対決の前に
「ふわ~、よく寝たー」
と言って、私は目を覚ました。
目をこすって部屋の中を見回すと、朝の着替えをしている水ちゃんの姿があった。
「あら、やっと起きたのね。 おはよう千夏。」
「おはよう、水ちゃん。」
この状況からわかるように私と水ちゃんは同室だ。
そして、ボーッとしながら水ちゃんの着替えを見ているとやっぱりスタイルいいなーなんて思ってしまう。
なんてたって出てるところは出てるし、お腹はキュっと引き締まっているだけでも男子の視線は釘付けのはずなのに顔もいいときたもんだ年頃の男子高校生なんて一発KOだろう。
そんなことを考えていると、私の視線を感じたのか「何?」ときいてくる。
本人はそんな気全くないだろうが、なまじそんなことを考えていただけに嫌味かと思い、少しおどけて見せる。
「いやー、相変わらず才色兼備の橋本水樹さんはスタイルいいなーと思いまして。」
と言うと、水ちゃんは相変わらずの態度で「からかわないで」と言ってくる。
そのいつもの反応にちょこっと、ほーんのちょこっとだけピクッときた私はこっそりと水ちゃんの背後に移動し、意外かもしれないが水ちゃん最大の弱点とも言えるこちょこちょを行う。
「あっ!!」
と、水ちゃんが驚いた声をあげるが、私は続ける。
「ほうほう、ここか。 ここがええんか。」
と、まるでエロ親父のように水ちゃんが「んっ」などと気持ち良さそうな声をあげる箇所を的確にいじっていく。
「ち、千夏やめて。」
と、苦しげに言う声が聞こえたが、私は調子に乗って、
「違うでしょ水ちゃん、やめてください千夏様だよ。 ほら言ってみ、そしたらやめたげる。」
と、言ってみるとふいに、
「やめなさい」
と、マジトーンの水ちゃん声が聞こえたが、ここまできたら最後までふざけようときめて聞こえないふりをしてあると、
「やめなさいっていったのよー!!」
と、あたりに『神聖力』をただの衝撃としてまき散らし、その攻撃を直接うけた私はふっとんで少しの間、目をまわした。
目がさめたその後、水ちゃんにしばらく口を聞いてもらえなくなり、もう二度とやらないと誓った私だった。
学校についてからすぐにたくさんの生徒に取り囲まれた。
その状況に困惑していた私たちだったが、一人の生徒が持っていたポスターをみて納得がいった。
その新聞にはこう書いてあった。
“号外 転校生VS高橋千夏&橋本水樹&清水桜 コネ入学?の転校生に制裁を下すか!?”
その新聞を見て、私はしかたないんだろうなと内心思っていた。
(そりゃあ、不満がある人がいない分けないよね)
それもそうだ、そもそもこの学校は合格できなければ入れない。 なかには友達と一緒に受けて友達だけ落ちた人だっているかもしれないのだ。
そこに本来なら認められるはずもない転校生がきたんだからこんな反応もあって当然だ。
だが、気になるのはそこだけではない。
(どうやってこの事を知ったんだろう?)
そう疑問に思っていると、新聞の一部に載っている写真に昨日の私たちが写っていた。
(えっ!)
と、思わず声に出してしまいそうな驚きを心の中に抑える。
(あのときの会話が聞かれていた? なら、なんで富永君の発言に違和感をかんじていないのだろう。)
そう疑問に思っていると水ちゃんが、
「どこでノエルさんはこのことを知ったのかを知っている人いる?」
と、みんなに質問した。
ノエルさんとは、異常な程の情報収集能力で三年生の元部長との勝負に勝ち、新聞部部長に成り上がった人だ。
この学校にはもちろん留学生だっている。
ノエルさんもその一人だ。
本名はアルテミシア・ノエルでイギリス人ということ以外はほとんど謎だ
ちなみに元部長の三年生は今ではノエルさんのことを崇拝までしているらしい。
すると一人の男子生徒が、
「確か職員室のところで清水がスタジアムの使用届けを先生にだしてるところ見たっていってたぜ。」
という情報をくれた。
水ちゃんはその生徒に「ありがとう」といってから、
「本当のことだからみんな解散して。 見たい人は後からスタジアムにくればいいでしょ。」
と、手をたたきながらみんなに解散を促す。
みんなはまだ納得していなさそうだったが、しぶしぶ解散していく。
みんないなくなったところで、私たちは疑問を口にしあう。
「どう思う?」
「さすがノエルさんだね、まさか職員室にまで盗聴機仕掛けてるなんて。」
と、冗談めかしていうと、
「それも問題だけど、そっちじゃないわ。」
「わかってるよ。 何で写真があるのに昨日の会話が聞かれていないのかってことだよね。」
と言うと、水ちゃんはうなずく。
確かにそうだ。
あのノエルさんなら昨日の会話を聞いていた場合、ボイスレコーダーでも用意して録音し、それを証拠として記事の転校生のところに“謎の”や“なにか秘密を隠し持っている”などつけてよりいっそうすごいことにするだろう。
それなのに、
「どういうことなんだろう?」
と、口にして状況を整理してみると、
写真はあるが会話の内容は載ってない。
写真があることから、本人はその場にいた。
特ダネ好きのノエルさんが会話を聞いていなかったわけがない。
なのに、記事には載ってない。
この四つからでは詳しくわからないなーとうんうん唸っていると、ちょうどそこにノエルさんがやってきた。
「あ、ノエルさん」
私がそう声をかけると、
「あら、高橋さんごきげんよう。 少し取材させてもらっても構いませんかしら?」
と聞かれたので、私が
「どうぞ」
と言うと、水ちゃんが
「その前に少しこっちからも聞きたいことがあるんだけどいいかしら。」
と、逆に質問した。
ノエルさんが少し怪訝な顔をしながらも「構いませんわ。」と言うと、
「単刀直入に聞かせてもらうけど、昨日の私たちの会話の内容をあなた完璧に聞けていたの?」
水ちゃんはそうたずねた。
私がその言葉の意味がわからずに首を傾げていると、
ノエルさんはその言葉の意味を理解したのか苦笑いしている。
「さすが一年生で一番頭が冴えていると言われる橋本さんですわね。 ええ、そうですわ。 私は昨日のあなた達の会話の内容を知りません。」
私が二人の会話に「えっ!」と驚いていると、
「やはりね、道理で私たちへの接触が早いなと思ったのよ。」
水ちゃんのその言葉に、私はまた疑問を浮かべる。
「ねえ、水ちゃんどういうこと?」
と、私が質問すると、
「千夏自分で言ってたじゃない、聞いてたらノエルさんなら絶対記事にしてるって。」
「うん、確かに言ったけど」
「その通りよ。 ノエルさんなら記事に絶対するのにしてないってことは、何らかの事故で私たちの会話は聞こえなかったってことなのよ。」
水ちゃんのその話を聞いて、確かめるようにノエルさんの方を見ると、
「ええ、全くその通りですわ。 私にはあなた達の昨日の会話の内容が聞けませんでした。」
と、正直に答えた。
その様子に水ちゃんは拍子抜けしたように、
「ずいぶんあっさりと認めるのね。」
と言った。
水ちゃんの皮肉にノエルさんは、
「ええ、どうせこれから聞こうとしていることのために言おうと思ってましたし。」
そう返した。
「これから聞こうとしていること?」
私が疑問を口にすると、
急に水ちゃんが、
「却下よ、こちらからなにも言うことはないわ。」
と、私の手をつかんでその場から足早に去ってしまった。
「「えっ!!」」
私とノエルさんの驚きの声が重なる。
しばらく水ちゃんに連れていかれて、教室近くまでくると、
「急にどうしたの水ちゃん!?」
と、水ちゃんの手から離れて少し強めの口調で聞いてみると、
「あれでよかったのよ、彼女の性格からして話の核心まで遠回しにも近づいてくるはずよ。 富永君のこと全部話す気?」
と、もっともなことをいわれてしまった。
論破されて悔しかったので少しでも反撃をと、
「どんな風に聞こえなかったとか聞かなくてよかったの!?」
と言ってみるが、
「確かに気になったけど交換条件とか言われてこっちのことも聞かれるだけよ。」
と、またもやズタボロにされてしまった。
私が落ち込んでいると、不意に「二人ともー」と言う声が聞こえてきた。
声の方を見てみると、桜ちゃんがこっちにくるのが見えた。
桜ちゃんが合流してから、さっきのことを報告してみると桜ちゃんが、
「私のせいでごめん!!」
と、謝ってきたが「気にすることないよ」と励ますと、元に戻ってくれた。
ふと桜ちゃんが、
「水樹ちゃんは何でノエルさんが聞こえなかったのかわかってるの?」
と、私も聞いてなかった疑問を水ちゃんに聞いた。
私もそれにのっかる。
「そうだよ水ちゃん!」
と言うと、水ちゃんはため息をつきながら、
「確信は持てないけど恐らく富永君でしょうね。」
と言う。
当然疑問を浮かべた私たちに水ちゃんが説明してくれる。
「あのね、普通近くにいて話が聞こえないなんてありえないのよ、私たちが何かしない限りね。 けど、私たち三人はなにもやってない、それなら富永君が何かやったと考えるのが妥当でしょうが。」
という水ちゃんの言葉にまた「おおー」となる私と桜ちゃん。
「てことは、勝って聞くことが増えたってことだね。」
と言う桜ちゃんの言葉に、
「そうだね」「そうね」
と返事する私たち。
「それじゃあ今日の午前の授業は作戦会議にまわしましょうか。」
と言う水ちゃんの言葉に
「「おおー!!」」
と、はもる私たち二人。
うちの学校は、大学と同じで単位と授業出席日数さえとれば、その時間に授業があっていようが演習場で訓練やどこかに出かけたりしてていいのだ。
わくわくを胸に私たち三人はスタジアムの作戦室に向かった。
一方その頃富永一は、同級生に囲まれていた。
「おい、転校生。 お前誰に許可をもらって俺の千夏と喋ってんだ、殺すぞ?」
そんな物騒なことを言っているのは、確か平野とか言ってた気がする。 なんでも、高橋さんに異常なほどアピールしているらしい。
前々から異常な執着を見せているとは聞いていたが、まさか勝手に人のことを私物化するほど重傷とは知らなかった。
「人と喋るのに許可が必要なの?」
と、言ってみると殴られた。
「痛いなー。」
「うるせえ、調子のんな。 おい、こいつ昼休みの模擬戦で無様に負けるよう痛めつけとくか。」
そう言って、平野は何か取り出し服で隠れる部分だけを徹底的に攻撃してきた。
「あぐっ!」
平野は俺の声に満足したのかこんなこと言ってきた。
「ひひ、いいか転校生。 千夏は俺のもんだ、今後一切関わるんじゃねえぞ!」
と、よりいっそう攻撃を激しくしてきたのでこういってやった。
「電脳戦に肉体の痛みは関係ないんじゃないか?」
それを聞いた平野はキモイ笑いを浮かべてこう言ってきた。
「電脳戦ってのは本人の肉体データも送られるんだ。 だから、てめえは傷ついた体で戦わなきゃなんねえんだよ。」
その言葉を聞くまでもなく、俺は
「知ってるよんなこと、誰が作ったと思ってんだ。」
「はっ? てめえなにい」
最後まで言い終えることなく平野たちの意識は暗転した。