第17話 浮気がバレて実家に帰っちゃった奥さんに戻ってきてもらう、たったひとつの冴えたやり方
ニコル16歳 ガーラント23歳
ガーラントが、ゴブリンから助けだした女騎士様たちと浮気をして、イゼットさんがぶちきれて実家に帰ってしまった。
ガーラントは浮気というつもりは全くなかったそうだ。ただ命を預けた戦友同士の交流(夜の男女バージョン)であったとのこと。
なにそれ。超羨ましいんですけど!
もちろんそんな理屈、戦士以外には通用しないわけで。
とはいえイゼットさんも、豪快にして奔放でかつ脳筋なガーラントの奥様なのだから、ある程度は我慢しただろう。
ある程度、であったのなら。
相手が二桁以上で、しかも街に戻ってから一ヶ月たっても関係が続いていると知って、イゼットさんはぶち切れた。
いやでもイゼットさん。ガーラントの弁護をするわけじゃないけど、一ヶ月以上関係が続いてたわけじゃないんだよ。相手が2桁ってのは、具体的には25人もいたわけで。
一人一晩ずつ相手をするとしても、一ヶ月以上かかるわけで。
「……で、ここらへんをきちんと説明したら、むしろイゼットさんは怒るからな。気をつけろよ」
どういうわけか、オレはガーラントの相談を受けていた。
いや確かにオレはガーラントの知恵袋だから、この役どころはあっているんだけどさ。
浮気の調停って、騎士の知恵袋の仕事か?
「ならどうすればいいんだ?」
「とにかく平謝り。誠意をみせて、精一杯誤り続けろ」
「誠意とは?」
「金だ!」
古今東西、誠意が金以外の意味であったことは数少ない。
「か、金?」
「……冗談だ。金貨一杯の袋を投げつけて「さっさと帰って来い!」なんていったら、それこそ慰謝料代わりに受け取られて離婚調停に入るぞ。イゼットさんおっかないんだから」
今回は誠意=金じゃない希少なパターンである。
「だったらどうすればいいんだ?」
「プレゼントとか贈って機嫌を取るしかないんじゃないか? 報奨金もでてるわけだし。心を込めてプレゼントを選んで、ひたすら謝り続けるしかないだろ」
「それでいいのか?」
「しらん。でも気の利いた言葉なんて考えられないだろ?」
「お前が考えてくれると思って、期待しているんだが」
ガーラントが期待のこもった目でオレを見る。無骨で熊みたいな大男に、子鹿みたいな目で見つめられても気持ち悪いんだが。
「オレは未婚にして童貞の15歳なんだけどな~」
「しってる」
「女騎士25人切りのガーラント様に、オレなんかが助言するなんてとても出来ませんよぅー」
棒読みで言いながら、イヤラシく恐縮してみせるオレ。ガーラントが困った顔をした。
「今度、誰か紹介したほうがいいか?」
「お前と穴兄弟になんかなりたくないよ。メスゴリラみたいな女騎士なんて大ッキライだ。チクショーめ!」
そもそもオレだって女騎士たちの救出に頑張ったんだ。
策も考えたし偽兵の任務もこなした。しかも全裸の空腹で震えている女騎士たち25人に、服やら飯やらを供出するよう付近の村と交渉したのもオレだ。ケンプレス様は保証人としてサインしただけだし。
にも関わらず、女騎士たちは全員、華々しくゴブリンたち1000人の集落に単独で切り込んだガーラントだけを褒め称えた。みんなガーラントにハートマークの視線を投げつける。んで、エッチィ関係になった。
たしかにガーラントの武勇はすごいよ。
でも1人くらいは「こんなにも裏方仕事を1人で完璧にこなすなんて。素敵、抱いて♡」となる女騎士様がいてもいいだろう。ちょっと頭が回る人なら、オレの凄さがわかるはずなんだ!
なのに1人もいない! っていうか、ガーラントに文句をいうオレがむしろ疎まれてる。副団長のケンプレス様からは、もはや恨まれてる。
どういうわけだよ!
「ぷーーい」
オレはちょっとふてくされているのだ。
「真面目に考えてくれよ。イゼットがこのまま自家から戻って来なかったらどうするんだ」
「しらなーい」
「洗濯も食事も、誰がするんだ?」
「お前がやればー?」
ぐずぐずと言うオレであった。
だがいつまでもこうしていてもしかたがないのは事実。ベルレルレンの子どもたちの問題もある。
長女ヴィヴィアンは5歳。
長男バルグは3歳
次女ビオレッタは2歳。
3人とも両親の仲が悪いのは、教育上よくないのは明白だ。もし子供が不良にでもなったら、ガーラントの栄達に需要な影を落とす要因になりかねない。
それは直接、オレの夢の実現にも悪影響を及ぼす。
オレは覚悟を決めて、自分の嫉妬混じりの悪感情を吐き出すようにため息を付いた。
「……策って言っても、ろくなのは思いつかないぞ。なにしろオレはほんとに経験ないんだから」
「オレよりはマシだ」
ちょっとだけやる気を出したオレに、すぐさま縋りつくガーラント。
女性経験豊富なガーラントが、女性経験皆無のオレに頼り切る。不思議なものだが、悪い気はしない。
知恵袋として、期待に応えるしかないだろう。
「本で読んだ知識だが、こういう時は子供がモノを言う」
「子供って、ヴィヴィアンとバルグとビオレッタか?」
「それ以外にいたら、今度こそイゼットさんと離婚になるぞ」
「いないいない。3人しかいない。ちゃんと外に出しているから大丈夫……だと思う」
気になることが付け足されたが、今は気にする事はできない。
「子どもたち3人が帰りたがっているとか、なんとか理屈を捏ねろ」
「子供を盾にするのか?」
「そんな悪い言い方するな。それが双方のためなんだ。イゼットさんは浮気してるお前には強くでれるけど、無関係な子供には強くでれない。むしろ子供たちは被害者だからな。3人のために、折れて欲しいと謝り続けるんだ」
「なるほど」
「あくまでお前のためじゃなくって、子供のために許してほしいと言え。あともう金輪際浮気をしないと誓え」
「……自信ないんだが」
「それは絶対に口に出すな! 別にオレも信じてないし、イゼットさんも信じないだろう。それでもいい。とにかくはっきり口に出して言うことが重要なのだ。口先だけでもなんでもいいから、誠意を見せろ」
「苦手な分野だ。正直が俺のウリなんだが……」
「お前が正直に「今後もバンバン浮気するけど、生活が破綻しそうだし体面も悪いから、さっさと家に帰ってきてくれ」なんて言ったら、もう家族関係の修復は不可能だぞ」
「そんなこと思ってない!」
「じゃあどう思ってるんだ」
「むーーー。つまり俺は、その……みんな仲良く生きていきたいのだ」
「その『みんな』に、浮気相手を含めるから問題が発生するんだ。家族なんだから、まず家族を第一に考えろ。その他は二の次。でないとマジで離婚になるぞ」
「むむむ」
「今ならなんとかなる。実家に帰っただけで、離婚証明人が神殿から来てないから、イゼットさんも迎えに来てくれるのを待ってるに違いない。たぶん。ここで誠意を見せれば大丈夫だ」
「わかった。誠意ってのが、さっきのだな」
「そういうこと。プレゼントに、言葉に、子供。この3つが組み合わされば、だいたい大丈夫だろう」
「最近の本はすごいな。そんなことまで書いてあるのか」
「書いてるわけないだろ。オレの好きな本の分野は、権力でネチネチやるか暴力。殴って言うことをきかせてる」
「ぜんぜん違うじゃないか!」
「ラストは大体、不幸になってる。慰み者になった女が、男を背中から斬りつけるか毒殺するか、真実の愛を見つけて失踪してる。つまり権力と暴力をちらつかせるのは絶対NG。それ以外となれば、もう誠意しかない」
「なるほどな。よくわかった。頑張ってくる」
「ああ、イゼットさんと一緒に帰ってこいよ」
「おう」
ガーラントは休暇をとって、イゼットさんの実家に旅立っていった。
騎士の知恵袋ってのは、ほんとに多用な知識が必要になるものだ。
作者より
ダメダメモードのガーラントと、平常運転のニコル君。
仲いいなこいつら。
書いてて楽しい回でした。