異世界に産まれる、その前に(2)
「それでは最後の質問に答えましょう。導くということについてでしたね。導くというのは、私が貴方を異世界に産まれさせるということです。加えて、私の力を持ってして次の生における願いを1つだけ叶えてあげることができます。私は堕ちたといっても神ですから、願いの1つなら叶えることが可能なのです。」
メテエドは表情を変えて言った。
「貴方が次の生を受ける世界は地球とは全く違った現在を持っています。願いの内容は真剣に考えることをお勧めします。生きることは死ぬことよりも難しいのですから。」メテエドはこう言い終わると、再び笑みを浮かべて蓮の返事を待つようにして姿勢を正した。
蓮は沈黙した。深く沈黙した。そして大きな、たった1つの大きな感情があることに気がついた。それは妹の彩が本当の意味において一人きりになってしまったへの憐憫であり、懺悔であった。彼女は過去・現在・未来において一人きりなのだ。
何かに達したかのように蓮は目をゆっくりと開き、何もない世界であってもよく通る声で神に向かって答えた。
「俺には叶う願いは必要ありません。その代わりといってもなんですが、一人きりになった妹の為に、彼女が強く生きれることを一緒に願ってもらえませんか?叶うかわからない願いを。」
メテエドは口に手をやり、蓮にうなづいてから、何かに祈るように目を閉じた。
ーーーー
「本当に何も願わなくてよろしいのですか?」
メテエドは口酸っぱく蓮に問い直した。
蓮は柔らかな笑みを浮かべて言った。
「俺はそれほど生きるということを恐れていませんよ。それに願いを叶えてもらって生きるということに何の意味があるのでしょうか?俺の願いは願いそのものなんですから。」
蓮は身体が小刻みに震えているのに気付き、左腕を少しつねった。
メテエドは諦めたように上を向き、居直って蓮に告げた。
「では、貴方の望んだ生を…。」
メテエドが腕を振り上げると、何もなかったところから扉が現れた。
「通り抜けた時、貴方は異世界に産まれていることでしょう。赤ん坊の状態で自己を自覚することはできないでしょうが、何年か過ぎれば、貴方は自己を自覚するはずです。自由に生きなさい。真白な紙のような人よ。」
蓮は躊躇わずに、口元を引き締めて扉の向こうに飛び込んでいった。