永君の行動に硬直して使っていたようね。 それじゃ、行きましょうか。」
その水ちゃんの言葉で私達二人は動き出す。
「楽しみだな~。」
「千夏ちゃん、全く緊張してないね。」
苦笑い気味に桜ちゃんが言ってきた。
「だって、転校してきたばっかりだから一番最初の対戦相手が私達だよ。 どんな戦い方なのかわくわくしない?」
そう笑顔で聞いてみるが、やはり反応は微妙だ。
しばらくそうやってとりとめない話をしていると、
「二人とも着いたわよ。」
と、水ちゃんの声がした。
その言葉を聞いて目の前を見てみると、準備は万端といわんばかりの富永君がいた。
「やあ、準備はできたかな?」
と、軽やかな感じで質問してきた富永君に対し、宣戦布告と受け取った私は、
「こっちの台詞だよ! 負けていろいろ白状する準備はできた?」
そう皮肉気に言い返す。
それに対し、
「はは、ずいぶん強気だねー。 俺自身強いって思ってないけど簡単に負ける気はないよ? 」
「二人ともそこまでよ、そろそろ始まるわ。 それと、富永君は武器の申請とおったの?」
仲裁に入った水ちゃんの質問に、
「ああ、その件については大丈夫。 ちゃんと許可もらったから。」
「そう、それじゃあそろそろ始めましょうか。 先生?」
水ちゃんが、担当の先生に合図を送る。
「両陣営、準備はできましたか?」
富永君が、
「はい、大丈夫です。」
私達が、
「「「はい!!」」」
その返事を聞いた先生は満足そうにうなずくと、
「それでは両陣営、電脳カプセルに入ってください。」
電脳カプセルとは、電脳空間といわれる直接的な怪我をしないでも実戦的な訓練ができる空間に入れる英雄達が作り出したとても便利な道具で、実戦とは違い加減しなくてもいいのが特徴だ。 英雄達はおもちゃ感覚で作ったらしい。
ちなみにカプセルの方が先に作られている。
そして、電脳カプセルに入り目を閉じると不思議な感覚がし、目を開けると壊れた市街地のような地形が目に入り、周りには私以外誰もいなかった。
(なるほど今回のステージは市街地Cか。)
ステージとは十種類存在し、一つ一つがとても特徴のある電脳空間での戦闘場所である。
(どうしよっかな、合流を急ぐか富永君見つけて戦うか?)
悩んだ末に千夏は、戦う方を選んだ。
「よーし、待ってろよ富永くん!!」
~その頃、富永一~
「うん? 今なんか悪寒が走ったような。」
そう、今は千夏が一に宣戦布告した時期と被るのだ。
「まあ、いいや。 急いでなんか武器見つけておかないと、今の状態じゃ瞬殺されちゃうな。」
(うーん、俺としては固まってくれてた方が勝ちやすいんだけどそこまでは望まないや、一対一なら逃げて他の人のところまで引き寄せよう。)
「よし、作戦もきまったし怪我が響かないようがんばろう。」
~その頃の橋本水樹~
「千夏と清水さんとやっぱり離れちゃったか。」
どこかの地下らしき場所で、橋本水樹は目覚めた。
(でもこの方が好都合ね、富永君に直接聞きたいこともあったし、しばらくは単独行動しましょうかね。)
そう考えて、地上へと向かって行った。
~その頃の清水桜~
「う~ん、なんか最近私の影が薄い気がするなー。 ここら辺で私の実力ってをハッキリと見せておこうかな?」
そう不気味に笑って清水桜は絶好の射撃位置と敵の姿を確認しにいった。
~千夏サイドにもどって~
「うーん、ドライ誰か見つけた?」
千夏が喋りかけているのは契約している【精霊】のドライだ。
【精霊】には格があり、知能を持たないのが下位、知能を持つものが中位、人型をしているのが高位の【精霊】で高位の【精霊】は数があまり多く確認されていない。
千夏の『ドライ』は中位の【精霊】であり、知能があるのである程度の意志疎通は可能なのだ。
「グルウッ」
「そっかー、今の所は誰もいないか。 ま、いいや気長に探そうっか!」
富永君まだ武器見つけてないかもしれないしね~と、軽い調子で言いしばらく探索を続ける。
その道中で、平野が言ってきた私があいつに感謝するっていうことについて考えることにした。
平野のことだ、どうせ今は観客席でこちらでも見ていることだろう。
観客と言えば、今日はずいぶん多かった。
なにせ二、三年生は遠征で今はいないのに結構な数の観客席が埋まっていたということは、ほとんど見に来ているのだろう。 やはり、転校生に興味があるのだろう。
(それにしても、私がやっぱりあいつに感謝することなんて考えられないなー。)
そんなことをほのぼの考えていると、突如ドライから警告があがった。
「グオウッッ!!」
「っ! 何、どこにいるの!?」
ドライからの警告、それは敵の接近だった。
どうやら富永君が近くにいるようだ
周囲を警戒していると、近くから「ドカン!、ゴウン!」などと轟音がしたので戦闘中であることがわかった私は、その場にすぐに向かい状況を見て驚いた。
「え、なにこれ?」
そこにはもともと壊れていた市街地がさらにひどいことになり、原因の人物達は中心で戦闘を繰り広げていた。
「パルス、【衝撃音波】!!」
水ちゃんの命令に従い、パルスが破壊系の音波を繰り出す。
周囲に衝撃の音波が届けられ、また地形が変わるなか、それを紙一重で避けた富永君は、水ちゃんにカウンターを仕掛ける。 が、そのカウンターを遠くからの狙撃が防いだ。
そして、富永君が下がッた所で水ちゃんが設置されていたであろう太刀を使い追い討ちを仕掛け、水ちゃんの太刀が富永君の持っている双剣と何度か打ち合った所で水ちゃんが下がり、そこに『神聖力』の弾丸が飛んでくる。
すかさず富永君が回避したが、その先にはパルスおり
「パルス、【麻痺音波】!!」
状態異常系の音波を放とうとしたパルスに富永君はあえて接近し、音波の発生器官を攻撃しその攻撃を防ぐ。
私がその一進一退の攻防に感動に近いものを感じていると、ドライが私に「グルウ!」と参加の意志を示してくる。
私はそのドライの行動にはっと正気を取り戻し、その戦場に参戦していった。
「ドライ【冷吐】!」
私がドライにそう指示て攻撃を加えると、流石に予想外だったのか富永君はその場から大きく飛び退き攻撃を回避するが、そこにまたもや弾丸が飛んできて富永君を狙い打つ。
勝った!! そう思い込んでいると、富永君からこんな声が聞こえた。
「『第一封印』強制解放」
その言葉が聞こえた瞬間、信じられないことが起きた。
なんと、双剣を使って富永君が弾を受け流し、そのままその弾を桜ちゃんの方へ飛ばしたのだ。
これに驚愕し動けなかったのか放送が聞こえてきた。
「清水桜 戦死」
なんと、先程の弾が当たり桜ちゃんは死んでしまったようだ。
(そんな馬鹿な、飛んできた弾丸をそのまま同じ方向に返すなんて人間技じゃない!!)
しかし、起こってしまった事実に驚愕していると突然富永君が大きく揺らめき膝をついた。
この状況をチャンスと受け取った水ちゃんが目線で攻撃を促してくる。
私は、その指示に従い攻撃を繰り出した。
確かに驚愕の出来事だったが、戦場で一瞬の油断何て許されない。
「ドライ【フリージングカノン】!!」
一瞬で大きめの氷の玉を作り出し、それを数個富永君に向けてはなつと直撃した。
そのことに水ちゃんが困惑を表しており、追撃の瞬間を逃した。
そして、土埃が晴れたその場を見てみるとそこには富永君の姿はなかった。
放送が流れていないということは戦死していないということだ。 油断はできない。
私と水ちゃんが合流し、
「水ちゃん。」
「わかってるわ、パルス【探査音」
水ちゃんがそう言い終わらないうちに、一つの影が新たにできた土埃から飛び出してきた。
「ドライ【アイスショット】!」
「パルス【衝撃音波】!」
一瞬で切り替え、攻撃に転じるとその影に氷のつぶてと衝撃が向かっていくが影に当たる直前にどこからか現れた大岩に防がれてしまう。
姿を確認しようとするがそこにはもうなく代わりとでも言うように突如背後から現れ、
「二人目!!」
その言葉とともに水ちゃんの首が飛び、最後の足掻きで水ちゃんは富永君の片腕を切り落とした。
「橋本水樹 戦死」
そして、目の前で対峙する私達は刹那の瞬間で攻撃をくりだした。
私は水ちゃんの太刀を拾って切り上げ、富永君は片手の剣で私の心臓を貫く。
そして、
「富永一、高橋千夏 戦死」
うん、主人公視点にはあと七話ごに切り替わる予定です。