第7話 ガーラントさんちのお宅拝見
ニコル13歳 ガーラント20歳。
ガーラント家は貧乏だ。
家系図のどこにも貴族が載っていない根っからの庶民だ。財産は何にもない。領土なんてないし、固定資産すらない。つまり家屋敷がない。借家住まいの貧乏騎士だ。いや貧乏騎士見習いだ。
こんな騎士のところに奉公にくるなんて、オレもよっぽどな変わり者だろう。先物買いとはいっても、あまりに早過ぎたかもしれない。
「というわけでガーラント。早いとこ偉くなってくれよ。でないとオレは餓死しちまう」
「わーってる。戦争さえ起こればこっちのもんよ。俺は腕っ節には自信があるからな」
ガーラントはポンとぶっとい腕を叩いた。
ガーラントの方が7歳年上で、一応は主君ということになっている。
でもオレとガーラントの関係は、限りなく友だちに近かった。バカで力持ちなガキ大将と、弱くて賢い子分、そんな関係かもしれない。
「あまり無理はしないでくださいませね」
ガーラントには奥さんが言った。ガーラントは妻持ちで、しかも子持ちだ。
奥さんが赤ん坊を抱えている。その足元には、2歳ほどの幼児が立っていた。
ガーラントは3年も学校に行って家を留守にしていた。にも関わらず2歳児と0歳児がいる。計算が合わないどころじゃない。
こんな大胆な浮気をするとは、奥さんも相当な肝を持っている。
「ガーラント、お前も大変だな」
ちょっと同情してしまう。俺も結婚する時は気をつけよう。妻に豪胆さは求めないぞ。不美人でも貞淑が一番!
「……なにを誤解しているかわからんが、俺は長期休暇のたびに家に戻ってたからな。実家が嫌いだとかいって、一度も里帰りしなかったお前と一緒にするなよ」
「あ、ああ。そうか。なるほどなるほど」
俺は納得した。
そして奥さんに物陰に連れて行かれ、思いっきり引っ叩かれた。
ぶっ叩かれるくらいで許してもらえて、本当に良かった。
借家のガーラント家の、2つしかない部屋の片方をもらってオレは住むことになった。
2日に一度は、子どもたちはオレの部屋で寝る。薄い壁に隔たれた隣の部屋からは、奥さんのケモノのような声が聞こえた。
あと赤ん坊も幼児も、遠慮なく夜泣きをする。
眠れん。