第10話 戦場にいこう!
ニコル15歳 ガーラント22歳
ガーラントのところにきて2年。ついに手柄を立てる好機が訪れた!
といっても戦争が起こったわけではない。
同盟国がゴブリンに攻められ、援軍を要請してきたのだ。援軍だから勝ったところで領地はないし、戦地での略奪なんて絶対ご法度。
得れるものは同盟国からの謝礼金だけ。みんなで分けるから、経費を賄うだけで精一杯だ。
つまり人気のない仕事だ。なるべく働きたくない人、金が好きな人は、そもそも戦いが嫌いな人は避ける仕事だ。
でもガーラントには選択肢はない。
「戦いだ! 戦争だ戦争だぁ。手柄たてるぞおお!」
ガーラントの士気も高かった。そもそも戦うことが大好きなガーラントと、ここで手柄を立てることで将来に繋げたいオレの思惑は一致。
ガーラントは援軍に志願して参加することになった。
国内の主戦力である『銀の切っ先』騎士団は参加しない。軍に派遣されるのは『ご婦人のための長盾』騎士団である。
ガーラントは希望を出して、一時的に『ご婦人のための長盾』騎士団に入ることになった。
ガーラントの出発の前日。みんなでご飯を食べた。
「しっかし『ご婦人のための長盾』騎士団なんて、こう言っちゃなんだけど、ずいぶん弱そうな騎士団だな」
オレがガーラントに言った。
「よわそーよわそー、あはははは」
ヴィヴィアンも大笑いする。最近、4歳のヴィヴィアンはオレのいうことに木霊のように追随して、大笑いするのが流行っている。
「そう言うな。オレだってイヤなんだ。でもこの名前を気に入っている人もいる」
「へぇ、どんな奴?」
「ご婦人だ」
ふーーんと思い、オレはこの家の奥方であるイゼットさんの方を見てみた。この場のご婦人は、イゼットさんだけだ。
「ご婦人のため、とわざわざ銘打たれると、悪い気はしないわね」
奥方のイゼットさんがすました顔で言う。
「とにかく明日から暫く留守にするから。家は任せたぞ」
「はい。お任せ下さい、貴方」
イゼットさんがしっかりとした顔で頷いた。ちょくちょくキツメの冗談を言うイゼットさんだけど、締めるところはきっちり締める。
「えーーー。パパ、明日からお出かけなの?」
「ああ、おみやげ買ってくるから、いい子にしてろよ」
「はーい、おみやげ買ってくれるならヴィヴィはいい子にしてる。ニコルと遊んでるから」
ヴィヴィアンはオレが出かけるとはかけらも思っていないようだ。
「ヴィヴィアン。オレも行くんだぞ」
「えーーー!? ダメだよ、ニコルじゃあ死んじゃうよ!」
傷つくことをはっきり言うな。言っとくけど、死なないから。
というか、騎士のガーラントを1人で行かせるわけに絶対にいかない。身の回りのことはガーラントは何も出来ないんだから。騎士ってのは、ただ敵をぶっ殺すことだけに特化した戦闘マシーンなんだ。
従士としてオレがついてかないと、ガーラントは戦いに勝ってもどっかで迷子になるか餓死しちゃう。
「ヴィヴィ。オレは別に戦場には行かないよ。ただガーラントについてくだけだ」
「だーーめーーー! パパは、1人で平気だよね? ニコルはお家にいても平気でしょ? パパは強いもん。ニコルは弱いから、つれてったら死んじゃうよ!」
ヴィヴィアンがちょっと気になることを言ってきた。
たしかに騎士の従士を狙われると、騎士はその戦闘能力を維持できなくなる。
つまり弱い従士を狙う戦略ってのはありだ。
騎士のいる戦場から少し離れたところには、かならず従士たちが駐屯している。
ここを叩くのは、騎士団をつぶすよりもずっと楽だ。
卑怯すぎて誰もやらないが、いつか誰かがやるかもしれない。
猛烈に卑怯な敵を相手するときには気をつけよう。
「ヴィヴィアン、我儘言わないの」
イゼットさんがたしなめても、ヴィヴィアンはちっとも利かない。
「やーーだーーー! じゃあヴィヴィアンも一緒にいく。ヴィヴィアンの方がニコルよりも強いもん」
ヴィヴィアンの猛烈なだだっこは、その日の遅くまで続いた。少しはおとなしくなったと思ったらこれだ。
ガーラントの子どもたちは、ほんとに元気が良すぎる。
その夜。寝ているオレのベットにヴィヴィアンが忍び込んできた。
「ぶーー、ニコルのばーーか」
なんの意味があるのかわからないが、ヴィヴィアンは泣きはらした赤い目をしながら、ずっとオレに文句を言い続けた。
オレ、明日早いんだけど。
とにかく手をつないで一緒に寝た。
初めてベットに忍び込んできてくれた異性が、4歳児の幼女か。しかもオシメまで交換したことがある。はぁぁぁぁ落ち込むなぁ。
明日から初めての戦地だ。さっさと寝よう。
作者です。
このまま流れるようにヴィヴィアンとのエロシーンに入ったら、1000%ノクターン行きですが、そういうことはないです。ロリとかペドとか、そういう展開ないです。お風呂シーンとかもないよ。
ヴィヴィアンをニコル大好きっ子にしすぎてる気がしないでもないですが、まあ良いでしょ。主人公補正ということで。