第13話 騎士は仲間を見捨てない! らしいですよ
ニコル15歳 ガーラント22歳
ガーラントとは合流地点を決めておいた。
念のため、という意味で決めておいたわけではない。ガーラントはすごく馬鹿なので、仲間の騎士団とはぐれる可能性があったのだ。
なにしろ学校にいた頃は、植物採集レベルで立ち入る森で迷子になり、鹿を狩ってきたほどの脳筋だ。
そのため非常によく目立つ一本杉を、ガーラントとオレははぐれた時の合流地点に決めておいた。
まさか壮絶な負け戦になるとは思っていなかった。オレは命からがらゴブリンから逃げ延びて、一本杉のそばで隠れていた。
ガーラントは大丈夫だろうか?
心配になる。森が燃えていた。いくら強いガーラントでも呼吸ができなければ死ぬしかない。火には人間は勝てない。
でもオレは待つしかなかった。
オレはガーラントに賭けているのだ。いや、もはや賭けているなんて言葉ではない。一心同体だ。特に経済面において。
ガーラントはオレの借金を連帯保証人として背負ってくれた。このままガーラントが帰らなかったら、その借金は遺族のイゼットさんにいってしまう。小さい子供が3人もいるのに。
なんとしてでもガーラントとオレは無事に帰らなくてはならない。手柄とかはまたあとで立てればいい。とにかく生きることが最優先。
オレは杉の下で待ち続けた。
そして深夜。
木が揺れた。ゴブリンに見つからないために、焚き木をおこせない。そのままでは野生の獣に襲われるので、オレは杉の枝の上で落ちないようにしていた。
つまり寝ていない。体力は消耗するが、どうしようもない。とにかく限界まで待つつもりでいたのだ。
木が揺れ、オレは息を殺した。ゴブリンが来たかもしれないと、オレは緊張する。
「ニコル、いるか!」
ガーラントの声だった。オレは安堵して、その瞬間に枝から足を滑らせて地面に落ちた。
ガーラントはひどく驚いた様子だったが、とにかく再会を喜んだ。
騎士団の方も酷いありさまであったようだ。
森に罠がかけられて、火攻めにあったそうだ。ガーラントは木々を薙ぎ払って、どうにか逃げてきたらしい。
「負け戦だな。手柄どころじゃない」
でも生きていればなんとでもなる。
それに負けたのはあくまで『ご婦人のための長盾』騎士団だ。ガーラントは元々『銀の切っ先』騎士団なので関係ない。更に付け加えると、この戦いは他国への援軍だ。
総合的に考えて、負けたところで咎めはないだろう。勝っても得るものは少ないが、負けても咎めは少ない。そういう戦いだ。
「とにかく無事でよかった。夜明けを待って帰えろう」
ザーン国への帰国を薦めるオレに、ガーラントは首を横に振った。
「それは駄目だ。捕虜になった騎士がいる」
「ゴブリンは捕虜なんてとらんだろう。見つけ次第皆殺しになるぞ」
「取ったんだ。俺はそれを見た。捨て置けない」
なんとガーラントは、捕虜を奪回に行くつもりだそうだ。
「いやいやいや。無茶だろう。話を聞くと、ゴブリンにはろくすっぽ打撃を与えてないじゃないか。つまりゴブリン軍の1000人は、まるまる残っているぞ」
「俺は強い。ゴブリンなんかが何人いたところで、絶対に負けない」
「1対1000だぞ。冷静になれ」
「ニコル……絶対に無理なのか?」
「なに?」
「お前は俺の知恵袋じゃないのか? 無理なものを無理だというだけの知恵袋を、俺は必要としないぞ。そんなのバカな俺となんら変わらないじゃないか」
「む、ぐ」
ガーラントのやつ。バカのくせに、痛いところをつくじゃないか。
「お前だって。誰でもできることをしかしない騎士に、ガキの時から仕えているわけじゃないだろう」
その通りだ。
ガーラントなら他の騎士に出来ないことでも出来ると信じたからこそ、オレはあいつに付いてきた。尋常ならざる力をもっていると信じたからこそ、オレはガーラントに賭けたのだ。
……ということは。ガーラントと対等であるオレも、並の知恵者であってはならないということか。
「俺は強い。お前は賢い。力を合わせればなんでも出来る。そうだろう?」
「むむ」
そこまで言われては、策を練らない訳にはいかない。
オレはガーラントに、なるべく詳しい情報を聞いた。
火の魔法の大きさからいって、魔法の腕前は大したことない。でかい音を立てて、火事を起こしただけだ。
森人ではないだろう。森人の魔法を覚えた犬人か? 伏兵へのゴブリンに合図する意味もあったのだろう。
豚人や蜥蜴人や鬼人といった、強い亜人もいない。
そして捕虜に取られた騎士の話を聞く。
「……なるほど、捕虜ってのはそういうことか」
「見捨てるわけにはいかんだろう」
「そうだな。そういうことなら、策はある」
オレは1人で1000人を倒す策を、ガーラントに授けた。リスキーだが、仕方がない。
ここをどうにかすれば、一気に大手柄だ。