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騎士様の知恵袋  作者: ギロチン
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第9話 連帯保証人にだけはなってはいけない

ニコル14歳 ガーラント21歳


 学校を卒業後、1年が過ぎた。返済どころか、一度も利息すら払っていない。

 雪だるま式に借金が増えてきて、流石に債権への不安をおぼえた学校側が、奨学金の返金要請をしてきた。


 なんとか巧みな交渉で引き伸ばしてきているが、もはや限界だ。返戻要求は矢のようにしてきている。金はない。利息すら払えない。困った……。


 これ以上、返済を渋ると親の方にまで返済要求が行ってしまう。


 オレは親父が大嫌いだ。本当に、本当に。心から大っ嫌いだ。向こうもオレを嫌っていることだろう。相思相悪だ。


 もしこれで借金の返金要請が親父の方にいって、親父がそれを支払ってしまった場合。オレにとって悪夢の事態が訪れる。


 親父は大声で笑いながオレをバカにするだろう。


「はっはっは、偉そうなことを言って。学校に行ってもなんにもならなかったと証明されたな! やっぱり地道に農作業をするのが一番だ。ニコル、お前はうちの小作人になって嫁もとらずに死ぬまで家の畑でじゃがいもを作って暮らせ!」


 オレは有無も言わずに親父の畑に連れ戻されて、じゃがいも農家の小作人として一生を過ごすことになるだろう。


 そんなのヤダ!


 頭をつかう時が来た。

 今まで知恵の限りをつくした交渉術でも、引き伸ばせる期間は限界にきてしまった。


 ここから必要なのはより実効性の高い力だ。


「ガーラント、頼みが有る」


「おお、わかった。引き受けよう」


 頼み事を聞かずにとりあえず快諾するのがガーラントの短所だ。長所でもある。

 脳を働かせない底抜けのバカさは、同時に底なしの器のデカさにも見える。


「じゃあまず、お前がザーン国に所属する正式な騎士ってことを証明する。その証書をもらってきてくれ」


「どうすればもらえる? ドラゴンを退治するのか?」


「証明書一枚にドラゴン倒してたら、世界中のドラゴンが今週末には消え去るわ。王都の紋章庁に言えば発行してくれるはずだ」


「うむ、わかった」


「あとオレはガーラントの正式な家臣であることを証明する証書を作る。こっちは印章と保証人が必要になる。社会的に信用が置ける人に知り合いはいるか?」


「社会的な信用ってのは、どういうのなんだ?」


「……お前が直接頼み事が出来る人のなかで、一番偉い人はだれだ?」


「そりゃあ『銀の切っ先』騎士団の副団長、ベルナドットさんだな。決まってるじゃないか」


 決まってねーよ! 

 ちなみに『銀の切っ先』騎士団というのは、ザーン王国の公式騎士団の一つだ。上品さの欠片もないが、とにかく強くて国の精鋭部隊だ。

 ガーラントの所属している騎士団でもある。


「副団長なのか?」


「団長とはあったことない。貴族だし」


 なるほど、団長はお飾りか。

 いや、ガーラントがバカ過ぎて、向こうが避けている可能性も否定出来ない。とにかく覚えておこう。


「副団長とは話せるんだな?」


「ああ、ベルナドットさんはいい人だ。オレたちのことをよくわかってる。気が合うんだ」


 なるほど。同じタイプ(猪突猛進で勇猛果敢なバカ)か。ガーラントほど正直さがあるかは謎だが、今のところここが最適だろう。


「よし、その人にオレとガーラントの地位を保証してもらおう」


「何すればいい?」


「これから書類を作るから、そこに自筆でサインを貰ってくれ。きちんと依頼する手紙も書いておく」


「ふーん。これでどうなるんだ?」


「オレがベルレルレンの部下ということになる。つまりザーン国の『銀の切っ先』騎士団の隊員の部下、平たく言えば公務員の関係者ということだ」


「へー。そうなんで借金踏み倒せるのか?」


 踏み倒せるわけ無いだろ!


 でも公務員の関係者だ。向こうも強硬手段をとれなくなる。取りづらくなる。


「それとガーラント。非常に言いにくいんだが。……オレの借金の連帯保証人になってくれないか?」


「おう、わかった」


 まさかの快諾。これにはさすがに驚いた。


 将来のために、ここはさすがにきっちりしておかねばならない気がする。


「ガーラント! それは非常に助かるが、いくらなんでも簡単すぎだぞ。借金がいくらかを聞けよ」


「必要なことだろ?」


「当然だ。オレは必要なことしか頼まない」


「なら聞くまでもない。必要なことは、するだけだ」


「ちょっとは疑え! お前、いつか誰かに騙されるぞ」


「安心しろよ、ニコル」


「ん?」


「こんなのお前だけだ」


 ガーラントはニカッと笑ってオレの肩をポンと叩いた。


「あ、……ん。ありが、とう」


 なんだろう、ちょっと目頭がうるんでしまった。


 ガーラントが超バカなだけなのに。こいつの為に死んでやらなきゃならないくらい感動してしまった自分がいる。


「気にすんな。仲間だろ」


 最高にいい笑顔のガーラント。


「……っていうか。お前の稼ぎがもうちょっとあれば、そもそもこんな事にはならなかったんだぞ。わかっているのかよ、ガーラント」


 なんでこんなツンデレっぽいことを言わなきゃならないのか。調子が狂ってくる。


「分かってる分かってる。戦になれば、バンバン働くって」


 ガーラントはそう言って、オレの頼んだことをすべて引き受けてくれた。


 果たして借金の督促はピタリと止まった。


 勇猛で鳴らす『銀の切っ先』騎士団の系列にいる者で、しかも騎士団員の連帯保証書付きとなれば、先方から見るともうとりっぱぐれのない先だ。

 ガーラントは公務員騎士だから、戦場で死んだところで、遺族補償から借金は取り立てられる。


 借金問題はどうにか解決した。ガーラントにデカイ借りができてしまった。


 オレはガーラントの子どもたち、3歳児、2歳児、1歳児の世話をしながらそう思った。


 3人ともガーラントに似て、超うるさい。

 とくに3歳児のヴィヴィアンがうるさすぎ。


「ニーコールぅ、あそぼあそぼあそぼそぼそぼぼぼぼぉ! あははははは♪」


 子供語は理解できない。理解できないものと話を合わせるのは大変だ。


 どちらかと言うと、オレのほうが貸しがある気がしてきた。

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