転校生!?
「ええー、明日から転校生がこのクラスにやって来ます。 みなさん仲良くするように」
先生のその言葉を聞いてクラスはざわめきだした。
それもそのはずこの学園は普通の学校ではなく南東英雄育成学園なのだから。
この学園は厳しい試験を乗り越えた素質あるものしか入学できないはずなのだ、転校生を認めていいはずがない。
すかさず先生に対して質問した人物がいた。
クラス代表の一人の海崎くんだ
「先生、転校生とはどういう意味ですか?」
「言葉道理の意味ですよ」
「そのような事は質問していません。 何故この学校に転校生が来るんですか!」
「私も詳しい理由は知りません。 何でも《預言者》君と校長先生のお墨付きらしいですよ。」
「「「!!!」」」
その言葉を聞いてクラスに戦慄がはしった。
「か、角君がですか!」
先生の言った《預言者》と海崎君の言った角君とは同一人物である。
角君が何故こう呼ばれているかを説明するためにはこの世界の状況を説明する必要がある。
まず、この世界には【魔族】、【人間】、【神族】が存在した。
最初は、【人間】しかいなかったがある日に【魔族】がこの世界に急に現れて『魔力』という人外染みた力を意のままに操り【人間】の世界を蹂躙していった。
【人間】はそれに対抗するために力をつけていった。
だが、所詮は人、人外にはかなうはずもなかった。
そんな時、後の英雄の《水弓》に力を貸してくれた【神族】をきっかけに【人間】にも【神族】の力である『神聖力』が【神族】の従者的存在である【精霊】を通じて使えるようになった。
が、武器のようなもので戦ったほうがいいと考える人もおり、英雄は【神族】と共に作り出した『心器』と呼ばれている自分自信の『神聖力』を自分に一番あっている武器を最初に心が形作り、その後はその『心器』を扱いながら戦う人と『神聖力』をさながら魔法使いのように扱い戦う人と共に【魔族】を追い詰めていった。
その後、最終決戦となった第四次人魔大戦で犠牲は少なくはなかったが英雄達に【魔族】は滅ぼされたはずだった。
が、英雄の一人である《水弓》が《大魔王》と呼ばれる魔族の王との死闘の最中「自分は自分の本当の種族では中の上程度」という言葉と「その種族はもう数年で目覚める」という言葉を聞いた。
その事の信憑性を感じた《水弓》がその種族に対抗するための戦力を増やすため提案した『戦闘訓練学校』の設立と『一年間の間だけ体感時間を三分の一にする』ということ、つまり世界の時間感覚をずらし一年で三年を過ごす感覚になるということだ。
前者はともかく後者は可能なのかと疑問に思う人物が大半だったがそれは【人間】に親しい【神族】の一部が力を貸してくれたことにより可能だったようだ。
可能だったといってもその作業は英雄達の力をもってしてもとても過酷だったものらしくその苦労もあいまって無事【人族】に何の影響も及ぼす事はなかったが最初は時間のズレにみんな戸惑った。
だが、それも最初の1ヶ月で慣れた。
で、その学校がなんやかんやあって現在の中央、南東、北西英雄育成学園になったわけだ。
おっと、元々の角君について忘れるところだった角君、または《預言者》とは英雄の一人である。
英雄とは十八人おりその全員に【神族】のパートナーがおり、一人一人がその特殊能力が使える。
その特殊能力にちなんで一人一人に二つ名がついている、角君の《預言者》や《水弓》のようにだ。
本人達はその事をあまり嬉しがっていないようだが。
で、そのうちの一人が角君というわけで、この学校にはこの南英雄育成学園には角君のほかにも英雄が二人いる、まあ、それは後ほど紹介するとしてだ。
でだ、大体分かるだろうとは思うが英雄はとても強い。
戦闘系でもないにかかわらずこの学校では《序列三位》の実力だ。
前の二人はもちろん英雄だといいたいところだが、生徒会長が二位にはいっている。
角君の《預言者》というのは角君の特殊能力の事を表す。
特殊能力は『未来予知』で大規模な予知は月に一回できるかできないかだが、数秒先の未来なら自分の体力が持つ限り何度も可能らしい。
《水弓》の提案した一年間というのも角君の予知の恩恵で一年後、どこかで【魔族】の上位種族が目覚めるらしい。
と、まあこのように大まかな現在状況の説明はしたので話を戻そう。
「まだなにかありますか?」
「いえ、失礼しました。」
「それではまた」
そう言って先生は教室から出ていった。
先生が出ていった後に私、高橋千夏は疑問を口にした。
「一体、どういうことなんだろう?」
「さあ? 何か考えがあるんじゃないの」
そう私に受け答えしてくれたのは幼なじみの橋本水樹こと水ちゃんだ。
彼女はこの学校では《序列二十一位》という中々の実力者で容姿もよく学校の人気者である。
かくいう私も自慢ではないが《序列十三位》で容姿もそこそこいいと思っている。
告白だってされたこともあった。
(もちろん断ったけど)
「それよりも、もうすぐ『三学園対抗戦』よ。 準備はできているの?」
三学園対抗戦とは、その名の通り三学園で競いあいどこが一番強いかを決めるというまあ、イベントみたいなものだ。
だが、ただのイベントではない戦闘科、支援科の両方の全生徒参加が義務で負けた二校は勝ったところのいうことをひとつ聞かなければならないという景品もある。
そのため学園の全生徒は今ピリピリしているのだ。
そんな時に転校生など校長先生は一体なにを考えているのだろう。
「千夏?」
「ん?」
「どうしたの?」
「何でもないよ。 考え事してただけ」
「そう、それなら帰りながら話しましょうか」
そういって帰宅準備を始める。
学校から一キロ程度の寮までの帰り道、私はやはり明日来る予定の転校生について考えていた。
「ねえ、千夏さっきも聞いたけど準備はできているの?」
準備とはもちろん『三学園対抗戦』のことだろう。
「もちろん! なんてったって初めての対抗戦だからね、楽しみでしかたないよ」
人生で初めての対抗戦なのだ、準備していない訳がない。
「そう、それもそうね。 何の競技にでるかは決めているの?」
「そうだなあ~」
『三学園対抗戦』は得点制であり三週間かけて行われる。
一、二日目に前夜祭、三日目に『スピードフラッグ』、
四、五、六日目には『脱出!!無人島サバイバル』、
七、八日目は『ゴーストバスター』、九日日目に中間祭、
そして十、十一日目に『宝探し』、
十二日目に支援科の『総合作品発表』があり、
十三日目に『サッカー』、
十四、十五日目は『全学年バトル・ロワイアル』があり、
十六日目はまた中間祭がある。
そして、目玉の十七、十八日目は『攻城戦』
最後、十九日目に代表者五名でやる『一対一』がある。
二十、二十一日目の後夜祭で終わりだ。
「個人的には『一対一』に出たいかな。」
「それはみんな同じ気持ちでしょうね。」
「だよねー」
『一対一』はみんなの憧れなのだそうそう出れるものではない。
「まあ、それ以外はあんまり決めてないかな。 水ちゃんは?」
「個人的には『宝探し』かしらね。 私の得意そうな競技だしね。」
「そっか~」
その後は他愛もない話をしているうちに寮についた。
寮に入ろうとした瞬間、周囲に爆音が響いた。
「っ!!」
「何!?」
はっとして、音の発生源を見てみると、
爆発の中心に【魔族】がいた。
「残種!? 何でこんなところに!」
残種魔族、それは滅ぼされた【魔族】の生き残りで現在も世間の問題となっている存在だった。
水ちゃんの動揺した言葉に、残種魔族がこちらを向いた。
それに気づいた私は動揺を強引に消して、
「今はそんことより倒さなくちゃ!」
水ちゃんに注意を喚起しつつ、臨戦体制を整える。
「っ!! それもそうね」
私の言葉を聞いた水ちゃんも臨戦体制をとる。
そして、戦闘準備の魔法を唱える。
「「召喚!!」」
召喚、それは『神聖力』使いが契約している【精霊】をよびだすために使う言葉。
「来て、ドライ!」
「お願い、パルス」
私たちの周囲に白い狼と大型のこうもりが現れる。
「ドライ、【アイスフォール】!」
「パルス【超音波】」
私達の必勝法といっても過言ではない連携技、ドライの【アイスフォール】で相手の周囲に氷壁を生み出し足止めして、パルスの【超音波】で混乱させてから倒す。
残種魔族は周囲を氷の壁で囲われ、今まさに【超音波】が当たろうとしていた。
(勝った!!)
心の中でそう思った次の瞬間、残種魔族は腕を無造作にふるうだけで氷壁を破壊し【超音波】をよけた。
「「!!」」
驚いてはぐれ魔族を見失ってしまった私に、水ちゃんから警告が聞こえた。
「上よ、千夏!」
その言葉を頼りに上を向こうとしたが、一瞬遅かった。
私は為すすべもなく意識を奪われ、
「千夏!! 千夏!!」
遠くから水ちゃんの声が聞こえる。
最後に私が見たのははぐれ魔族が水ちゃんのうしろで腕を振りかぶっている瞬間だった。
(水ちゃん危ない・・・)
そう警告することも叶わず、そこで完全に気を失った。