ゴブリンの…
投稿遅くなりすみません。
頑張ります。
跳んできた緑色の生き物の姿は本に記述されていた容姿に当てはまる。緑色の肌に尖った小さい耳、魔物の特有であるらしい赤い瞳に、硬い肉でも引きちぎれそうなザラザラした歯を持つもの。
ゴブリンだ!!
ゴブリンは全く抵抗せずに俺に抱かれている。真っ赤なビー玉ほどのつぶらな瞳で俺の方をじっと見つめてくる。その様子は、地球で醜く描かれるゴブリン像と違ってむしろ愛らしい。
それにしてもこのゴブリンは小さい、おそらく子供だろう。成体のゴブリンは成人男性の半分ほどの身長であるらしく、そうであるならば今の俺よりは大きいはずだ。つまり、このゴブリンもまた幼生体であるはずだ。幼生体だから、人間に対する危機意識がないのだろうか?本には、ゴブリンは人間に対して非常に攻撃的であると明言していた。
「ギャウ」
ゴブリンは俺に何かを伝えようとした。俺はゴブリンの言葉がわからないが、何を言いたいのか、そのニュアンスはなんとなしに理解できた。
「お前、逸れたんだな。」
ゴブリンは目を大きくして俺の手を強く握る。手の甲が熱い。ゴブリンの手はそれ以上に熱かった。
「名前はなんて言うんだ?」
ゴブリンは俺の目の奥を食い入るようにみて、ふと視線を外した。何処を見るでもなく、何かを探しているかのように視線を彷徨わせた。
「名前ないのか?」
「ギャウ?」
どうも、はっきりとした返事が帰ってこないのは、彼に名前という概念がないからだろうか。俺はゴブリンの薄っすらと毛の生えた頭を撫でて思いついたことを口にした。
「名前付けようか?不便だし。」
「ギャウ?」
相手の意志が得られないが、俺はこのゴブリンの名前を考えることにした。名前をつけるにあたって、このゴブリンをしっかり観察する必要がある。ゴブリンはそんな事知らず、手の中に収まっている。よくみると耳が大きい。ゴブリンの典型よりも大きいのではないか。いたって福耳である。その他の身体的特徴に思い当たることなく、俺の観察は終了した。
「お前の名前はフクだな。」
「ギャウ?」
「お前のことだよ。」
ゴブリンは何かを探しているかのように視線を彷徨わせた。そして、しばらく目をキョロキョロさせたあと、俺の目を食い入るようにみた。
「フ…ク?」
「おお、いきなりしゃべったな。そうだ、お前はフクだ。」
もし、幼少期の記憶を覚えていられたら、人の人生はどれ程豊かになるだろうか。むしろ、人生における最大の幸せな時期を人は最初に体験するのではないだろうか。俺は幸いにも、幼少期の記憶を有することができるみたいだ。世界がこのことに驚くのはきっと遠くない。
俺はフクをある意味人と認識する為に名前を付けていたのだ。フクのそのまん丸の瞳は薄黄色に輝いていた。