魔法
母が俺に語ったことを端的に示すと、魔法というものの存在を人々は一般的なものとして認めているということだ。
「レイン!!魔法はね、”神様”の恩恵なんだよ〜。」
「かみしゃまー?」
「そうだよ、かみしゃまーだよ〜。」
そう言って母は俺の髪をくしゃくしゃと撫でた。
母は魔法を2歳である俺に教えるのを習慣にしている。よく子供に絵本を読んであげたり、一緒に物の数を数えてあげたりするように。しかし、後々母に聞いてみると、別にエリート教育などといったものを行うつもりはなく、ただ単に自分の専門分野について、思うがままに喋っていただけだったらしい。
そう、母は魔法の専門家であるらしく、俺が疲れて眠りにつく時には揺籠から離れて机に向かう姿が見える。その時の横顔が真剣味を帯びていたので、俺は眠気を忘れて母をまじまじと見てしまった。
「あら、起きちゃったの?」
母は俺の視線に気づき、走らせていたペンを置いて腰元から細長い杖を取り出した。
「おやすみなさい、レイン。《神の名において》《ゆったりと眠れ》」
なんだ今のは!
と思ったのは束の間、俺は誰かに眠れと優しく言われているような気がして、目を閉じたくなった。意識が戻ったのは次の日の朝だった。
これが俺の体験した初めての魔法だった。