第2話 学歴がない!
ニコル11歳
努力に努力を重ねて、百姓出身ながらオレは読み書きを習得した。「さすが美容を極めし魔法使い、エレトンさんの孫だ」という人もいた。
もちろん親父は嫌な顔をしていた。ほんとに爺さんが嫌いなようだ。ついでにどんどん賢くなるオレを、エレトン爺さんに見立てていらいらをぶつけてきている気がする。
息子のオレがいうのもなんだけど、ああはなりたくないもんだ。
オレは街の学校に入るのを目指した。頭脳でのし上がるには、何はなくとも学校を出ていなくちゃだめだ。学歴ゼロではスタート地点にすら並べない。
だがオレはまだまだ子供だ。学校に入るには親の許可がいる。
「学校にいく許可をくれよ。親父」
「ダメだ! ふざけるな! 働け!」
返事はげんこつ3発だった。理由はわかる。エレトン爺さんが大嫌いな親父は、学で身を立てるという行為に嫌悪感があるのだろう。そして金も惜しい。息子という無料で働く労働力を失うつもりもない。
オレはそんな難易度Sの交渉相手に、粘り強く嘆願し続けた。もちろん毎日身を粉にして働き、その上で勉学も行う。
きつい日々だった。
農作業が終わったら遊びに出れる近所の子供達が羨ましくもあった。でも我慢だ。オレにはこの貧乏な農家を出るという夢があるのだから。
そんな生活が一年も続いたある日のこと。
なぜか機嫌が良い親父が、旅支度をしていた。ウキウキとしている。まるで村の連中とやってるサイコロ賭博で大穴を当てた時のようだ。
こういう上機嫌な時こそ、交渉はスムーズに運びやすい。
「親父、頼むからオレを学校に行かせてくれ!」
オレは伏して親父にお願いした。
その誠意あふれる嘆願に、親父はついにゲンコツ以外の返答をした。なにかを暫く考ええていたかと思うと、唐突にニヤリと笑った。
嫌な予感がする。
「ふーん、なるほど。お前の気持は良くわかった。だが条件が一つある」
すごく嫌な予感がする。
「お前も旅支度をして、明日からの特別な仕事を手伝え。きちんと出来たら、お前を学校に行かせてやる」
仕事の内容は? と、聞きたかったが、オレはやめた。親父はろくでもないことを考えているに違いないが、オレに選択の余地はない。
ともかく『学校に行きたい』→『ふざけるな!』というテンプレが破られたことを喜ぼう。
「約束だぜ、親父!」
「ああ。でもきちんと出来たらだぞ」
悪い予感は止まらないが、オレは何が何でも完遂するつもりだった。
試練だ。オレが偉くなるためのはじめの試練がやってきたことを、オレは認識していた。