第12話 今回は楽勝。……そう思っていた時もオレにはありました
ニコル15歳 ガーラント22歳
ゴブリンたちを見つけたらしく、戦闘準備に入った。
ガーラントは板金の鎧を着込んでバカでかいメイスを手にもつ。オレは鎧を着込むお手伝いと、保存食や水などガーラントの荷物を整えた。
「しばらくお別れだ。ゴブリンを100人は打ち殺してくるぜ」
「頼んだぞ」
従士のオレは、ガーラントについていかない。ちょっと離れたところで、戦闘を避けて待機だ。
ガーラントンを含む『ご婦人のための長盾』騎士団は、ぞろぞろと歩いてゴブリンのすみかへと向かった。
その数100人。ゴブリンは1000人ほどだ。戦力比1:10。
相手がゴブリンで、こっちが騎士ならば楽勝だろう。
オレは丘の上で、騎士団を見送った。
周りにはオレと同じように、仕える騎士を見送る従士たちが山ほどいる。
オレは岩の上に腰を下ろして、のんびりと空を眺めた。
「……平和だな」
周りの従士たちも似たような感じだ。思い思いに時間を潰している。騎士団がゴブリンに負けるなんて欠片も考えていない。それはありえないのだ。
「でもこっちが襲われたら大変だな」
オレはつぶやいた。そんなオレの言葉が聞こえたらしく、おっさんがオレに答える。
「ゴブリンが従士を襲うってことか? ははは、それは無理だよ」
「なんで? 確かに卑怯だけど、ゴブリンはそんなの気にしないんじゃないか?」
「それはそうだが、そのためにはゴブリンは騎士団に見つからないように迂回しなくちゃならなん。そんな知恵がゴブリンにあるか?」
「ないな」
あるわけがない。敵がゴブリンだけならば。
その時、轟音が響いた。
大気が震え、鼓膜を震わす。
「何だ!?」
誰かが叫んだ。オレはこれがなんの音だか知っている。学校の課外授業で聞き覚えがある。
これは魔法だ。爆発の魔法をだけかが使ったんだ。
騎士団に魔法使いはいない。いるとしたら、敵だ。
ゴブリンが魔法を使えるわけがない。
ということは、ゴブリンを指揮している者がいるのだ。
つまりゴブリンが策をつかう可能性がある。
先ほどの前提が崩れた。オレは右往左往する従士たちをよそに、荷物を背負いつつ周囲を警戒する。
草原の向こう。茂っている木々の隙間から、光るものが見えた。
剣だ! 伏兵だ!
「敵だーーー! ゴブリンがこっちを狙ってるぞ!」
オレはそう叫ぶと同時に走りだした。ゴブリンの伏兵がくる逆方向、ではなく90度別の方向だ。
伏兵をおいているのだとしたら、逆サイドにも置いて挟み撃ちが一番効果的。それを避けるには、ゴブリンを横に見ながら遁走するしかない。
こっちにも伏兵を置かれていたらアウトだが、さすがに3方囲むことは兵力的に厳しいだろう。
オレはそう信じて、走り続けた。
従士たちはゴブリンと逆方向に逃げていく。そして……岩場に隠れていた別のゴブリンにやられた。
やっぱり伏兵がいたのだ。従士たちはもうぼろぼろだ。
つまり騎士団は生き残ったところで、活動を大きく制限されることになる。
保存食がなくなった段階で飢え始めるだろう。食料確保も調理も火の確保も、騎士はできないのだ。
ただひたすら強い、それ以外に何も出来ないのが騎士である。
爆音がまた響く。
鎧を着た騎士を殺せるほどの火力は、そうそう滅多にはない。だが森のなかでは気が焼ける。煙にまかれては、人間は生きられない。
「くそ、手柄を立てるはずが。完全に負け戦だ……」
オレは火の手が上がる森と、従士を襲うゴブリンを遠くで見ていた。
オレにはどうしようもない。
戦闘編スタート。負け戦です。
戦闘力3か、ゴミめ。そんな一般ピーポーなニコルくんは、基本戦闘には出てきません。出てくる場合は負けてる時の撤退戦か、もしくは不意打ちされる側。
今回はその両方ですね。