第11話 童貞を捨てるには最高の日
ニコル15歳 ガーラント22歳
オレたちは『ご婦人のための長盾』騎士団という、とても微妙な名称の騎士団にくっついてゴブリン退治にやってきた。
しかも他国の援軍。苦労するのに報いは少なめの、いわば貧乏くじだ。
でもここいらでガーラントに手柄を立ててもらわないと、オレは金欠でいよいよ困ってしまう。気合を入れていこう。従士(騎士に付き従うお手伝いさん)の身分だけど。
戦場は久しぶりだ。
12歳の時に、学校に行かせてくれるという親父の甘言にのって、死体あさりをしたことを思い出す。
死体あさりとは、戦場で死んだ戦士や騎士の武装を盗むことだ。
ゾンビに襲われて命からがら逃げてきた。しかも親父はそれで儲けた金をすべて畑を耕すための牛を買う金に使い込んでしまい、オレには一銭たりともくれなかった。
学生になる『許可』はくれたが、学費もよこせといったオレをぶん殴って黙らせた。
嫌な思い出だ。
その時の学費は、利息付きの負債となって卒業後2年もたったオレを今も苦しめている。こっちは早いとこ思い出に変えたい。
「ニコルは戦場は初めてじゃないのか?」
ガーラントはもう戦場には馴れているらしい。こっちの戦場はガチの殺し合いだろう。
「生きてる人間がいる戦場は初めてだ」
「ゾンビ退治か?」
供養されなかった死体や、魔術的に呼び起こされた死体は、ゾンビとなって近隣の村を襲ったりすることがある。
オークのゾンビに襲われたことはあるが、オレの目的は退治ではなかった。
「いや、死体あさりだ」
死体あさりは騎士がもっとも嫌う職業だ。
万事おおらかなガーラントも、さすがにちょっと嫌な顔をした。
「親父の言いつけでな。仕方がなかった」
補足をする。望んでやったと思われたら、オレとガーラントとの友情にヒビが入りかねない。
「その親父は叩き殺すべきだな」
「オレもよくそう思う」
ガーラントとここまでピッタリ意見が合うのは久しぶりだ。やっぱりあの親父はどこかで殺さないと。
そんなわけでおよそ100人の騎士団(+従士たちたくさん)は、何度かのキャンプを経てゴブリンが群れなす戦地へと向かった。
この戦いでガーラントに手柄を立ててもらう。それはオレの第一の目標だ。
でも2個目の目標があった。
それは、童貞をなくすこと!
騎士団となれば気の荒い男たちの集団。その荒ぶる心を鎮めるには女が一番。そういうわけで、騎士団が戦場につくまでには、娼婦を載せたキャラバンが来るのが一般的だ。
オレはその娼婦様に、14年間も大切にとっておいた童貞を奪ってもらおうと思っていた。
旅の恥はかき捨て。その場の勢い。周りもそうだからオレもそうする。いろいろな理由がオレの童貞喪失を後押ししてくれるはず。
いよし、やるぞおお!
と思っていたにも関わらず、娼婦のキャラバンはいくら待ってもちっとも来ない。商売キャラバンはいくつも来るのに、夜のお仕事のキャラバンが来ない。
一体どういうことだ?
こんなことで荒ぶる騎士たちが、近隣の村を襲ったらどうするんだ!
お娼婦様たち早くきてー。プリーズ!
出発から一週間後。
溜まりに溜まったオレは、ついにガーラントに聞いてみた。
「娼婦のキャラバン? こないぞ」
なんですとぉ!?
どういうことだよ?
「『ご婦人のための長盾』騎士団は、戦場における慰安婦を一切認めていない。処罰されるのが嫌で、娼婦のキャラバンはよってこないんだ」
「な、え?」
「『ご婦人のための』だぞ。ご婦人のため」
ガーラントに繰り返し言われて、ようやく分かった。
たしかに、「『ご婦人のための長盾』が、ご婦人を金で犯しまくってた問題おおありだ。
ガーラントのいる『銀の切っ先』騎士団が、先頭に立たずに後方支援に回るくらい違和感がある。
「『ご婦人のための長盾』騎士団は、順法精神の高さが売りだ。騎士団における女子率も50%近いからな」
なるほど。つまり遵法の精神で略奪とかをしないから、他国に派遣されてもその地で野盗化しない、と。
しかも強くないから、国としては戦力の温存になる。いいコトずくめだな。
「どうりで騎士団なのに女子が多いとおもってた。てっきり女はみんな従士で、騎士が女連れで戦場に来ているかと思ってたのに」
「そんな不埒な騎士がいるか」
「でもガーラントって、ぶっちゃけすごい女好きだよな。我慢とか、できるのか?」
「これから戦争になるんだぞ。気が高ぶって、女どころじゃない。女に出す『気』なんか一欠片もない」
おお、立派な騎士だ。童貞捨てる気満々だった自分が、ちょっとだけ恥ずかしいぞ。
「それに出発前にイゼットとたくさんやったからな。一晩で10回は搾り取られたから、しばらく女は見なくていい」
「……てめ、出発前の日の夕食後に、オレと子どもたち残して2人で出かけたのはそういうことかよ! ヴィヴィアンが泣きじゃくって大変だったんだぞ」
「オレもイゼットをヒイヒイ泣かせた。おあいこだな」
あいこなわけがあるかい! ふざけやがって。くそーーー。……オレもエッチさせてくれる彼女か奥さんが欲しいなぁ。
「そんなに女が欲しかったら、そこら中にたくさんいるじゃないか。自由恋愛なら問題ないぞ」
ガーラントが言った。
確かに、きれいなお姉さんはたくさんいる。腹筋割れてて、腕がオレの足よりふとそうなお姉さまがたがたくさん。
従軍中の騎士団には、オレが100人いても勝てそうもないお姉さまたち(全員騎士)が大勢いた。
身体を拭くために半裸や全裸になっている人もちょくちょくいる。男が目の前にいようがお構いなしだ。
顔はきれいな人が多いけど、なんというか全体的に雄度が高すぎ。
女子力の欠片も見えない。あとみんなオレより背が高いし。
「お、おっぱいだけ。目に焼き付けとく」
食生活が良い上に鍛えているせいか、形の良いおっぱいが多かった。
「ニコルぅ……」
ひどく情けなものを見る目で、ガーラントがオレの肩を叩いた。
「うっさい! オレは知的な女が好きなんだよ。お前みたいな脳筋な奴は、いくら顔が綺麗でも嫌なの」
「従軍娼婦ってのは知的なのか?」
バカのくせに揚げ足を取るな!
民法を暗唱できる娼婦だって、いたったおかしくないだろうが! ほんとにいたら、絶対相手したくないけど。法律を盾に認知とか迫られそうだし。
ああ、くそぉ~。
結局童貞を捨てることは出来そうもない。
オレは明晰な頭脳で騎士のお姉さまたちの半裸をなるべく暗記して、のちの(一人)性生活の充実に努めることにした。