第5話 初めて出会った脳筋の
ニコル12歳
絶食生活3日目。水だけは飲めるが、育ち盛りのこの身にはキツイ。目が回って勉強どころではない。周りの食料を持っている人がやけに目につく。
サンドイッチ
唐揚げ。
パスタ。
鹿。
「鹿!?」
鹿であった。角のある鹿を担いで歩いている男が中庭にいる。
オレは何かの可能性を感じ、その男のところに行った。
「その鹿、なに?」
「森で狩った」
男は平然とした様子であった。男は巨躯にして筋肉隆々とした頑健な肉体をしていた。大人の男である。先生たちと比べても、明らかに頭一つ大きい。子供にしても背が小さくひょろっとしているオレとは、種族が違うほどの体格差だ。
オレから見ると、男は巨人に見えた。
その巨人が、森で鹿を狩ったと言っている。どうも学校の授業で森の植物採集に行った時に、はぐれてそのまま森をウロウロしていたらしい。出くわした鹿を狩って、どうにか帰ってきたそうだ。
「腹が減ってどうにもならん」
巨人系男子は髪を掻きながら、さして深刻そうでも無く言った。
意味がわからない。食料なら、お前の肩にあるだろう。
だが男にはそれが出来ないらしかった。この男には、鹿の解体作業が出来ないのだ。
村の農家出身者ならば基本スキルである野生動物の解体技術を、この男はもっていない。鹿を狩れるのになぜ解体スキルがないのか?
「俺は騎士だ。正確には騎士見習い。どんなものでもぶっ壊してぶっ殺すのは得意だ。でもそれ以外はなんもできん」
なるほど。脳筋というやつか。初めて見た。
俺は鹿の解体を手伝い、お礼に肉を手に入れた。俺はその肉を串焼き屋の屋台に持って行っていき、売り払って金に変えた。
即座に鹿肉の串焼きを購入して食らう。腹一杯になるまで肉を食った。3日ぶりの食事はうまかった。小銭みたいな金だけど、なんとかお金も手に入った。
これであと4日、つまり月末まではなんとかなる。
月末の試験をパスすれば、次の試験は一ヶ月後。日払いのバイトを探してどうにか生きられる。
助かったぁぁぁ。
そしてふと思う。
オレの命を救ってくれた鹿を持ってきた脳筋の騎士見習い。あいつはなんて名前だったっけ? 名前を聞くのを忘れていた。