第18話 家族は一緒が一番らしい
ニコル16歳 ガーラント23歳
ガーラントがイゼットさんと子どもたち3人を連れて帰ってきた。
ガーラントの顔に青あざができている。そしてくすんだ金色の短髪が、すべて刈り上げられて丸坊主になっている。すっごいカッコ悪い。
でもまあ、体罰&丸刈りで許してもらったわけか。よかったよかった。
「おかえり、イゼットさん」
「ただい……」
「ただいまーーー! ニーコールぅ!」
奥さんの脇から、猛スピードでオレに突っ込んできたのはヴィヴィアンだった。手前でジャンプして、オレの胸に飛びついてくる。
5歳児といえばすでにスピードもパワーも重さもけっこうなもの。ヒョロ体型のオレにはかなりキツメのぶちかましだ。
「ヴィヴィアン、元気いいな」
「うーん! ヴィヴィアンとっても元気よ」
胸に頬ずりされた。鼻水を擦り付けてないか心配だったが……しっかり擦り付けられている。でも嫌そうな顔はさすがにしない。
なんだかんだ言って、この騒々しさは久しぶりだ。
「そっかそっか。元気で何より」
「もーー、ニコルはしかたないなー」
「ん、なにが?」
「パパから聞いたよ。ニコルはヴィヴィアンに会いたくって、泣いちゃってたんしょう?」
……なんですと?
オレの疑問をもとに、その下のちっこいのもオレのそばに走ってきた。
「ちがうよーぉ。ニコル兄ちゃんは、ボクと遊びたかったんだよ。ねー?」
と、バルグ君3歳のお言葉。
「わーたーし!。ニコルちゃんは、わたしとあそびたかったのぉ!」
ビオレッタさん2歳もオレの足にくっつく。
な、なんこれ?
疑問をもつよりも早く、ガーラントがオレに手を合わせた。
長い付き合いの間同士で通じるアイコンタクトで、ガーラントがオレに伝えた。
『そういうことで、頼む!』
どういうことだよ!
なんて怒鳴りたかったが、この状況はすぐに判別がつく。
ガーラントはイゼットさんに帰って来てもらう為に、子供をダシに使った。「お前たちもお家に帰りたいよな?」とかなんとか言ったんだろう。
で、望むような答えが帰ってこなかったガーラントは、困ってオレを引き合いに出したのだ。
想像するしかないが、「家でニコルもみんなに会いたがってるぞ。寂しくって泣いてるんだ。はやくヴィヴィアンやバルグやビオレッタと会いたいよーと言ってシクシク泣いてるんだ。みんなも帰って来たいよな?」そんな感じで言ったに違いない。
果たして子どもたちは猛烈に家に帰りたがり、イゼットさんも帰宅せざるをえなくなたっということだ。
そうに違いない。情況証拠からいって、もう1000%明らかだ!
否定したいところだけど……
縋るようなガーラントの視線には耐えられない。
「しかたないからぁ、ヴィヴィアンがニコルと遊んであげるね。ニコルはお父さんで、ヴィヴィアンはお母さんだからね」
「……ありがと、ヴィヴィアン、バルグ、ビオレッタ」
子どもたちと、おままごとをすることになった。
オレ、超忙しいのに。
オレは現在のところ、ガーラントが適当に出した休暇届を修正するのにすごく忙しい。髪が白髪になりそうだ。ハゲるかもしれない。
救いはイゼットさんも、「ごめんなさい」という顔で手をついてくれていることだ。
いいですよ。オレ1人が犠牲になって夫婦も家庭も円満になるんでしたら。いくらでも犠牲になりましょう!
「はいはい、お父さんだよー」
「ちーがうでしょー! ニコルはお父さんだけど、パパじゃないのー! もう、ニコルはしょうがないなぁ」
5歳の幼女にダメ出しされた。おままごとの設定では、オレは旦那さんらしい。父親っぽくなく、旦那さんっぽく話さねばならないようだ。
演技は苦手だが、役割演技なら頑張れる。
オレはベルレルレンっぽい感じで、ぶっきらぼうにヴィヴィアンを呼び捨ててた。そしたらすごく照れられた。おませさんだな。
「ねーねー、僕はニコル兄ちゃんのせんゆーね。ニコル兄ちゃんは、僕のいうことをきくんだよ」
「はいはいいうこと聞きますよー」
バルグ(3歳)はもう戦友という言葉を覚えていた。父親の影響だろうか。将来は立派に父親の右腕に育って欲しいもんなのだが。
体格がどう見ても、ヴィヴィアンの3歳の時より小さいんだよな。
まあまだ心配することはないか。
「えーとね、えーと、わたちはじゃあ赤ちゃんね!」
ビオレッタ(2才児)が赤ん坊役になってくれた。はまり役だ。もう普段通りで全く問題ない。おもらしするところなんて、もう赤ん坊と瓜二つ。
オシメを交換していると、ビオレッタがほんとに娘になった気分になる。
そういうやこの子の妊娠が病院でわかった時に、イゼットさんに付き添ったのはオレだったんだよなぁ。
こうしてパパ、ママ、戦友、赤ちゃんというおままごとは、その日の夕暮れまで続いた。
久しぶりに食べたイゼットさんの夕ごはんは美味しかった。
今日は徹夜で書類を仕上げないといけない。明日にはガーラントは出勤するのだ。
はぁぁぁ。疲れる。