表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
騎士様の知恵袋  作者: ギロチン
17/20

第17話 浮気がバレて実家に帰っちゃった奥さんに戻ってきてもらう、たったひとつの冴えたやり方

ニコル16歳 ガーラント23歳



 ガーラントが、ゴブリンから助けだした女騎士様たちと浮気をして、イゼットさんがぶちきれて実家に帰ってしまった。

 ガーラントは浮気というつもりは全くなかったそうだ。ただ命を預けた戦友同士の交流(夜の男女バージョン)であったとのこと。


 なにそれ。超羨ましいんですけど!


 もちろんそんな理屈、戦士以外には通用しないわけで。


 とはいえイゼットさんも、豪快にして奔放でかつ脳筋なガーラントの奥様なのだから、ある程度は我慢しただろう。


 ある程度、であったのなら。


 相手が二桁以上で、しかも街に戻ってから一ヶ月たっても関係が続いていると知って、イゼットさんはぶち切れた。


 いやでもイゼットさん。ガーラントの弁護をするわけじゃないけど、一ヶ月以上関係が続いてたわけじゃないんだよ。相手が2桁ってのは、具体的には25人もいたわけで。

 一人一晩ずつ相手をするとしても、一ヶ月以上かかるわけで。


「……で、ここらへんをきちんと説明したら、むしろイゼットさんは怒るからな。気をつけろよ」


 どういうわけか、オレはガーラントの相談を受けていた。

 いや確かにオレはガーラントの知恵袋だから、この役どころはあっているんだけどさ。


 浮気の調停って、騎士の知恵袋の仕事か?


「ならどうすればいいんだ?」


「とにかく平謝り。誠意をみせて、精一杯誤り続けろ」


「誠意とは?」


「金だ!」


 古今東西、誠意が金以外の意味であったことは数少ない。


「か、金?」


「……冗談だ。金貨一杯の袋を投げつけて「さっさと帰って来い!」なんていったら、それこそ慰謝料代わりに受け取られて離婚調停に入るぞ。イゼットさんおっかないんだから」


 今回は誠意=金じゃない希少なパターンである。


「だったらどうすればいいんだ?」


「プレゼントとか贈って機嫌を取るしかないんじゃないか? 報奨金もでてるわけだし。心を込めてプレゼントを選んで、ひたすら謝り続けるしかないだろ」


「それでいいのか?」


「しらん。でも気の利いた言葉なんて考えられないだろ?」


「お前が考えてくれると思って、期待しているんだが」


 ガーラントが期待のこもった目でオレを見る。無骨で熊みたいな大男に、子鹿みたいな目で見つめられても気持ち悪いんだが。


「オレは未婚にして童貞の15歳なんだけどな~」


「しってる」


「女騎士25人切りのガーラント様に、オレなんかが助言するなんてとても出来ませんよぅー」


 棒読みで言いながら、イヤラシく恐縮してみせるオレ。ガーラントが困った顔をした。


「今度、誰か紹介したほうがいいか?」


「お前と穴兄弟になんかなりたくないよ。メスゴリラみたいな女騎士なんて大ッキライだ。チクショーめ!」


 そもそもオレだって女騎士たちの救出に頑張ったんだ。

 策も考えたし偽兵の任務もこなした。しかも全裸の空腹で震えている女騎士たち25人に、服やら飯やらを供出するよう付近の村と交渉したのもオレだ。ケンプレス様は保証人としてサインしただけだし。


 にも関わらず、女騎士たちは全員、華々しくゴブリンたち1000人の集落に単独で切り込んだガーラントだけを褒め称えた。みんなガーラントにハートマークの視線を投げつける。んで、エッチィ関係になった。


 たしかにガーラントの武勇はすごいよ。

 でも1人くらいは「こんなにも裏方仕事を1人で完璧にこなすなんて。素敵、抱いて♡」となる女騎士様がいてもいいだろう。ちょっと頭が回る人なら、オレの凄さがわかるはずなんだ!

 なのに1人もいない! っていうか、ガーラントに文句をいうオレがむしろ疎まれてる。副団長のケンプレス様からは、もはや恨まれてる。

 

 どういうわけだよ!


「ぷーーい」


 オレはちょっとふてくされているのだ。


「真面目に考えてくれよ。イゼットがこのまま自家から戻って来なかったらどうするんだ」


「しらなーい」


「洗濯も食事も、誰がするんだ?」


「お前がやればー?」


 ぐずぐずと言うオレであった。


 だがいつまでもこうしていてもしかたがないのは事実。ベルレルレンの子どもたちの問題もある。

 長女ヴィヴィアンは5歳。

 長男バルグは3歳

 次女ビオレッタは2歳。

 3人とも両親の仲が悪いのは、教育上よくないのは明白だ。もし子供が不良にでもなったら、ガーラントの栄達に需要な影を落とす要因になりかねない。

 それは直接、オレの夢の実現にも悪影響を及ぼす。


 オレは覚悟を決めて、自分の嫉妬混じりの悪感情を吐き出すようにため息を付いた。


「……策って言っても、ろくなのは思いつかないぞ。なにしろオレはほんとに経験ないんだから」


「オレよりはマシだ」


 ちょっとだけやる気を出したオレに、すぐさま縋りつくガーラント。

 女性経験豊富なガーラントが、女性経験皆無のオレに頼り切る。不思議なものだが、悪い気はしない。


 知恵袋として、期待に応えるしかないだろう。


「本で読んだ知識だが、こういう時は子供がモノを言う」


「子供って、ヴィヴィアンとバルグとビオレッタか?」


「それ以外にいたら、今度こそイゼットさんと離婚になるぞ」


「いないいない。3人しかいない。ちゃんと外に出しているから大丈夫……だと思う」


 気になることが付け足されたが、今は気にする事はできない。


「子どもたち3人が帰りたがっているとか、なんとか理屈を捏ねろ」


「子供を盾にするのか?」


「そんな悪い言い方するな。それが双方のためなんだ。イゼットさんは浮気してるお前には強くでれるけど、無関係な子供には強くでれない。むしろ子供たちは被害者だからな。3人のために、折れて欲しいと謝り続けるんだ」


「なるほど」


「あくまでお前のためじゃなくって、子供のために許してほしいと言え。あともう金輪際浮気をしないと誓え」


「……自信ないんだが」


「それは絶対に口に出すな! 別にオレも信じてないし、イゼットさんも信じないだろう。それでもいい。とにかくはっきり口に出して言うことが重要なのだ。口先だけでもなんでもいいから、誠意を見せろ」


「苦手な分野だ。正直が俺のウリなんだが……」


「お前が正直に「今後もバンバン浮気するけど、生活が破綻しそうだし体面も悪いから、さっさと家に帰ってきてくれ」なんて言ったら、もう家族関係の修復は不可能だぞ」


「そんなこと思ってない!」


「じゃあどう思ってるんだ」


「むーーー。つまり俺は、その……みんな仲良く生きていきたいのだ」


「その『みんな』に、浮気相手を含めるから問題が発生するんだ。家族なんだから、まず家族を第一に考えろ。その他は二の次。でないとマジで離婚になるぞ」


「むむむ」


「今ならなんとかなる。実家に帰っただけで、離婚証明人が神殿から来てないから、イゼットさんも迎えに来てくれるのを待ってるに違いない。たぶん。ここで誠意を見せれば大丈夫だ」


「わかった。誠意ってのが、さっきのだな」


「そういうこと。プレゼントに、言葉に、子供。この3つが組み合わされば、だいたい大丈夫だろう」


「最近の本はすごいな。そんなことまで書いてあるのか」


「書いてるわけないだろ。オレの好きな本の分野は、権力でネチネチやるか暴力。殴って言うことをきかせてる」


「ぜんぜん違うじゃないか!」


「ラストは大体、不幸になってる。慰み者になった女が、男を背中から斬りつけるか毒殺するか、真実の愛を見つけて失踪してる。つまり権力と暴力をちらつかせるのは絶対NG。それ以外となれば、もう誠意しかない」


「なるほどな。よくわかった。頑張ってくる」


「ああ、イゼットさんと一緒に帰ってこいよ」


「おう」


 ガーラントは休暇をとって、イゼットさんの実家に旅立っていった。

 

 騎士の知恵袋ってのは、ほんとに多用な知識が必要になるものだ。

作者より

ダメダメモードのガーラントと、平常運転のニコル君。

仲いいなこいつら。

書いてて楽しい回でした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ